U-Maの音楽館

筆記具のカテゴリー


 こんなこと今更ですが、ざっと整理しておきましょう。フェルトペンやマーカーペンなども筆記具の一種ですが、ここでは一般筆記用のものについて述べます。


鉛筆

 古くは鉛と錫の合金(ハンダ)に木軸を巻き付けて鉛筆のような物を作っていたとされますが、現在の鉛筆は16世紀の終わり頃に黒鉛が発見されたことで発展しました。黒鉛の芯を2枚の細長い板で挟んで固定したのが原型です。その頃はまだ、制作者により形はまちまちでしたが、長さや太さは現在の物とあまり変わらなかったとされています。また、消しゴムが1770年に発明され(それ以前は古くなったパンを使って消していた)、鉛筆はより使いやすい物となりました。現在のように黒鉛と粘土を混合して焼き固めた芯を使うようになったのは18世紀の終わり頃で、粘土と黒鉛の配合を変えることで、様々な濃度と硬さの鉛筆が作られるようになりました。現在世界中で普通に使われている筆記具の中では、最も早く確立したものと言えましょう。鉛筆の長所は消しゴムで簡単に消せるところですが、反面それは公文書には使えないという欠点でもあります。ただし、意図的に消すことさえしなければ、筆記線の保存性は非常に良く、数百年は楽に保つでしょう。もう一つの欠点は、すり減ったら削るという動作が必要なことです。


メカニカルペンシル(シャープペンシル)、芯ホルダー

 繰り出し式の鉛筆の歴史は古く、18世紀の末にはすでに原型ができあがっていたとされています。それ以降様々な繰り出し式鉛筆が発明されてきましたが、便利ではあったものの、メカニックの耐久性には難があり、実用性の高い物ではなかったようです。これを解決したのが早川徳次氏で、彫金師であった早川氏は金属製で耐久性の高いメカニックを1915年に発明し、早川式繰出鉛筆として特許を取得、翌年には芯をさらに細くしてエバー・レディ・シャープ・ペンシルと名付けました。また、この早川式は、繰り出すだけでなく、繰り戻すこともできたという画期的な物でした。最初はあまり売れなかったようですが、アメリカでヒットし、その噂を聞きつけ、日本でも徐々に普及したようですが、1923年の大正関東地震(関東大震災)で工場を焼失し、再起を図るため特許を売却したとのことです(その後大阪に移り住み、鉱石ラジオの工場を設立し、それが現在のシャープです)。現在のように普及したのは1960年に大日本文具(ぺんてる)がハイポリマーの0.5mm芯を開発したことが切っ掛けで、芯が折れにくく、しかもいつでも細いという、メカニカルペンシルとしての一応の完成形を見たのです。1975年頃には教育現場でも鉛筆に替わって普通に使われるようになり、現在に至ります。日本製は0.5mmが主流ですが、海外メーカーは0.7mmや0.9mmが多いようです。メカニカルペンシルの長所・短所は鉛筆に準じますが、削る手間が省けるというのは大きな改良点です。

 芯ホルダーはメカニカルペンシルとの境界が曖昧ではありますが、一般には鉛筆と同じ2mmか、それよりも太い芯を使い、カッターナイフや専用の削り器などで芯を削りながら使う物です。2mm芯の物は一般筆記用にも用いますが、それよりも太い物はデザイン画やデッサン用に使用することが多いようです。


万年筆

 その原型は千年以上前からあったようですが、現代の万年筆の直接の祖先は、1883年にアメリカのL.E.ウォーターマンが、毛細管現象を応用したペン芯を発明したのが始まりです。これにより紙に触れるとインクがスムーズに供給され、紙から離すと流れが止まるという、万年筆の基本的な性能を得ることになりましたが、この発明の裏には、保険外交員をしていたウォーターマンが、新品のペンのインク漏れにより契約書を汚損し、大口の契約を逃したという苦い経験があったようです。現在の万年筆はさらに改良され、インク漏れはより起こりにくくなっています。古くは没食子酸・タンニン酸と硫酸第一鉄などの鉄化合物を混合し、青い染料で着色したブルーブラックインク(没食子インク)が主に使用され、酸性が強かったことから耐食性の高い金合金がニブ(ペン先の金属部品)に使われていましたが、現在の染料インク、顔料インクは中性に近い物が多く、20世紀になって耐食性のある鉄合金・ステンレススチールが普及したこともあり、現在ではステンレスニブを使った安価な万年筆も多く製造されています(ステンレスニブの製品が全て安価なわけではありません)。しかし、金の持つ高級感や、素材としての柔らかさ、インクフローの良さなど、ニブの材質として優れた性質を持つため、依然として金合金のニブも多く生産されています。インク漏れを起こしにくくなったものの、下向きで保管したり、横向きや下向きで持ち歩いたりするとインク漏れを起こします。また、使わないで長く放置するとペン先が乾いたり、何かと厄介な筆記具なのですが、書き味の良さと大量筆記しても疲れにくいという点は魅力で、近年見直されつつあります。筆記線の保存性はインクによりまちまちです。


ボールペン

 インクタンクの先端にボールチップを装着し、ボールを回転させることで付着したインクを紙に転写させるという着想は、19世紀末頃からあったようですが、インクの量をコントロールできず、実用的な物ができたのは1940年前後、インク漏れの問題をほぼ解決したのは1950年代に入ってからで、筆記具の中では比較的新しいものです。ボールとカシメ部(ボールを保持する部分)に歪みがあると、回転がスムーズでなく、隙間からインクが漏れることになるため、これらの部分に精密な加工が要求され、これがボールペンの開発にとって大きな障壁であったようです。精密な加工が可能となったことでインク漏れを克服したものの、当時はまだ書いてしばらくするとインクが滲んでくるため、公文書には使えなかったのですが、インクの改良により滲みの問題が解消したことから、日本では1970年代に公文書への使用が認められ、さらに低価格化も進んだことから、現在では最も一般的な筆記具となっています。ボールペンの長所はインク漏れやインクの乾きがないため、ノックやツイストで簡単に繰り出し、手軽に使えることと、簡単には消せず、筆記線の耐久性が比較的良好な点です。反面インクの発色は鮮やかでなく、感触が重い、掠れるなどの欠点がありますが、近年では低粘性油性ボールペンの台頭で、感触や掠れなどは克服してきています。ただ、低粘性油性ボールペンは、書いて数年たつとインクから油が分離して滲むことがあるという情報もあり、公文書などに低粘性油性ボールペンを使用するのは控えた方が良いのかもしれません。ボールペンは上向きに保管するとインクが切れてしまい、回復させることが困難ですので、できるだけ下向きで保管します。筆記線の保存性は良好ですが、日光に長時間曝すと徐々に色が薄くなっていきます。


ローラーボール

 聞き慣れない名前ですが、日本では水性ボールペンと呼ばれます。近年人気のあるゲルインクも、ローラーボールのカテゴリーに入れることが多いようです。日本のOHTO社が1964年に初めて開発しましたが、日本ではあまり普及しませんでした。しかし、その書き味の滑らかさから外国で評判となり、ボールペンよりも高級な物として広まりました。ラテン文字、特に筆記体を書くのには、万年筆やローラーボールのような滑らかな感触の物が好まれるのでしょう。また、水性インクの発色の良さも、ローラーボールの特徴です。一方インクのドライアップを防止するためキャップは必須で、インク漏れを防止するため上向き保管が原則です。ボールペンは下向き保管、ローラーボールは上向き保管でキャップが必須ですから、基本的にボールペンとローラーボールは別物で、従来はボールペンとローラーボールの替え芯の形をわざと変えて、互換性を無くしていました。しかし、1982年にサクラクレパスが水性ゲルインクを開発したことを発端に、各社ゲルインクの開発に着手し、水性の欠点であったインクのドライアップやインク漏れを大幅に改善し、ボールペンとローラーボールを同じ軸で(キャップ無し、下向き保管で)使えるよう互換性を持たせた商品も登場しています。水性インクではあっても、耐水性テストに合格した物は、公文書でも使えます(お役所によっては油性のみというところもあるようですので要確認)。ボールペンよりも発色が良く、書き味が滑らかなのは長所ですが、私は滑りすぎる点が好きではありません。インクは乾けば耐水性という物が多いですが、油性に比べれば耐水性は落ちます。


サインペン

 フェルトペン(マジックインキが有名)に替わる物として開発したようです。フェルトペンは文字通りフェルトを使用するため、字幅が太く、一般筆記用としては不向きです。そこでペン先にアクリル繊維を用いて細くし、一般筆記用に改良し、大日本文具(ぺんてる)が発売したのが最初だそうです。その後、字の滲みや裏抜けを改良するため、油性インクから水性インクに替えた物が現在のサインペンです。当初は全然売れず、起死回生を狙ってアメリカの文具見本市に出展したところ、その一本が当時のジョンソン大統領に渡り、書き味が気に入って大量注文したようで、それが報道されると人気に火が付き、アメリカでバカ売れ。それが切っ掛けで日本でも注目されるようになったようです。書き味が滑らかでインクの発色が良く使い勝手の良い筆記具ですが、樹脂製の繊維を使用しているため、強い筆圧には耐えず、使っているうちにペン先が裂けてくることがあります。


5th,ポーラス

 ローラーボールよりもさらに聞き慣れない名前ですが、パーカーが開発し、2010年に発売した、ペンシル、万年筆、ボールペン、ローラーボールのいずれでもない第五の筆記具が5th(フィフス)です。万年筆やローラーボールのように滑らかで発色が良く、インク漏れが無く、インクの掠れもなく、水性なのに速乾性で滲みが少なく、そのくせ一晩くらいならキャップをしなくてもドライアップしない。ボールペンのように筆圧を掛けても、万年筆のように筆圧無しでも書きやすい。筆記角度も極めて広く、ほぼどんな書き方にも対応しそうです。従来の筆記具の欠点を無くし、良いところだけを取った、欲張りな仕様の筆記具です。言ってしまえば進化したサインペンなのですが、従来のサインペンのようにペン先が縦に裂けることはなく徐々にすり減り、使用者の書き癖に合わせて進化する点も売りです(ただしインクが無くなるとチップごと交換となりますので初期状態に戻ります)。確かに欠点と言うほどの欠点はなく、価格が高いこととインクの容量が少ないことが最大の欠点ですが、万年筆愛好家からすると物足りないかもしれません。フード部分は万年筆のニブのような形なので、万年筆を使ったことのない世代には”なんちゃって万年筆”みたいなノリで良いのかも。ただ、ランニングコストの高さは何とかして頂きたいものです。せめて替え芯が半額なら・・と思います。

 ポーラスは多孔質という意味で、多孔質樹脂の芯を使ったサインペン。ペン先が裂けないというのが大きな特徴で、5thも実はこのタイプです。クロスが販売しているセレクチップローラーボールは、ポーラスの替え芯も販売しているようです。


多色ボールペン・マルチファンクションペン(多機能ペン)

 多色ボールペンは読んで字のごとく、複数の色のボールペン替え芯を一つの軸に入れた物で、基本的には黒、赤、青の三色ペンや、緑を加えた4色ペンが多いようです。

 マルチファンクションペンとはボールペンとメカニカルペンシル、スタイラス(液晶パネルをタッチしたり、文字入力したりするためのツール)などを組み合わせた物で、3色ボールペンであってもペン尻にスタイラスが付いている物はマルチファンクションペンに分類されます。構成はボールペンの黒と赤+メカニカルペンシルの三機能、これにボールペンの青が加わった四機能、3色のボールペンにスタイラスなど、様々です。

 多色ボールペンやマルチファンクションペンは、一つの軸に沢山の機能が盛り込まれていて便利ですが、構造上替え芯やペンシルメカニックが中心から真っ直ぐ出ておらず、わずかに傾斜して出ているため、筆記に違和感を覚えたりします。また、どうしても軸は太めになるので、手帳を手に持って書いたりするのには少々取り回しが悪い気もします。

 多色ボールペンは1970年代の初頭頃から創られ始めたようですが、多機能ペンは1977年にゼブラが発売した画期的なペン、シャーボ(シャープペンとボールペン)が最初らしいです。一般的なボールペン替え芯はバネを止めるための突起が付いていたり、途中から太くなっていたりしますが、多機能ペンや多色ボールペンでよく使われるD1規格(JIS D規格互換)の替え芯は、バネが必要ないので突起はありません。

 機能的には軸を回して切り替える方式と、使いたい機能を上にしてノックする振り子式がありますが、ゼブラが軸を回して切り替える機能で特許を多く押さえたため、振り子式が主流となっていったようです。


万年筆は本当に疲れないのか?

 万年筆は今、見直されつつあり、趣味の文具として人気があります。人気の理由は何となく格好良いとい
うこともあるようですし、文字の表現力が高い、書いた字に味があるということもあるようです。一方、長く筆
記していても疲れないということで、仕事やプライベートを問わず、大量の文字を筆記する人にも人気があり
ます。でも、本当に疲れないのでしょうか。


 先ず一般的なボールペンは、間違いなく疲れる筆記具です。ペンを紙に押しつけて書くため、長時間の筆
記には向きません。私も今ではA5ノート1ページ程度書いただけで疲れてしまいます(年を取ったせいか、
指の力が持続しない)。その点万年筆ならA4のレポート用紙10枚くらいは平気で書けてしまいますから、
私にとっては確かに疲れないです。


 では、筆圧の要らないローラーボールや、最近流行の低粘性油性ボールペンならどうでしょうか。私の場
合、これらを使うと滑りすぎて字が汚くなってしまい、気を遣いながら書くためやはり疲れてしまうのですが、
字が読めるかどうかはこの際関係なく、とにかくローラーボールを使って書いてみると、ボールペンよりは確
かに疲れませんが、それでもA4のレポート用紙3枚くらいで、だいぶ嫌になってきます。筆圧はほとんど掛
けていないのですがこの差は何なのでしょうか。


 万年筆が疲れないという一つの要因は、確かに筆圧が要らないことなのですが、私はそれ以上にペンを
かなり寝かすことができるという点の方が大きいように思えます。ボールペンの場合、あまり寝かせすぎると
ボールを保持しているかしめ部が紙に当たってしまい、インクが上手く乗らなくなりますし、そういう書き方を
続けているとかしめ部が摩耗し、最悪の場合歪んだりボールが脱落するなどの問題が生じます。なので概
ね60度以上の角度でやや立て気味に持って筆記する必要があります。その点はローラーボールや低粘性
油性ボールペンでも同じことです。でも万年筆は45度、あるいはさらに寝かせ、ペンの後ろの部分を親指
の付け根から人差し指の付け根辺りに乗せて書くことができます。乗せることで重さを支えられるので、指
はすごく楽になります。また、首軸を持つよりも、首軸のすぐ後ろ辺りの胴軸を持つともっと楽に書けます。
これがローラーボールや低粘性油性ボールペンとの決定的な違いではないかと思います。もっとも胴軸を
持って書く場合、ペンを握る部分とペンの先端との距離が大きくなり、慣れないと上手くペン先をコントロー
ルすることができないのですが、少しずつ慣らしていくと良いと思います。


 なので万年筆も、立てて書いたりとか、筆圧を掛けて書いたりすると、やはり疲れます。私の持っている万
年筆の中では、ラミー サファリやシェーファー タラニスなどはペンを立ててある程度筆圧を掛けて書いて
もそう簡単に壊れはしませんが、せっかく万年筆を使うのであれば、寝かせて力を抜いて書くことを是非覚
えて下さい。