U-Maの音楽館

ボールペンの選び方


 ボールペンは現在、最も広く使われている筆記具でしょう。また、役所によっては、ボールペンでないとダメ(ローラーボールや万年筆はサインペン扱い)という所もあるようです。なお、日本では油性・水性・ゲルインクをまとめてボールペンと呼ぶメーカーが多いのですが、ここでは油性ボールペンについてのみ書きます。ローラーボール(水性ボールペンやゲルインクボールペン)はそもそも嫌いなので、評価はいたしかねます。

 ボールペンは耐水性で滲みが無く、耐光性も良好で容易には消せないことから、長く保管する書類を書くのには最も適した筆記具と言えるでしょう。その反面、インクの色が鮮やかでなく、感触が重く、長く書いていると疲れるといった欠点も有しています。ちなみに最近流行の低粘性油性インクは、長期保管すると色素と油が分離してきて、字が滲むという情報がネット上で散見されるため、公式な書類を書くのは避けた方が良いのかもしれません。また、今大人気の消せるボールペン(ジェルインクなので分類としてはローラーボール)も、公式な物を書くのは以ての外です。個人的な見解ですが、例の消せるボールペンは、職場には持ち込まない方が良いと思います。基本的に書き間違えた時は二重線で消して訂正印を押すのが正しいやり方。自分用のメモなら良いでしょうが、以前京都府かどこかで公文書から消せるボールペンでサインした物が大量に見つかったなんてこともありましたし、ついうっかり使ってしまうこともあるでしょう。そういったことを避けるため、私は持ち込み禁止にしても良いと思っているのです。

 万年筆の場合はニブの材質や形状、軸の材質や表面処理などにより、価格も異なりますが、書き味も大きく違ってきます。ところがボールペンの場合は、3000円のボールペンと5万円のボールペンで、中に入っている替え芯は同じ・・なんてこともあります。では、替え芯が同じなら書き味は一緒? と言われると、それは少々違います。私はシェーファーを何本も持っていますが、センチネルよりもアジオ、アジオよりもインテンシティの方が、書き味は好きです。ただし、インテンシティは立ったまま手帳書きするのには重すぎるので、持ち歩き用にはアジオやプレリュード ミニを使っています。これらは全部同じ替え芯なのですが、軸の形状や重量により、書き味は微妙に変わります。ただし、まるで違うというほど劇的に変わりはしません。

 そしてボールペンは、国産の100円のボールペンもずいぶん高性能で、機能的にはこれで何の問題も無いと言えばそれまでです。高級ボールペンなんて見た目や値段が高級なだけで、書き味はジェットストリームが一番・・という方もおりますし、しかも実に的確なご意見なので反論のしようもありません。好き嫌いはありますが(私は嫌いですが)、ジェットストリームやビクーニャは非常に滑らかです。高級ボールペンはもちろん、書き味が抜群に優れた物も多くありますが、かなりの部分は見せる物です。やり手のビジネスマンが100円のボールペンを使っているのと、高級そうなボールペンを使っているのとでは、イメージが違って見える。そういう世界です(ただ、あまりに豪華な物を使っていると、”儲かってるね〜”などと嫌味を言われる可能性もあり、なかなかさじ加減は難しいです)。また、商談相手にサインを求める時に差し出すペンは、それ相応の物を渡すべきだと思います。これには貴方に相応しいペンを用意しましたという意味があります。勤め先の部署の室長はモンブラン ボエムを使っていますが、「商談相手にサインを求めるのに100円ボールペンって訳にはいかないでしょう」と仰っており、私と同じ考えです。私はそういうシチュエーションはほとんど無いですが、覚え書き等にサインをする際にはやはりシェーファー レガシー ヘリテージを使います。別に相手が見ているわけではないですが、一種の気合いですかね。

 そもそも家庭用であれば高級ボールペンなんかそんなに必要ない(何本か持っている私が言うのもなんですが)。先述の通り国産の安くて良いボールペンがいくらでもあるのですから、どうしてもお気に入りの高級ボールペンで書きたいというのでなければ、それで十分なのです。なのでここからの話は外で使うことを前提としています。

 先ずボールペンの方式ですが、大きく分けるとキャップ式、ノック式、キャップスライド式、ツイスト式があります。キャップ式は文字通りキャップを抜き差しして使うタイプで、証券用のボールペンは主にこの形式ですが、高級品としては少数派です。ノック式は普及品のノック式と基本的には同じ方式です。キャップスライド式はノックボタンの無いノック式で、胴軸(先端側)を握って天冠部分をノックすると、キャップチューブ全体がスライドして芯を出し入れします。ノックボタンがない分デザインとしてはすっきりしますが、どうしても軸がぶれるという欠点があります。ツイスト式は軸を回して芯を出し入れする方式で、高級品はこれを採用することが多いです。ツイスト式が多く採用される理由ですが、一説にはノックする音が気になるからといわれていますが、ボールペンは会議や商談の間、芯を出しっぱなしでも乾く心配はないので、開始時に芯を出し、終了時に収納すればよいわけですから、別にノックの音は気になりません。手持ちぶさたでカチカチやられると耳障りですが、やや説得力に欠けます。ツイスト式はノックボタンが無く、キャップチューブを押しても芯が出ないのがポイントで、私はスーツやシャツの胸ポケットに挿している際に、服を汚さないためだと思います。特に白いシャツの胸ポケットに挿している際、何かの拍子に誤ってノックしてしまうと芯が出た状態になり、外から見て分かるほど布地を汚してしまいます。ボールペンのインクはなかなか落ちないので、そうなると服は台無しです。ツイスト式にはその心配がありませんからね。あと、ノックボタンがない分デザインの自由度が高いですし、ノック式よりもツイスト式の方が何となく格好いいとかスマートに見える、というのもあるかもしれません。もちろん、どんな方式であろうと芯を出しっぱなしでポケットに挿したら元も子もありません。しっかり芯を収納してから挿しましょう。それと、胸ポケットは本来、ハンカチーフなどの装飾品を入れるところ。内ポケット付近にペン挿しがあれば、そこに収納する方がスマートかな。もちろん高級ボールペンは、ある意味では装飾品ですから、胸ポケットに挿しても間違いではないでしょうけど。結論としては、胸ポケットに挿して持ち歩くならば、ツイスト式がお勧めです。あともう一つ、ノック式よりもツイスト式の方が壊れにくいようで、替え芯を交換しながら長く使う高級ボールペンには、ツイスト式の方が向いているのでしょう。

 次は書き味の話です。万年筆はペンポイントと紙との間に摩擦を生じますが、ボールペンの場合はボールが紙の上を転がるため、紙との摩擦はほとんど生じず、感触を決める大きなポイントがボールの回転抵抗。それに大きな影響を与えるのがインクの粘性です。インクの粘性が小さければ良く滑るボールペンになり、インクの粘性が大きければ滑りは少なく、ねっとりした感触になります。ちなみに、ローラーボールにボールの回転抵抗がほとんど無いのはさらさらの水性インクを使用しているからです。また、ゲルインクは、インク自体の粘性は大きいものの、チキソトロピー性(簡単に言えば力が加わると粘性が低下し、力から解放されると元に戻る性質)を有するゲルであるため、書いている時は粘性がほとんど無くなります。

 書き味で選ぶなら、私のイチ押しはカランダッシュです。カランダッシュの替え芯・GOLIATHは絶妙な滑らかさ(私にとってはこれ以上滑って欲しくないというギリギリの線)で、インクの掠れがほとんどありません。インクの出やすさは、インクの粘性の他、替え芯内部の溝の切り方にもあるようで、カランダッシュのGOLIATHはこの溝が6本切ってあり、インクの切れを防止しているようです(通常は3本くらいらしい)。私はエクリドールを愛用していますが、大量筆記にはあまり向かないため、毎日多くの字を書く方なら、オフィスライン849がお勧めです。オフィスライン849は見栄えも悪くなく、オールマイティーに使えます。太い軸が好みなら、オフィスライン アルケミクスが良いでしょう。

 でも商談などで使用するなら、ウォーターマンのメトロポリタンあたりがスマートでよいと思います。フレッシュマンにも手の届く価格ですし、デザインが良い上に嫌味が無く、初めて持つ高級ボールペンとしては最良の一本だと思います。もう少し太めなのが好みなら、ちょっとだけ高くなりますが同じウォーターマンのエキスパートも良いでしょうね。ウォーターマンも割と滑らかで、掠れもほとんど気になりません

 万年筆ならばペリカンモンブランが人気ですが、モンブランについては使ったことがないので評価は差し控えます。ただ、ボールペンに関してはモンブランだからといって最高に良いというわけではないようです。でもステータス性の高さはやはりモンブランですね。重要な商談相手にサインを求める際に差し出すなら、第一にはやはりモンブランでしょう。ペリカンも本体は持っていませんが、替え芯は使っています。掠れはほとんど無く、割と書きやすいのですね。ただ、感触的にはそんなに好みではないです(あくまでも個人的な好みの問題であり、性能的には問題ありません)。

 本来私はややねっとりした感触を好みますが、そういうボールペンは書き始める際にインクが上手く供給されず、掠れることがあります。シェーファーなどは書き始めが割と頻繁に掠れますし、パーカーも時々掠れます。基本的には外国産のボールペンは、ある程度書き始めの掠れはあるものだと思っておいた方が良いです(外国人は、ボールペンなんてそんな物だと思っている・・・らしい)。それが嫌なら、国産品でも見栄えの良い物はありますから、そういう物から選ぶと良いかと思います。ただ、外国製の物は、格好いいのが多いんです。それと、書き始めが掠れることがあると分かっていながらも私がシェーファーを使うのは、書いている時の感触が好きだからです(特にシェーファーの中字の感触は超私好み)。

 国産でデザイン的に悪くないと思うのは、パイロットのグランセNCかな。ただ、中身がアクロボールなので、滑りすぎて私には合いません。国産で私のイチ押しは、セーラー万年筆が製造しているDAKSのハウスチェック クロスリングかな。DAKSのチェック柄の布がリング状に巻かれていてオシャレだと思います。書き味は普通の国産ボールペンという感じですが、掠れなどはもちろん無く、信頼はできます。

 いずれにしてもボールペンは、万年筆に比べたらずっと疲れる筆記具ですから、なるべく自分にとって書きやすい物を選ぶべき。仕事で多くの文字を書く方はなおさらです。千円以下のボールペンであれば、文房具売り場に並んでいるのを一本一本手にとって、書き味を比べることもできますが、高級ボールペンはケースに入っているのを出してもらうことになるので、全部を書き比べるのは困難です。そこで先ず予算を伝えた上でいくつかのメーカーの物を出してもらって書き味を比べる。次にこれが良いと思ったメーカーの物を、予算の範囲で他にいくつか出してもらって、軸の違いによる書き味の違いを試す。これができればベストだと思います。まあ、店員には面倒くさい客と思われるかも知れませんが、選ぶ側からすれば、これくらいはしたいところです。

 女性がデスクワークで使うなら、スワロフスキークリスタルが軸にぎっしりと詰まったボールペンも、可愛らしくて良いかもしれません。ただ、男性が使っていたら引きます。それと、こういう物やチャーム付きの物は、営業や商談には不向きなイメージです。

 なんだかんだ言っても、結局は国産の、ちょっと高級そうに見える物。これが実用性も価格的にも一番のような気がしておりますが、お気に入りの一本が見つかれば、ビジネスシーンのちょっとしたアクセントになるでしょう。どうにも迷うようであれば、ISO G2規格、俗に言うパーカータイプの替え芯を使った物がお勧めで、書き味が今ひとつ気に入らなくても、他メーカーの替え芯を使うことで、劇的に感触が変わることがあります。本家のパーカーだけでなく、アウロラ、ヴィスコンティ、モンテグラッパ、ステッドラー、シュミット、ペリカン、ファーバーカステル(伯爵コレクション用)、ヤード・オ・レッド、S.T.デュポン(デフィ用)などが採用しており(ただし多色ボールペン、多機能ペン、ショートタイプなど、これらのメーカーでもパーカータイプを使用しない物もありますので要チェックです)、フィッシャーのスペースペンも付属のアダプターを装着すればパーカータイプとして使えます。S.T.デュポンのイージーフローは非常にサラサラ、一方フィッシャーのスペースペンはねっとりしています。私は軽い軸にはモンテベルデのソフトロール、重めの軸にはフィッシャーのスペースペン、大柄で激重の軸にはS.T.デュポンのイージーフローを入れるのが好みです(イージーフローに慣れたのは最近のことですが)。また、アイデア文具として、D1規格(JIS D規格互換)の替え芯(多色ボールペンや多機能ペン、ミニサイズボールペンなどに使用する替え芯)を装着して使うアダプターが売られており、これを利用すると国産のJIS Dタイプを海外の高級ボールペンで使えるようにもできます。カランダッシュ GOLIATHタイプ、パーカータイプ、シェーファータイプ、モンブランタイプなど、いくつもの種類が発売されているようですので、信頼できる国産の芯を使用したいのであれば、購入して使うのもありですね。

 そして、私が気に入って使っているのはシェーファーのVFMというノック式ボールペンに、カランダッシュのGOLIATH替え芯・黒の細字を入れるという反則技です。長さはシェーファーのK-タイプ替え芯とほぼ同じで、GOLIATHの方が太いのですが、内部空間に余裕のあるVFMとセンチネルにはGOLIATHを入れることができるのです。センチネルは少々安っぽいので、これをやるならそれなりに見栄えの良いVFMが良いでしょう。しかも・・GOLIATHが入ったカランダッシュのボールペンで最も安いオフィスライン849よりも、VFMとGOLIATH替え芯の両方を購入する方が安い!というおまけ付きです。

 一つ注意点ですが、高級ボールペンは替え芯が金属製の物が多く、インクの残量が確認しづらい物が多いです。ジャイアントサイズの替え芯ならA4ノートにびっしり書いて400ページ以上は書けるので、インク切れはそう頻繁には起こりませんが、万が一のために予備の筆記具は用意しておいた方がよいでしょう(もちろん安い物で構いません)。多色ボールペンなら、重要なところを赤で囲うなどできるので良いかもしれません。もちろん最初から多色ボールペンやマルチファンクションペン(多機能ペン)のちょっと高級な物を使うという手もあります。多色ボールペンや多機能ペンを常用するのであれば、黒・赤・青の3色が使える物がよりお勧めです。黒で通常筆記、赤でポイント強調という使い方は同じですが、どちらかのインクが切れたら青で代用するという使い方が良いと思いますね。3色ボールペンにするか、3色プラスメカニカルペンシルが使える多機能ペンにするかは、メカニカルペンシルを使うことがあるか無いかで決められたらよいと思います。

ボールペンの替え芯は、本体購入時に一緒に買っておくべきか?

 マルチファンクションペン(多機能ペン)で、ボールペンを多用するのであれば、買っておいても良いでしょう。マルチファンクションペンの多くはD1規格の替え芯を使いますが、これは一般的な100円ボールペンよりもインクの量が少ないため、多用すれば割と早い内にインクが切れてしまいますから、替え芯を準備しておいて損はありません。また、小さなサイズのボールペンも替え芯がD1規格である場合がありますから、その場合も一緒に買っておくと良いでしょう。

 一方パーカータイプやカランダッシュのGOLIATHなど、大容量タイプは、替え芯を買っておかなくても良さそうです。よほど大量筆記するなら別ですが、これらはA4で4〜500ページくらいは書けますから、すぐになくなってしまうことはありません。ボールペンの替え芯にも使用期限があり、特に明記していないですが、多くのメーカーは3年くらいを想定しているようですので、買い置きしておくのがあまり得策とは言えません。また、パーカータイプは、しばらく使っているうちに書き味が今ひとつ・・と感じた場合は他メーカーのレフィルを入れて使うことが出来ますから、しばらく使って様子を見てからでも良さそうです。

 さて、その替え芯をどこで買うかですが、出来るだけ回転の良い店で買うことをお勧めします。回転の悪いお店だと数年前に入荷した替え芯が売られている場合も・・。あと、どこの店とは言いませんが、ボールペンの替え芯をご丁寧に袋に入れて、上向きになって陳列している店がありましたが、私はそこでは買いません。

ツイスト式ボールペンの替え芯交換
 ツイスト式のボールペンはキャップチューブを右に回すと芯が出て、左に回すと収納されますが、収納された状態から少し力を入れて(クリップに横から力を加えないように注意)さらに左に回すと胴軸からキャップチューブが外れます。替え芯を抜いて新しい物を入れたらキャップチューブを右に回していくと、途中で感触が重くなり、ペン先が出てきます。止まるところまで右に回したら、さらに少しだけ右回りに力を加えて締めます。その後替え芯が収納されるまで左に回して下さい。この最後の一締めをすることで、芯を収納する際にストップが掛かり、キャップチューブを回しすぎて緩むのを防げます。


        ツイスト式ボールペンの軸を外したところ。一般には中央部を回すが、先端部分を回す物もある
        キャップスライド式やノック式も同じ部分を外す物が多い