U-Maの音楽館

AURORA


AURORA(アウロラ) イタリア

 1919年、トリノで創業した老舗メーカー。AURORAとは黎明という意味で、文字通りイタリア万年筆の黎明期から現在に続くメーカーです。機能性の高さとデザイン性の調和をブランドコンセプトとし、伝統的な金細工職人を積極的に採用したり、他方では建築家やカーデザイナー等、他分野で活躍するデザイナーを起用し、万年筆に革新的なデザインを取り込んできたメーカーです。また、機能的にもリザーブタンク付きピストン吸入方式を考案するなど、万年筆としての使いやすさも追求しています。イタリアらしいデザイン性の高さを持ち、なおかつ優れた性能の筆記具を提供しています。ニブを含め自社工場で生産する、数少ないメーカーでもあります。アウロラの万年筆は海外メーカーとしては字幅が細く、同じ字幅表記であれば国産よりもやや太い程度です。イタリア製としては、割と品質が一定しているとも言われています。


OPTIMA(オプティマ)
14Kニブ、ネジ式キャップ、リザーブタンク付きピストン吸入式

 88(オタントット)と共にアウロラを代表するモデルであるオプティマは、1930年代の欧州でベストセラーとなったモデルを復刻したもの。マーブル模様の軸はアウロロイドと呼ばれるアウロラ独特の樹脂をくり抜いた物で、内部にはリザーブタンク付きピストン吸入器が仕込まれています。そして胴軸の表面には昔の刻印が施されています。キャップリングには、古代ローマ帝国時代のグレカ・パターンが施されていますが、ラーメン模様と揶揄される事も。確かにどんぶりに描かれている模様に似ており、これが嫌だという意見も多いです。この模様は太いリングの中央にデカデカと刻印されていたのですが、マイナーチェンジ後は両端に小さく刻印される仕様に変わっています。軸径は14mmと結構太めですが、収納時の長さは127mmしかなく、セーラー万年筆のプロフェッショナルギアをさらに太くした感じ。このクラスは大きな軸を誇示するようなデザインも多い中、オプティマは胸ポケットへの収まりの良いサイズとなっており、独特です。ただし、ネジ山から先端にかけては割と長く、キャップを外した時の長さは十分にあり、キャップを挿さなくても書けますし、重量も22g程度と軽いので、キャップを挿して長さを足して書いても良いでしょう。


        アウロラ オプティマ ブルーCT 万年筆 細字

 インクの充填方式は、アウロラ独特のリザーブタンク機構付ピストン吸入式。筆記中にインクが切れても、尻軸を回してピストンを押し下げると、予備タンクからインクが供給され、A4用紙で2〜3枚程度は書けるという仕組みですが、反面、洗浄が面倒くさくなるというマイナス面も。インク窓があるのですから、この機能は不要と言えば不要。ここも賛否の分かれるところです。最初に入れたインクをずっと使い続けるつもりであれば良いのですが、インクを別の色に変更するのには難儀するかもしれません。

 さらにもう一つ賛否の分かれるところがその書き味。ドイツのニブ専門メーカーにニブの生産を委託するメーカーが多い中、アウロラは自社でニブを生産しており、書き味はイタリアの他メーカーとは一味違う。硬めでシャリシャリとした独特な感触がアウロラの特徴で、私個人としては好きですが、万年筆はヌラヌラとした感触が良いんだよという方々にはあまり受け入れられないかと思います。私の場合、海外の万年筆で書くと、字が汚くなる事が多いのですが、アウロラの万年筆は割と綺麗に書けます。何故かというと、適度な滑り抵抗があるため、線を思い通りにぴたっと止めやすいのです。インクフローは絞り気味なので、パーカーやペリカンのインクを入れると掠れやすくなるようですので、純正インクか、フローの良いインクを入れると良いでしょう。

 迷ったのは色ですね。バーガンディ(銀色装飾)がもう少し明るい色なら文句なしに選んだでしょう。グリーン(金色装飾)は良い色なのですが、金色が目立ちすぎてどうも好きになれない。一番良い色だと思ったのはレッド(銀色装飾)なのですが、インクを何色にしようか迷う。ということで銀色装飾のブルーCTで、程度の良いのがあったので、それを中古で購入しました。ブルーのみ金色装飾と銀色装飾がありますが、私の場合、軸色が青なら装飾は銀の方が好きですし、グリーンと同じで金色は目立ちすぎな気がします。特にこの万年筆はリングが極太なので、金がすごく目立ってしまうのです。

 注意すべき点として挙げられるのが、アウロラの吸入式万年筆は、インク窓の部分が割れる事があるという点。そういう情報がインターネットなどで散見されますが、私はキャップを強く締めすぎているのが原因と考えています。そもそもこの万年筆はインク窓よりも先端側にネジ山が切ってあり、締めすぎるとインク窓に強いストレスがかかることは容易に想像できます。キャップの締めすぎはまた、キャップのネジ山を潰す事にもなりそうです。キャップはアウロロイド樹脂にネジ山を切っていますが、この樹脂は柔らかく、強く締めすぎると潰れる可能性があり、いずれキャップが空回りする羽目になってしまいますから、締めすぎには注意した方がよいでしょう。また、どの万年筆にも言えるのですが、インク窓付きの万年筆は落として衝撃を加えるのも割れの原因となりますから、特に注意すべきです。

 このように書き味や外観面で賛否両論があったり、取り扱いに注意すべき物ですから、積極的にお勧めはしません。でも、私にとっては、手にしてすぐにお気に入りとなった万年筆です。少なくともしっかりと試し書きをして購入すべき物でしょう。万年筆はそういう物ですが、オプティマについては特にそう思います。気に入る人はすごく気に入るでしょうね。


IPSILON LACQUER(イプシロン ラッカー) 生産終了品
14Kニブ、嵌合式キャップ、両用式

 アウロラの代表モデルと言えば、かつてのベストセラーを復刻した88(オタントット)やオプティマ。正統派の88とアウロロイド(アウロラ独特の樹脂)製の美しい軸色が魅力のオプティマという感じですが、どちらもなかなか高価な品。ということで、私は比較的手頃なイプシロンを選択しました。イプシロンはアウロラ製万年筆の書きやすさを、若い世代や初めて万年筆を使う方にも知ってもらうために開発したモデルで、ベースモデルは樹脂製の軸とキャップにステンレスニブという仕様です。太さや長さは中庸で、キャップはややふっくらして先端が丸くなっているのに対し、胴軸はすらっとしてペン尻の部分がほぼ平ら。キャップはバランス型、胴軸はベスト型という、ちょっと面白いデザイン。そしてクリップはよく見るとY字を象っており、イエローやオレンジなど、カラフルな色も揃えるなど、なかなか洒落ています。

 イプシロン ラッカーはイプシロンの上位版で、金属軸にラッカー塗装仕上げ、ニブは小さいながらも14Kです。金属軸になるため、イプシロンの約22gに対し、イプシロン ラッカーは約31gと重くなります。ただし、バランスは良いので、むしろ適度な重量感と言えるでしょう。ただ、残念ながらラッカーは現在生産されていないようです。ただ、2023年のカタログには、イプシロンデラックスという14Kニブの万年筆がラインナップされ、価格はこの当時のイプシロンラッカーと同じ。軸は樹脂ですからこれよりも軽く、イプシロンとほぼ同等です。


        アウロラ イプシロン ラッカー グレイ 万年筆 極細字

 ニブは14Kですが、アウロラは金ペンであっても硬い傾向があり、なおかつこのシリーズはニブが小さいため、余計に硬く感じます。しなりはほとんど無く、紙当たりも硬く、ややシャリシャリした感触です。アウロラの書き味は全般的にややシャリシャリしているので、好き嫌いが割とはっきり別れるようですが、私は好きな感触です。日本語も書きやすいですし、私のは極細字なので、5mm罫のノートに漢字を書いても全然平気。細字好きにな方にはお勧めできる品だと思います。ただ、私は重いのが好きなのと、軸の仕上げの良さや金ニブということでラッカーを選びましたが、アウロラのニブはそもそも硬いので、ステンレスニブのイプシロンでも良いかもしれません。イプシロンのステンレスニブも書いたことはありますが、割と書きやすかったと記憶しております。若い女性ならイプシロンのイエローやオレンジも、オシャレで良いかもしれませんね。

 そもそも初心者向けの仕様なので、ペンを立て気味にしても筆圧が高めでも問題なく使えます(さすがにゴリゴリ押しつけて書くのはダメでしょうが)。