U-Maの音楽館

S.T.DUPONT


S.T.DUPONT(S.T.デュポン) フランス

 1872年設立の高級ブランドで、当初は革の小物や鞄を製作していたようですが、第二次大戦の勃発により旅行鞄の需要が激減したためポケットオイルライターの製作にシフトし、1952年には炎の大きさを調整できるガスライターを製作し、特許を取得し、ガスライターのメーカーとしての不動の地位を獲得しました。万年筆の製造は比較的新しく、1973年からだそうです。なお、デュポンというとアメリカの世界的な化学系企業(ナイロン、テフロン、フロンなどを開発した)を思い出しますが、S.T.デュポンはそれとは全く関係のないフランスのブランドです。高級ブランドらしく、その精巧な造りは定評がありますが、価格設定はかなり強気です。でも商品のサイクルは短く、結構アウトレット品がある店に入荷します。半額でもなかなか買える値段ではないですけどね。

 S.T.デュポンは筆記具以外からスタートした高級ブランド。こういったブランドの場合、筆記具は筆記具専門のメーカーでOEM生産することが多い中、S.T.デュポンは軸や万年筆のニブを自社生産しているという話です。特にニブに関しては筆記具メーカーですらドイツの専門メーカーに委託する事が多いのに、ニブまで自社生産しているというのはなかなか希有な存在です。筆記具の軸は金属で加工されており、ライターで培った精密な金属加工技術を、筆記具の部門でも存分に発揮しているようです。


ELYSEE/LINE D(エリゼ/ラインD) 現行品はニューラインD
14Kニブ、嵌合式キャップ、両用式

 エリゼはフランスのエリゼ宮殿(現フランス大統領官邸)のことで、エリゼ宮殿の公式筆記具として採用されている、S.T.デュポンを代表するモデルです。現在ではラインDという名称になっていますが、エリゼ宮殿の公式筆記具という地位は引き継いでいるようです。高級ブランドの代表モデルということで、お値段はだいぶ高級な物なのですが、あるお店で仕入れ値を割る(と思われる)価格で投げ売りをしていたので飛びつきました。だって、これの新品がプロギアΣと同じ位のお値段で買えるなんて、あり得ないもの。本来はペリカン スーベレーンM1000と同価格だし、中古でもこの価格で販売するのは程度の落ちるやつか、売れずに値下げした物。まあ、このタイプはすでに生産中止だし、在庫処分したかったのでしょうね。字幅は私にしては珍しく中字ですが、何故かというと細字は値引きしていなかったから。そのお店の通常販売価格は希望価格の2割引ですが、それでも私にはとても手が出せないです。


        S.T.デュポン エリゼ ゴールドスミス パラジウムフィニッシュ 万年筆 中字

 現在でこそミディアムサイズが追加されていますが、エリゼという品名だった当時は大きなサイズのみのラインナップでした。で、この万年筆、コンバーターにインクを満タンに吸入すると、何と60gもあります。ゴテゴテと飾り立てた限定品の万年筆には100gを超える物もありますが、定番品では最重量級の万年筆でしょうね。それでも万年筆ならキャップを外したまま書けば35gですからまだ良いのですが、ボールペンは55gもあって、しかもキャップは外れないのですからすごく重いです。なので、常用品としてはお勧めいたしません。お勧めするのはサイン用のペンとしてですね。すごく重厚感がありますので、サイン用のペンが一本欲しい、でもモンブランではないのが欲しいという方にはお勧めです。もちろん現行品ならばミディアムサイズではなく、これと同じ通常サイズの物で、キャップをペン尻に挿し、S.T.デュポンの刻印のすぐ上辺りを持ち、豪快にペン尻を振り回して書くのが良いでしょう。そもそもこれはちまちまと書くための物ではないです。なので細字好きの私であっても、この万年筆は中字か太字がお勧めですね。なお、S.T.デュポンの太字は基本的に本国取り寄せで、店頭にはほとんど無いようです。

 ニブは14Kで、パーカー デュオフォールドやペリカン スーベレーンM1000に比べたらだいぶ小さいです。このニブは腰があり、軸の重量をしっかり受け止め、さらりと滑らかに書けます。柔らかなM1000も良いですが、腰のあるこの万年筆もなかなかの物で、デュオフォールドよりは感触が柔らかいです。ただ、とにかく重い万年筆ですから、手の小さな方、女性や高齢の方にはあまり向かないでしょうね。やはり基本的には手の大きな方向きだとは思います。

 そしてこの万年筆の大きな特徴は、キャップを閉める時の独特の感触と音。これが実に心地よくて、これを楽しみたくて、わざわざキャップの嵌合を外すほど(笑)。この音だけでも試してみる価値はあります。


LIBERTE(リベルテ)
14Kニブ、嵌合式キャップ、両用式

 全ての自由を謳歌する人々に捧げるという思いを込めて、リベルテと名付けられた筆記具で、女性デザイナーがデザインしたらしく、優美な造形です。キャップを閉めた状態では円錐形に近く、大きな天冠部分は宝石のようにカットされた面を持ち、中心にはデュポンのDマークが描かれています。キャップを抜くと首軸が思い切りシェイプされ、先端に小さな14Kニブが装着されています。ユニセックスデザインですが、やはり女性の手に合っている気がします。


        S.T.デュポン リベルテ パーリーモカラッカー/パラディウム 万年筆 細字

 胴軸は十分な長さがありますし、ペン尻にキャップを深く挿してもあまり安定しない(胴軸の尻部分よりもキャップの内径の方が大きいので、きっちり嵌めてもぐらぐらする。ただし簡単に抜けてしまうことはない)ので、そもそもキャップを挿さずに筆記する仕様なのでしょうか。キャップを挿さずにシェイプされた首軸部分を持って書くのが正解なのでしょう。ただ、手の大きな方には向かない気がします。私はキャップを挿して、胴軸のリング(S.T.Dupontの刻印がある部分)を持って書くことが多いです。余談ですがこの刻印は型抜きやレーザーではなく、手彫りのような質感があります(機械彫りかもしれませんが)。14Kニブはかなり硬く、しなりはあまりありませんが、インクフローは良く、ざらついた感触は一切ありません。全体の造りもとてもしっかりしていて、さすがはデュポンという感じですね。高級ブランドとして恥ずかしい物は出してこないでしょう。

 これも中古屋さんに入荷したのを根気よく待って、値下げしたタイミングで買ってきました。デュポンは高級ブランドで価格設定も強気ですから、こうでもしないと私の手には回ってきません。どちらかと言えばほぼ同時に入荷したブラックの方が欲しかったのですが、そちらは値下げ前に売れてしまって、こちらのパーリーモカラッカー/パラディウムに。これはこれで悪くないですけどね。


SAINT MICHEL(サンミッシェル) 生産終了品
ツイスト式ボールペン

 サンミッシェルは、S.T.デュポンの中では価格設定が抑えめのボールペンですが、もっと低価格のジェット8のようなカジュアルスタイルではなく、それなりに重厚感のあるデザインです。銀色部分の彫りはライン-D ゴールドスミスほど手の込んだものではないですし、クリップにあるS.T.Dupontのロゴは機械彫りではなく型押し。そしてフランス製ではなく台湾製。これらが価格を抑えられている要因でしょうが、それでもS.T.デュポンらしさは垣間見られます。デザインはキャップチューブまで黒ラッカー塗装でパラクローム(恐らくパラジウムとクロムの合金)装飾のシックな物と、胴軸が黒ラッカー、キャップチューブがパラクロームメッキで、同心円状に彫りの入っている物があり、商談などで使用するのに無難なのは前者、よりS.T.デュポンらしさが出ているのは後者。これは迷いましたが、後者もそこまで派手な物ではないので後者を選びました。


        S.T.デュポン サンミッシェル ゴールドスミス ブラックラッカー&パラクローム ボールペン

 S.T.デュポンのパーカータイプ替え芯を使うボールペン(ライン-D、デフィ、リベルテ、サンミッシェル、D-イニシャル、ジェット8など)には、イージーフローという低粘性油性インクを用いた替え芯が最初からセットされています。私はこの筆記具コーナーで何カ所かに書いている通り、ローラーボール(ゲルインクを含む)や低粘性油性ボールペンが大嫌いで、非常に扱いづらさを感じていました。つるつる滑るのが苦手で、ペン先のコントロールが効かず、字が汚くなってしまうのです。もちろん今でもそう思っています。ジェットストリームを借りて書いたら、やはりダメでした。ですが、サンミッシェルは満足して使えるようになっています。というより、試し書き5秒で慣れました(笑)。これもかなり滑るペン先ですし、以前試し書きした際は全くダメだったのですが・・。

 ポイントはサンミッシェルの本体が52gもあり、重心も後ろに寄っていること。これだけ重く、後ろに重心が掛かっているともはや、ペン先近くを持って立てて書くのは非常に辛いので、口金の上、ラッカー塗装の部分を持って、万年筆のように寝かせ、サラッと書いたら何ということでしょう。とても書きやすいではないですか。イージーフローならある程度寝かせてもインクは問題なく供給されますし、筆圧も掛けなくて良い。ほぼ万年筆と同じ書き方をしているのです。もしかしたらこの書き方ならすごく書きやすいかな・・と思って試したのですが、思った通りでした。以前試し書きした際は、普通のボールペンのような感覚で使ってしまったのですね。一方、このイージーフローをパーカーのソネットやジョッターにも入れてみましたが、やはり書きづらい。私の手にはイージーフローやローラーボールは、このような重い軸で使う物だということを認識した次第です。

 ライン-Dも書かせていただきましたが、これはもう少し重く、重心もより後ろに掛かるので、口金付近を持って立てて書いたら全く扱えません。同じように万年筆に近い書き方をすべきものでしょう。デフィは形状的にも先端に近い部分を持つのは辛そうです。D-イニシャルも40gは超えているので、基本的にはそういう書き方をするものなのでしょうね。だとすると、このイージーフローが必須になるわけです。試しに購入後のサンミッシェルと、比較的滑りの良いモンテベルデのソフトロールを組み合わせてみましたが、同じ書き方ではインクが上手く乗らず、書きづらかったです。同じモンテベルデのジェルペンなら合うでしょうけど・・。なお、リベルテはこれらよりも軽くなっており、イージーフローの特性を活かした書き方ももちろん出来る上に、ソフトロールやパーカーのクインクフローでも合うかもしれません。S.T.デュポンのイージーフローを使用するボールペンで、一番融通が利くのはリベルテでしょうね(ただし、ミニリベルテはパーカータイプではなく、D1規格の替え芯を使うボールペンです)。

 S.T.デュポンのボールペンは存在感がありますし、ブランドとしての知名度も高いので、商談などで使う筆記具にもこだわりたい、でもモンブランはあまりにも普通すぎて嫌(高級筆記具の代名詞ですから)という方にはお勧めではありますが、重い筆記具、特に重い万年筆に慣れた人ならともかく、そうでない方にはやや扱いにくいかもしれません。ライン-Dの万年筆は57gくらいありますが、キャップを外したまま書けば20g以上減ります。しかし、ボールペンの場合はキャップを外すわけにはいきませんから(芯の交換の際のみ外す)54gほどの重量がそのまま筆記時の重量になるわけです。なので、女性的なデザインで良ければ比較的軽いリベルテ、細身の軸で良ければクラシックシリーズ(パーカータイプではない替え芯を使用)が無難かもしれません。



 ところで、タバコを吸う私としては、S.T.デュポンと言えばライター。世界の四大ライターに数えられ、特に開ける際の音が独特なのですが(モデルにもよりますが)、高くてとても買えません。そこで万年筆やボールペンを中古で・・という感じです。宝くじで一等を当てたら別ですけど・・。ちなみにデュポンのライターを開ける際の独特な金属音は、最初から狙って造ったわけではなく、設計通りに造ったらあのようになったのだと聞いております(そういう物なので個体によってはほとんど鳴らない物があったり、あの音を聞きたいために何度も開け閉めしていると、そのうち鳴らなくなってしまうこともあるようです)。筆記具の製造にもライターで培った金属加工技術が活かされており、特に嵌合式万年筆やローラーボールのキャップを嵌める時の音は独特で、感触も他とは一味違います。