U-Maの音楽館

何故今更万年筆か


 嶋田の趣味の一つとして、筆記具集めというのがあります。とは言ってもコレクターとは少し違い、年代物とか高価な限定品などにはあまり興味が無く、実用レベルの物を数多く揃え、そのほとんどは普段から使用しております。中でも万年筆に嵌っており、50種類くらいの万年筆を使っています。まあ、何故そんなに集めたかというと、単純に言えば好きだから。そして万年筆が大好きな理由は、とにかく書くのが楽だからです。

 万年筆との出会いは、高校を卒業した時に遡ります。現役で大学に合格し、いよいよ入学という時に、親父からパーカー50(通称ファルコン)フライターの万年筆とボールペンを貰ったのが最初です(当時はパーカーとしか認識しておらず、今になって調べた結果パーカー50という比較的レアな物だったことが判明)。当時は入学や就職のお祝いとして、万年筆を贈るというのはごく普通にありました。今では実用性を考慮してボールペンか、ボールペンとメカニカルペンシル(シャープペンシル)のセット、あるいは多機能ペンが多いと思いますが、当時はまだ万年筆、あるいは万年筆とボールペンのセットが普通だったと思います。

 さて、そのセット、最初はボールペンばかり使っておりました。当時は国産品の品質もまだまだで、買ったばかりなのにインクが出ないなんてこともよくありましたが、パーカーのボールペンはいつでもすんなりとインクが出て、ストレス無く使えたのです。万年筆はしばらくの間、あまり使っていなかったのですが、私が入学したのは理学部化学科だったので、毎週いくつもの実験があり、その実験レポートを次の実験の際に提出する必要がありました。当時はパソコンやワープロも普及していなかったですし、とても高価でしたから、A4のレポート用紙に書き綴るのですが、書き損じては書き直すを繰り返すと、かなりの枚数になり、ボールペンでは疲れてしまいます。そこで万年筆を使ってみたら、10枚くらい難なく書けてしまう。これは楽だと気付き、以後レポートはほとんど万年筆で書いておりました。

 就職すると、基本的に書類等は油性ボールペンで書きますし、実験ノートなども水を扱う職場ですから水性の万年筆はちょっとしたことで滲んでしまい、使いづらい。万年筆はたまにメモ取りで使う程度となり、ボールペンも書く量が多く、パーカーのボールペンでは勿体ない(レフィルが高いし自費)ので、会社支給のボールペンが主体となり、パーカーのボールペンは商談とか出張の際に使う程度に頻度が減りました。少し余裕が出ると、会社支給の物でなく、市販の自分にとって使いやすい100円ボールペンを買ってきて使うようになりましたが、高級品とはすっかり縁がなくなってしまいました。

 しかし、入社してン十年、軽いボールペンを使って筆記するのがだいぶ辛くなってきました。特に長い会議でひたすらメモを取っていると、そのうち手が痛くなり、腱鞘炎に罹りそうになります。押しつけて書き続けるだけの力が持続しないのです。そこで、以前から感触が好きだったシェーファーのボールペン(インテンシティ)を入手し、自重を利用して少し力を抜くようにして書くようにしたのです。これだとかなり楽になるのでしばらくはそれを使っていましたが、それでも長時間に及ぶと疲れます。ここでようやく万年筆の登場です。パーカー50はだいぶ古い物ですし、かなり軽い万年筆なので、学生時代は重宝していましたが、今の私の好みには必ずしも合わない。そこでシェーファーの万年筆(インテンシティ)を、ボールペンと揃いの柄のを入手し、それを使い始めました。そりゃもう楽です。インテンシティは重い万年筆ですが、私の手にはピッタリと合い、全く力を入れずにただ紙の上を滑らすだけで、字が書けてしまいますからね。

 楽という意味では、水性ボールペン、ゲルインクボールペン、低粘性油性ボールペンという選択肢もあるのですが、これらは滑りすぎるのが嫌で、私には合いません。速筆すると字が汚くなり、後から読み返すのも困難になるのです。その点シェーファー インテンシティの万年筆は、紙との間に摩擦感がありますから、速筆しても筆記線がぴたっと止まり、ちゃんと読める(他人にも)字ですらすら書けるのです。

 そんなわけで万年筆に嵌り、ボールペンも書きやすい、あるいは書き味が好きな物を求めて何本か集めています。数としては特に多いのがシェーファー。理由は元々好きなメーカーだったのもあるのですが、詳しくはシェーファーに関するページに書きます。

 海外の筆記具はとにかく魅力的なのが多い。ヴィスコンティは芸術的な軸が魅力、ウォーターマンやS.T.デュポンは造形美。カランダッシュ エクリドールも銀のすらっとした形状。パーカー ソネットも品の良いデザインですし、モンテベルデは安くて実用的で装飾品としても楽しめるがコンセプト。実用性だけでなくデザインが気に入るかどうかも、私の万年筆選びにとって大きなポイントなのです。一方で、見た目で購入した国産品は、セーラー万年筆のプロカラー500とプラチナ萬年筆の美巧18K(近代蒔絵シリーズ)だけですね。他は実用性重視です。国産品はさすがに、日本語を書くように設計、調整されていますから、書きやすいのは当然。しかも海外の物に比べて安い。もっとデザインの良い物や、金属軸の重いものなども充実させてくれると有り難いのですけどね。

 そして、万年筆ファンには珍しく(?)、これだけの数がありながらモンブランは一本も持っていませんし、書いたこともありません。モンブランは元々高価な上、高級ブランド化してエントリーモデルを切り捨て、上質であるには違いないのですが庶民には手を出しづらい価格帯になっていますし、価格にはステータス料も多分に含まれていると思われ、興味を失ってしまったのが理由です。

 日本では今、万年筆が見直されており、国内ビッグ3はいずれもまずまず売れているようです。海外メーカーではペリカンなどはよく売れているようですし、パーカーは昔から強いですが、全体を見たらそんなに楽観はできないのかな。2016年2月にはイタリアの老舗・オマスが廃業、2017年7月には同じイタリアの新興メーカー・デルタが長期の休業に入り、翌年2月には廃業してしまいました。アメリカのシェーファーは同業のクロスに売却されたことで商品の整理が進んでおり、今後の動向が気になるところです。

 話を元に戻しましょう。何本もある万年筆の内、シェーファー インテンシティ、ウォーターマン メトロポリタンと、国産の安い物は、会社に置きっぱなしにして使っています。残りもほとんどはインクを入れ、家で使っています。しかも、どのペンも最低週に一回は使います。もちろん気に入っている物は毎日のように。もう置き場にも困るくらいですからこれ以上は増えないと思いますが、シェーファーから新製品が出たら、飛びつくかもしれません。

 さて、こんなに大量の筆記具をどうやって入手しているかというと、海外の高級品は比較的程度の良い中古品を、値引きするタイミングを待って買うことが多いです(よほど欲しい物は入荷した直後に購入したりしますが)。新品の場合はアメ横の万年筆屋とか、専門店で安く売っているところで購入します。こんなものを全部希望価格で買っていたら、即刻破産してしまいます。国産品はアメ横や専門店であっても海外品ほどは値引きされなかったり、希望価格で販売したりしていますので、少しでも安い店を探して買うことにしています。もっとも、定価販売の店でわざわざケースから出してもらって試し書きをし、それが気に入ったならばその店で買います。試し書き用に最初から用意してある物ならともかく、ケースから出してもらってインクまで付けてもらっておいて、しかもそれが気に入ったのに別の安い店で同じ物を買うというのは、私の流儀として無しです。インターネットで購入すると安いのですが、あくまでも常時使うつもりで購入しているので、試し書きもせずに購入する気はありません。