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PELIKAN


PELIKAN(ペリカン) ドイツ

 万年筆の老舗ブランドで知られるペリカン社ですが、その起源はドイツ人化学者カール・ホルネマンが設立した絵具とインクの工場。その後、インクのトップメーカーとして世界中に知られる存在となり、初の万年筆は1929年に誕生したようです。この頃から精度の高い吸入メカニズムを搭載していたため、ペリカンは万年筆ブランドとして一躍注目を集めるようになりました。現在もその基本スタイルが受け継がれ、数々の名品を世に送り出してきました。特にスーベレーンシリーズはその書き味の良さ、品質の高さ、個性的な軸模様で人気が高く、日本では現在、一番人気の海外ブランドとなっています。おそらく営業が寝ていても注文が入る的な・・って、冗談です。

 かつての日本ではパーカー、モンブラン、シェーファーが3大輸入筆記具で、ペリカンは熱烈なファンはいたものの、それほどメジャーではなかったようです。しかしモンブランが高級ブランド路線に舵を切り、街の万年筆店を切り捨てるような政策を行ったことと、シェーファーが勝手に落ちぶれていったことで、元々実力はトップクラスだったペリカンが台頭してきたというところでしょうか。パーカーも近年の高級化路線でファンの心が離れつつあり、ペリカン一強の時代が到来か? 実際ペリカンが一番の推しというお店は多いです。

 ただそのペリカンも、近年ではニブの不具合が増えているという情報も散見されます。切り割りがセンターに入っていなかったり段差があったり、本来ならば検品で刎ねられるべき物が見逃されているということでしょうか。なので、店頭でしっかりと確認して購入するのがよいでしょう。なにもペリカンに限ったことではないですが・・。


SOUVERAN(スーベレーン;正しくはAはAウムラウト
300,400,600は14K、800,1000は18Kニブ、ネジ式キャップ、ピストン吸入式

 スーベレーンとはドイツ語で「卓越した」とか「優れもの」という意味。この名前を付けるのですから相当な自信作なのでしょうし、その名に相応しい、まさに卓越した万年筆と評判でもあります。また、多くの万年筆専門店でもお勧めの品として名が挙がります。吸入式の万年筆で、万年筆ファンの中でも一番人気のあるシリーズですね。

 ただ、この万年筆はとにかく迷いました。どれを買うべきか。というのもスーベレーンにはM300、M400、M600、M800、M1000という5つのサイズがあり、なおかつ私は手帳サイズの小さな万年筆から、大柄で重い万年筆まで使うので、余計にどれにするか迷うのです。

種類 長さ(収納時/筆記時) 軸径 重量 方式 ニブ
M1000 147mm/177mm 16mm 35g 吸入式 18K EF,F,M,B,BB
M800・M805 142mm/167mm 15mm 30g 吸入式 18K EF,F,M,B,BB
M600・M605 134mm/153mm 13mm 18g 吸入式 14K EF,F,M,B
M400・M405 127mm/150mm 12mm 15g 吸入式 14K EF,F,M,B
M300 110mm/129mm 10mm 11g 吸入式 14K EF,F,M,B
   スーベレーンシリーズの標準仕様表 筆記時の長さは、キャップがペン尻に刺さる深さが微妙に違うため、個体差があります。

 シリーズ最大のM1000は、軸が大柄で堂々とし、結構な重量感があり、さらにニブも特大で、非常に柔らかく撓りやすく、その書き味もごく柔らか。これほど柔らかな感触の万年筆が他にあるか? と思うほど柔らかいのです。パイロットでは軟調ニブやフォルカンという極軟調のニブをラインナップしているモデルもありますが、M1000はこの軟らかいニブがデフォルト。とにかく書き味は最高ですが、筆圧の高い人には向きません。それと、軸もニブも大きく、荷重も後ろにかかるので、首軸を持ってペンを立て気味に書く人にもあまり向かず、胴軸部分を持ってペンを思い切り寝かせ、紙の上を滑らすようにおおらかな字を書く人に向くと思います。それ故に、万年筆を使い慣れていない人にはあまりお勧めではないですね。

 M800・M805(末尾5は銀色装飾)はM1000に次ぐ大きさで、重量はそれほどでもないですが、これも後ろに荷重がかかるので、首軸を持って書くと重く感じます。ニブは大きめですが、M1000に比べると本当に同じシリーズかと思うほど硬いです。そんなにガチガチでもないのですが、M1000とは全然味付けが違います。この万年筆はとにかく愛好家からの評価が高く、人気がありますが、M1000同様、ペンを十分に寝かせてさらりと書くのに向きますから、評判が良いからといって、初めての人がいきなり買うようなものではないと思います。

 M600はデスク用として標準的なサイズ、適度な重量でバランスも良く、多くの人の手に無難になじむでしょう。ニブはシリーズ中最も硬いですが、それでもインクフローが良く、書き味は滑らかなので、紙への当たりはそれなりに柔らかくも感じ、実に良くできています。スーベレーンシリーズでどれがお勧めかと言われても実際困るわけですが、あえて一つ挙げるなら、私はM600です。ただ、あまりにも標準的すぎて特徴が今ひとつ出せていない印象ですし、愛好家に評判の良いM800と、幅広く人気のあるM400に挟まれていることもあり、良い物なのに、人気は今ひとつという気もします。

 M400・M405は、M600・M605よりも微妙に短く微妙に細い。本当に微妙な差なのですが、それぞれが実に絶妙。常にデスク用として使うのであれば、M600の方が満足感があると思います。でも、ほんのわずかに小さい事でポケットへの収まりが良く、デスク・持ち歩き兼用で使うのであれば、M400の方が取り回しが良いでしょう。手が小さめの方はM400の方が合うかもしれませんね。ニブは腰があり、M600よりも柔らかめです。M600とM400の差は微妙ですので、購入を検討する際にはぜひ両方を試し書きして下さい。M600とM400で悩むようであれば、私はM400で良いと思います。M600がジャストフィットするならM600を選ぶべきですが、どちらも良いので悩む・・という感じであれば、M400を使っているうちに、M400に最適な持ち方・書き方を見つけられるはずです。わずかなサイズの差なのに数千円の価格差は魅力です。

 M300は軸径10mmしかなく、短い手帳用のサイズです。このサイズで吸入式というのもすごいですね。吸入量は0.6ml程度で、他よりもだいぶ少ないですが、それでもヨーロッパサイズのカートリッジよりは多くのインクが入ります。ニブは割と軟らかく、大きく撓るわけではないですが、紙当たりは結構柔らかく感じ、小さいながらもなかなかの実力派。デスク用としてはもちろん小さすぎですが、この柔らかな感触は癖になりそうです。なお、M300はサイズの大きいM400、M600よりも高価です。これだけ小さなサイズで吸入式ですから、むしろ技術的に難しいのでしょうね。残念ながら300シリーズは、2020年、生産終了となってしまいました。

 と、このようにそれぞれ絶妙なサイズ感と味付けがなされているため、どれにしようか迷うわけですし、いずれは全サイズ揃えたい・・などという悪い癖を呼び起こしてしまう、悪魔の万年筆でもあるわけです。個人的に一番好きなのはM1000ですが、ちまちまと小さな字を書く私には、あまり合わないと感じます。

 そしてスーベレーンは、軸色も悩みます。パッと見て好きなのはブルー縞ですが、よく見ると緑縞はより透明感がありますし、ホワイトトートイスもなかなか魅力的(でもM400にしか無い)。さらには銀色装飾のM405やM805などのバリエーションもあって、どれが良いか・・。パーカー ソネットなら私の好みで色を選べばレッドGTの一択なのですが、スーベレーンは悩みますね。さらに、毎年のように出る限定カラー(主にM600、M800サイズ)も魅力的であったりする。本当に売り方が上手い。マニアなら全部欲しくなりそう。

カラー
M300
M400
M405
M600
M605
M800
M805
M1000
グリーンストライプ



ブルーストライプ


レッドストライプ




ブラックストライプ




ホワイトトートイス






ブラック(縞ではない)

シルバーホワイト






     スーベレーンシリーズの定番カラー一覧 M300は生産終了


        スーベレーンシリーズ全サイズ(ある人の持ち物を撮りました)
          右:上からM1000ブラック、M800ブルー縞、M600ボルドー、M400ホワイトトートイス、M300緑縞
          このように買い求めると、全サイズ&ゴールドトリムタイプの全色が揃う。
          左:上からM405ブルー縞、M605ブラック、M405ブラックストライプ。

 スーベレーンといえば縞々の軸ですが、これは2種類の樹脂を何層にも貼り合わせた後、カットし、丸めて軸の形に成形するという手の込んだ細工をしているようです。ペリカン社の公式サイトにもありますが、縞模様の部分を長時間水に漬けると膨潤して変形するようですので、万が一インクを詰まらせてしまった場合、洗浄には注意が必要です。普通はどっぷり水に漬けたりするのですが、スーベレーンの縞軸は要注意です。

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 と、このように全体とすれば評判の良い万年筆なのですが、注意点が二つ。

 一つは個体のばらつき。ある所で試し書きした際はEFでもちょっと太いかなという印象でしたが、別の所で試し書きしたEFは、国産のFとそんなに遜色ない。といったように、字幅には結構ばらつきがあります。それだけならまだ良いのですが、元から切り割りがセンターに入っていなかったり、ペンポイントの左右に段差があったりもするそうです。一時に比べたらだいぶ改善されたということも聞きますが、念のため、しっかりと店頭で見極めた方がよいでしょう。

 そしてもう一つが評判の良さ。スーベレーンシリーズに関しては、インターネットで検索すると絶賛する声が多い一方、悪い評価はあまり出てきませんが、そういった高い評価を鵜呑みにしないことです。良いのは認めますが、例えばスーベレーンM400であれば、セーラー万年筆のプロフェッショナルギアあたりと比較してみると良いのではないでしょうか。キャップを尻に差した際の長さはほぼ同じでプロフェッショナルギアの方が太い。書き味は違うのですが、これは好み次第で、プロフェッショナルギアはスーベレーンM400に十分対抗できる実力を持っていると思うのです(しかも価格は随分お得)。パーカー ソネットなんかも対抗馬となり得るので、私は競合品と比較してみることをお勧めします。私にとってはスーベレーンよりもこっちの方が良い・・という物に出会えるかもしれません。M800ならパーカー プリミエあたりが対抗馬でしょうか。

 さて、2018年1月6日、色々悩んだ末、ついに入手いたしました。M805の2016年限定品、ヴァイブラントブルー(Vibrant Blue)のEF(極細字)です。馴染みのお店の初売りに行き、福袋(かなりお得らしい)も用意されていたのですが、私の場合どんなペンでも一応使いこなす自信はあっても、字幅については国産の中字くらいまでというのが条件なので、もし海外品の中字とかが入っていると結局使う頻度が低くなってしまうため、福袋には手を出さず、ペリカンデビューをすることに決めていたのです。


        ペリカン スーベレーンM805 ヴァイブラントブルー 万年筆 極細字

 Vibrantは「活気のある」とか「鮮やかな」という意味で、写真では分かりづらいですが、半透明で濃淡のある軸色です。M805はM800と同型同サイズで、銀色装飾(M800は金色装飾)。この鮮やかな青とクールな銀色がよく合います。スーベレーンシリーズの中でもM800/M805は世界的に評価が高く、まさに王道の一本です。軸は太くて長めでやや重い。若干テールヘビーなので、キャップをペン尻に挿し、首軸ではなく胴軸部分を持って寝かせて書くことが、この万年筆の正統的な書き方。ニブも大きいのでこの書き方では持ち手とペン先が遠くなり、慣れないと上手くペン先をコントロールできないので、評価は高い万年筆ではありますが、初心者にはあまりお勧めしません。ただ、この書き方を覚えると、この万年筆は最高の一本となり得るでしょう。私も数年前なら迷わずM400を選択していたと思いますが、大振りな万年筆や、重量級の万年筆もそれなりに使いこなせるようになったので、M805を選択することとなったのです。M800ではなくM805にしたのは、行きつけのお店にM800サイズはこの限定品しかなかったため。ただそれだけです。M400の茶縞も捨てがたかったですけど、やはり持った感じはM805の方がしっくり来ましたね。今ならシリーズ最大のM1000でも使いこなせると思いますが、私の書き方により合っているのはこちらなのです。

 もちろんEF、つまり極細字を選びました。しかもこの個体はスーベレーンのEFとしては字幅がやや細めで、国産の細字と中細字の中間くらい。書き味もなかなか滑らかで(本当に滑らかなのは中字以上)、私にとっては当たりの個体。これも購入に踏み切った理由の一つです。ペリカンのロイヤルブルーを吸入してさっそく書きまくっていますが、なるほど、これは高く評価されるわけだ・・というのが感想です。もちろん誰の手にも合うわけではないですが、確かに絶妙なバランス感覚と素晴らしい書き味を持った万年筆です。

 そしてもう一本はM300です。詳細は上の方に書きましたが、手帳サイズながら、吸入式の万年筆です。


        ペリカン スーベレーンM300 緑縞 万年筆 極細字

 上の写真だと普通に見えますが・・・


        上:M805 下:M300 

 このようにM805と並べて撮ると、すごく小さいのが分かります。そして、小さいながらもなかなかの実力派で、書き味はM1000に次いで柔らかく、これを好む人も多くいます。残念ながら生産終了となってしまいましたが、考えてみればM400が絶妙に小さく、持ち歩いて使うのにも向きますし、デスク用としてもそれなりに満足できるのですから、M300の立ち位置は微妙だったのかもしれません。書き味自体はM300の方が好きでしたが・・・。

PELIKANO JUNIOR(ペリカーノジュニア)
ステンレスニブ、嵌合式キャップ、カートリッジ式

 ドイツの児童用万年筆で、字幅はA(中字相当)とL(左利き用)という2つで構成されています。これは私にとっては今更ですし、国産の太字くらいはあるかという字幅ですから、個人用としては持っていません。でも一本だけ買いました。同じ部署の若い女性社員がペリカンのカタログを眺めていて「これ可愛い!」って指さしたのがペリカーノジュニアのターコイズ。その子はペンをおかしな持ち方で書くので、ペリカーノなら直るかな?と思い、ターコイズのインクと共に買ってきてプレゼントしました。それ以来気に入って使っていますし、これを使う時は割と正しい持ち方になっていますから、一応効果はありましたね。


        ペリカン ペリカーノジュニア ターコイズ 万年筆 A(中字相当)

 字幅はかなり太いですが、書き味は滑らかそのもの。持ちやすく非常に書きやすい万年筆です。もっと細いのがあれば良いのでしょうが、ラテン文字圏ではこれで十分なのでしょうね。7mm罫のノートに込み入った漢字を書くと、字が潰れ気味になります。そのため私はパイロットのカクノの方がお勧めなのですが、書き味だけならこちらの方が上だと思います。安価でありながら品質もしっかりしており、その点はさすがペリカンですね。大きめの字を書く人ならばこれはすごく使いやすいと思います。

 そして2017年7月、上位版のペリカーノ アップが発売されました。アルミニウム軸になり、字幅はF(細字)のみ。ペリカンですから細字とは言ってもそれほど細くはなさそうですが、ペリカーノ ジュニアよりは当然細いでしょう。価格も手ごろ(希望価格3,000円)なので、ペリカーノ ジュニアでは太すぎるという方は、ペリカーノ アップを試してみてはいかがでしょうか。