U-Maの音楽館

PILOT


パイロット コーポレーション(PILOT CORPORATION) 日本

 言わずと知れた、日本有数の筆記具・文具等を製造販売するメーカーです。1918年の創業で、当時から高級万年筆の輸出に力を入れており、海外でもNAMIKIブランド(並木は創業者の姓)で知られています。日本の伝統工芸を筆記具の製造にも応用し、自社で優秀な蒔絵師を抱えるほど力を入れています。カスタム74など、オーソドックスで品質のブレの少ない優等生的な製品がある一方、全品軟調ニブのエラボーや、プレートの位置をずらしてペン先の硬さを調整できるジャスタス、ノック式またはツイスト式でペン先を繰り出すキャップレス万年筆など、個性豊かな製品も世に送り出しています。多くのメーカーがニブを外部委託で製造している中、パイロットはニブ、さらにはペンポイントまでも完全自社製という、希有なメーカーで、さらにペンポイントの研ぎは、世界一の技術とも言われています。品質良くバラツキも少なく、故障も少ない、信頼の置けるメーカーです。気に入るか気に入らないかは人それぞれですが、少なくともあからさまな短所は見当たらず、安心してお勧めできるメーカーではあります。但し、パイロットの万年筆は割と紙を選びますので、その点はご注意下さい。極細字や細字はともかく、中細字以上のペンは、万年筆での筆記を想定していない紙に筆記すると、裏抜けや滲みを生ずることがあります。

 パイロットのコンバーターは4種類あり、プッシュ式のCON-70、ピストン式のCON-40とCON-50、サイドプッシュ式のCON-20です(現行品はCON-70とCON-40の2種類)。


                パイロットのコンバーター。上からCON-70、CON-40、CON-50、CON-20

 CON-70は後ろの黒いボタンを押して吸入する方式で、押すと空気を吐き出し、戻る時にインクを吸い込みます。使い勝手が良い上に、1.1mlという吸入量も魅力ですが、これが使えるのはカスタムシリーズ(カスタム98を除く)やエラボー金属軸、ジャスタスなど、軸がある程度太くて長いものに限られます。それと、構造上完全に洗浄するのはやや困難ですので、インクはずっと同じ物を使った方がよいでしょう。CON-50は一般的なピストン式で、一部の商品を除き、使用することが可能、CON-20はサイドを押して中のゴムを潰し、戻る際にインクを吸い上げる方式で、ダブルカートリッジタイプを除く全てのパイロット万年筆に適合する仕様です。そしてこのCON-50とCON-20を統合する形で誕生したのがCON-40で、CON-20のサイズに合わせてあるため、ダブルカートリッジタイプ以外に使用することが可能です。ただ、CON-50、CON-20が共に0.5mlの吸入量だったのですが、CON-40は0.4mlと少なくなっております。でもその反面、4つのステンレス球がインクを良く攪拌するためインクの棚吊りが起こることはまずありません(CON-50にもパイプ状の物が入っていますが、これはあまり役立っていないような気が・・)。私としては、入る物であればCON-70をお勧めします。CON-70が入らない物はCON-40か、いっそカートリッジで使うかという感じですね。パイロットのカートリッジは0.9mlくらいの容量なので、標準的な色のインクを使うのであれば、補充の頻度はCON-40を使うよりも少なくなります。

 ところでパイロットの万年筆を使用する際に、注意する点があります。それは、カートリッジやコンバータを抜き差しする際、絶対に回したりせず、真っ直ぐ押し込み、真っ直ぐ引き抜くこと。多くの万年筆に言えることなのですが、パイロットのは特に、回しながら抜き差しすると首軸内部、接合部の構造が希に破損してしまうことがあるようです。


カスタム ヘリテイジ912(CUSTOM HERITAGE 912
14Kニブ、ネジ式キャップ、両用式

 カスタム ヘリテイジには91、912、92という紛らわしい品名が存在します。金ペンエントリーモデル・カスタム74の軸違いがヘリテイジ91、その上位のカスタム742の軸違いがヘリテイジ912、ヘリテイジ91を吸入式の透明軸にアレンジしたのが92というのが大体のイメージです。パイロットの商品名はこのように紛らわしいのですが、2桁の数字は基本的にパイロットの創業から何周年で発売されたかを表し(中にはカスタム98のように、このルールに従わない物もありました)、2桁の物は価格が1万円台です。3桁の場合は末尾の数字の1万倍が希望価格ということになっています。カスタム ヘリテイジ91はパイロット91年目に発売された1万円台の万年筆、カスタム ヘリテイジ912は91の上位品に当たる2万円の万年筆ということになります(912は91の上位品ということで、91周年目に発売したということではないらしい)。

 とあるお店にカスタム74とカスタム742のそれぞれ細字、中細字、中字、細字軟、中細字軟が試し書き用に並んでいました。ちなみにカスタム74は14K5号ニブ、カスタム742は14K10号ニブを装着した万年筆で、10号ニブの方が若干大きいです。軸もカスタム742の方が一回り大きくなります。細字にこだわる私は74と742の細字を書き比べてみたところ、確かに742の方がより滑らかで、多少柔らかな感触がありましたが、それほど大きな差は感じなかったというのが正直なところです。それだけベーシックモデルの74が良くできているということでしょうが、この程度の差なら742を購入するという選択肢はありません。そこで次に細字軟を書き比べたところ、こちらは742の方がよりソフトで、細字よりも差が大きな感じを受けました。なのでカスタム742の細字軟には大いに興味を持ったのですが、一つ大きな問題があります。それは、カスタム74も742も、デザインが嫌いなこと。特にクリップの形状が嫌いです。で、たまたまそのタイミングで店員さんが声を掛けてきたので、カスタム ヘリテイジ912の細字軟をケースから出してもらい、それにインクを付けて入念に試し書きした上で購入を決定しました。カスタム742とカスタム ヘリテイジ912は軸と装飾だけの違いですから、軸の形状、バランス、色など、どちらが好みかで選択すると良いと思います。なお、カスタム ヘリテイジ912はこの黒/銀の一色しかありません(限定品を除く)。


         パイロット カスタム ヘリテイジ912 ブラック 万年筆 細字軟

 カスタム742とカスタム ヘリテイジ912の大きな特徴は、何と言ってもペン種の多さ。極細字(EF)、細字(F)、中細字(FM)、中字(M)、太字(B)、極太字(BB)という基本的な6種に加え、細字軟(SF)、中細字軟(SFM)、中字軟(SM)という軟調ニブ3種、さらにコース(C)、ミュージック(MS)、スタブ(SU)、ポスティング(PO)、ウエーバリー(WA)、フォルカン(FA)という特殊ニブ6種、計15種類という圧倒的な種類の多さです。軟調ニブは基本的なニブと字幅はほぼ同じでより軟らかいニブ、コースは特大ペンポイントが付いた、どんな筆記角でも超極太で書けるニブ、ミュージックは本来は音符用で、縦線が超極太、横線が中細というタイプ、スタブはミュージックよりも縦線がやや細いタイプ、ポスティングはニブ先端が下を向き、どんな筆記角でも気持ちよく細字で書け、簿記などに向いたタイプ、ウエーバリーは字幅が中字相当でニブが上に反っており、当たりが柔らかいタイプ、フォルカンは字幅が中字相当で、ニブの両サイドをえぐり取り、軟調ニブよりもさらに軟らかく加工したニブです。日本で入手できる万年筆では、最も多くのペン種が揃ったモデルで、逆に言えばどれを選ぶか迷うところです。

 細字軟は、力を抜いて寝かせて書けば、非常に滑らかなタッチが得られ、字幅は細字とそんなに変わりませんが、微妙な筆圧の変化に反応し、字幅が変化しますので、抑揚の付いた味のある字が書けます。その反面筆圧が高い人には不向きで、特にペンを立て気味にして書く人にはお勧めできません。筆圧が高い人は、通常のニブを選択した方がよいでしょう。

 パイロットの万年筆はショートサイズを除き、胴軸が比較的長めで、キャップを挿さずに書いても問題はありません。また、胴軸がある程度太くて長いタイプは、CON-70という、大容量のコンバーターが使えるというメリットもあります。もちろんカスタム ヘリテイジ912にも対応しており、最初から付属しています。せっかくですからこのCON-70を使って、ボトルインクを吸入して使うことをお勧めします(もちろんカートリッジインクも使えますし、パイロット製の他のコンバーターを装着することも可能です)。ただ、CON-70は洗浄が少々面倒で、どうしても内部にインクが残りやすいので、インクの色は最初から決め、ずっと同じインクを使う方がよいでしょう。

 定番品であるカスタム74からのステップアップなら、この上のカスタム743とかカスタム845、吸入式のカスタム823あたりの方が、より差が大きく感じられると思われ、カスタム742やカスタム ヘリテイジ912は、やや中途半端な印象も受けます。むしろ余裕があるならば、初めての金ペンとしてカスタム74を飛ばし、このクラスから入るというのも良いかもしれません。74と742を並べて試し書き用を用意しているお店も多いので、書き比べてみると良いと思います。スタブ、ポスティング、ウェーバリー、フォルカンといった特殊ニブはこのクラスからですので、これらをお考えの方ならば第一候補となるでしょう。


カスタム カエデ(CUSTOM MAPLE お勧め品
14Kニブ、ネジ式キャップ、両用式

 カスタム742やカスタム ヘリテイジ912と同価格の木軸万年筆。ずっと5号ニブだとばかり思っていたのですが、店頭でガラス越しにニブを見たら「10」の刻印が見えた気がした(反射でよく分からなかった)ので、ケースから出してもらって確認したらやはり10号ニブ。ということは、木軸なのに樹脂軸と同価格で出しているということで、何か得した気分に。インクを付けてもらって試し書きをしたところ、5号ニブ(カスタム74の細字)よりも明らかに柔らかい。さらに、以前別の店舗で試し書きしたカスタム742(10号ニブ)の細字よりも柔らかく感じ、好みの感触だったので購入してしまいました。後で調べてみたら、カスタム742、カスタム ヘリテイジ912の10号ニブと、カスタム カエデの10号ニブは別物で、カエデには旧タイプの10号ニブを今でも使っているらしいです。カスタム742を試し書きしたのはカエデの1年も前なのによく覚えていたなぁ。やるなぁ私。何故そうしているかは分かりませんが、カスタム74シリーズよりも前から存在するモデルらしいので、今でもそのスタイルを変えていないのかもしれません。同列のカスタム742よりも若干ですが柔らかいので、このクラスを検討するならば、是非これも候補に含めて頂きたいですね。


        パイロット カスタム カエデ モクメ 万年筆 細字

 軸は国産イタヤカエデ材なのですが、胴軸の接合部は樹脂製で、キャップの内部も樹脂製です。胴軸は接合部だけですが、キャップ内部が全面樹脂製なのは、インクの湿気により素材を傷めないよう配慮されているのでしょう。そしてこのカエデ材は、強度を増すため樹脂を含浸させているそうです。また、カスタムシリーズと異なり、キャップリングはキャップエンドにあります(樹脂軸はキャップエンドよりも少し上にある)が、これも木材を保護するための仕様でしょうね。なかなか考えられた造りです。そしてクリップは金色のティアドロップ型。基本的に好きではないのですが、このカスタム カエデはそんなに嫌ではない。結局黒の樹脂だとこの形状がすごく目立って主張しすぎてしまうのが嫌だということなのかな。

 もちろんCON-70付属で使い勝手も良いですし、書き味も昔ながらの柔らかさを持ち合わせている。バランスも良く、樹脂、金属、ラッカーのいずれとも違う手触りも魅力ですし、木軸なので断熱性が高く、冬場のインクボタ漏れのリスクも少ないでしょうね。そして使い込むと少しずつ変色して味が出る。これが良い色に変色するまで使い込みたいですね。でも本質的には極めてオーソドックスな造りで、飽きの来ない万年筆だと思います。唯一気をつけたいのは、胴軸を外す際にネジを強く回さないこと。あまり強く回しすぎると、希に木と樹脂の接合部が外れてしまうことがあるようです。できれば木の部分ではなく、キャップを閉めるためのネジ山部分を持って外すとよいでしょう。


カスタム ヘリテイジ92(CUSTOM HERITAGE 92
14Kニブ、ネジ式キャップ、ピストン吸入式

 私が最初に購入した吸入式万年筆がこれでした。ニブはカスタム74と同じ14K5号ニブで、軸はアクリル樹脂製。色は透明ブラック、透明ブルー、透明オレンジ(2018年生産終了)、ノンカラーの4種類です。インクの吸入量は1.2mlで、ペリカンのスーベレーンM400やクラシックM200と同程度。個人的には不透明軸(インク窓付き)があっても良いかなと思っていたのですが、デモンストレータータイプは人気がありますし、カスタム ヘリテイジ91にCON-70を装着すれば、吸入量はほぼ変わらずに使えるわけですから、不透明軸を作ってもあまり意味がないのかもしれませんね。


        パイロット カスタム ヘリテイジ92 透明ブルー 万年筆 中細字  胴軸内部のピストンが透けて見える

 字幅はF(細字)、FM(中細字)、M(中字)、B(太字)の4種類で、私は珍しく中細字を選択してきました。というのは店頭にあったのが細字の透明ブラックと透明オレンジ、中細字の透明ブルーの3本で、オレンジは赤・橙・黄以外のインクを入れると軸が汚らしくなりそうなのでパス。透明ブラックは無難で良さそうだったのですが面白味はない。そこで近くにあったカスタム74試し書き用の中細字を手に取り、書いてみて字幅を確認し、中細でもいけそうだったので、透明ブルーの中細字を出してもらって試し書きし、購入してきました。ニブの構造は同じですし、パイロットの製品は字幅のブレが非常に小さいので、カスタム74の試し書き用(大抵のお店には置いてある)でカスタム ヘリテイジ92の字幅と書き味を大まかに確認することができるのです。

 書き味はニブが同じカスタム74と大きな違いはありません。購入時の重量はカスタム74の方が軽いのですが、カスタム74にCON-70を入れると、大体同じ重量になります。ベスト型の軸ならカスタム ヘリテイジ91という選択肢もあり(これも14K5号ニブ)、吸入式にこだわらないならば、カスタム74やカスタム ヘリテイジ91の方が安上がりです。吸入式にこだわるならカスタム ヘリテイジ92・・という感じでしょうか。吸入式といえば人気なのはペリカンのスーベレーンシリーズや、クラシックM200シリーズですが、カスタム ヘリテイジ92はスーベレーンシリーズの半額以下。クラシックM200とはほぼ同じ価格帯ですが、あちらはステンレスニブで、こちらは金ニブ。私ならM200よりもこちらですね。書き味はスーベレーンシリーズの方が良いと思いますので、あの書き味がお好きな方はそちらをどうぞという感じです。

 中細字は次項・カスタム74細字のようなカリカリ感があまりなく、より滑らかな感じになります。当然字幅は少し太めになりますが、7mm罫のノートでも十分に使える太さ。細字と中細字では意外なほど書き味が違いますので、細字を試し書きしてもう少し太くても良いかな?という時は、ぜひ中細字も試し書きして下さい。これはどんな万年筆にも言えることですが、字幅が太くなるほど書き味はより滑らかになります。


ブングボックスオリジナル万年筆 フジヤマブルー2022 
        (BUNGUBOX Orijinal FUJIYAMA BLUE 2022) お勧め品だがわずか数分で完売
14Kニブ、ネジ式キャップ、プランジャー吸入式

 パイロットは、ショップ限定品にはそれほど積極的ではなく、ブングボックス10周年で何かやりましょうということになっていた模様。そして10周年となる2022年、満を持して登場したのがこれ。静岡県に本店がある同店らしく、富士山をイメージしたカラーリングの万年筆。ランジャー吸入式という珍しい方式から、ベースとなっているのがカスタム823であることは明白です。


        ブングボックスオリジナル万年筆 フジヤマブルー2022 中細字

 写真は光の関係から金属パーツが薄い金色っぽく見えますが、銀色です。もっと光量のあるところで撮影できたらきっちり撮れるでしょうが、何卒ご容赦を。で、胴軸とキャップは透明ブルーで、天冠、首軸、尻軸、インナーキャップが不透明な青緑色。キャップを閉めると首軸とインナーキャップがくっついて、キャップ全体が青緑色に見えるようになっています。

 で、2022年夏頃発売ということでしたが、期日が延びて9月にずれ込みました。いざ発売すると、わずか3分で完売だったとか。多くのオリジナル万年筆はセーラー万年筆製で、パイロット製はそう多くないってことも理由だとは思いますが、それにしても即完売とは大人気でしたね。私はというと、企画段階で話を伺い、その場で予約してしまいましたから、手に入れることができました。

 ここからはベースモデルであるカスタム823の説明に移ります。透明な胴軸内部には金属の棒と、その先端にゴム製のピストンが見えると思います。これがプランジャーで、尻軸を緩めてプランジャーを引き出し、ペン先をボトルインクに漬けてプランジャーを押し込むと、内部の空気が押し出され、最後まで押し込むと陰圧が解放され、インクを吸入します。公称1.5mlの吸入量ですが、やり方によっては2ml以上吸入することもできます。とにかく大量筆記する人にカスタム823はお勧めです。この方式は珍しく、台湾のTWSBIがVAC 700とVAC miniを、イタリアのVISCONTIがパワーフィラーとして採用しているくらいかな。なので、万年筆好きの方なら物珍しさでこれを選ぶのも一興でしょう。ただ、プランジャー吸入式にこだわらないのであれば、同じニブを装着したカスタム743(カートリッジ・コンバーター両用式)でも良いと思います。カスタム823には筆記時に尻軸を緩め、インク止めを解除する儀式が必要ですが、カスタム743はもちろんその必要はありませんから、キャップを外してすぐに書くことができます。この儀式が面倒だと思うなら、カスタム743の方が無難でしょう。あと、これは特別仕様品なので中細字がありましたが、カスタム823は本来、細字、中字、太字のみ。カスタム743には極細字、細字、細字軟、中細字、中細字軟、中字、中字軟、太字、極太字、コース、スタブ、ポスティング、ウェーバリー、フォルカンと、14種類も揃っており、選択肢が多いです。太さや大きさはほぼ同じですが、内部構造の違いから重量やバランスは若干異なりますので、実際に持ってみて決めるのも良いでしょう。どちらもお勧めの品です。

 ニブはパイロット自慢の14K15号。14K5号ニブや14K10号ニブも良くできたニブですが、14K15号は単に大きくなっただけでなく、一段と当たりが柔らかくなり、書き味も一味違います。もちろん予算との相談となりますが、良い万年筆を1本欲しいという場合、5号よりも10号、10号よりも15号の方がお勧めです。その上のランクには18K15号ニブのカスタム845とカスタム槐(えんじゅ)が。これはパイロット渾身の名作と言えるでしょうが、軸が太すぎると感じる方もいらっしゃるでしょう。さらに上のカスタムurushi(うるし)に至ってはかなり極太の万年筆で、マニア垂涎の的ですが、よほど慣れた方でない限り、カスタム743あたりの方が扱いやすいと思います。ということで、パイロットで一番のお勧めは、私的には15号ニブ(14K or i8K)の万年筆、その次はカスタムカエデってところですね。


カスタム74(CUSTOM 74) お勧め品
14Kニブ、ネジ式キャップ、両用式

 四半世紀も前の1992年に発売された商品ですが、現在でもパイロットの主力商品として不動の地位を確立しています。これほど長く愛されるのは、造りの良さと安定した品質、金ペンエントリーモデルとして必要十分な性能と書き味を兼ね備えているからでしょう。初心者には非常に使いやすく、良くできた万年筆です。万年筆マニアには物足りないかもしれませんが、一方では様々な万年筆を使ってきて結局最後はここに落ち着いたという人もいるみたいです。2019年から2,000円値上げいたしましたが、むしろ今までよく1万円で頑張っていたなという感じです。

 軸は円筒形に近く、両端が丸くなっており、独特な形状のクリップがその存在を主張します。基本カラーは黒、青、赤、緑で、いずれも装飾部品は金メッキです。個人的には軸の形状はそんなに嫌いではないですが、クリップの形状が嫌いで、特に金メッキだと余計にその形が目立ちますので、あまり好みではないです。カスタム ヘリテイジ91とニブは共通なので、そちらを選択しても良さそうな感じでしたが、これに透明軸があることを知り、しかも装飾部品は銀色。無色透明な軸に銀色のクリップだとあまり形が目立たないため、私は透明軸の細字を選択しました。ただ、特殊ニブはブラックしかないのでミュージックは黒金です。透明軸はその特性を活かし、CON-70ベースの蒔絵コンバーターを入れて遊びました。


        パイロット カスタム74 上:透明軸ノンカラー 万年筆 細字 + BUNGUBOX蒔絵コンバーター(金魚)
                       下:ブラック 万年筆 ミュージック

 ペン種も11種類(EF,F,SF,FM,SFM,M,SM,B,BB,C,MS)と豊富です(記号の意味はカスタム ヘリテイジ912の項参照。CとMSは他よりも2,000円高いです)が、全部が揃っているのは黒軸のみで、赤・青・緑はEF,F,M,Bの4種、透明軸はF,Mの2種類だけです。


      カスタム74の14K5号ニブ 左:ノンカラーのニブはロジウムメッキ仕上げ
                       右:ブラック ミュージックのニブ。切り割りが2本でペンポイントが特大

 14Kニブで、通常タイプの細字は硬めの感触ですが、非常に良く研ぎ澄まされ、引っかかりは全くありません。パイロットの研ぎの技術は世界一とされており、その滑らかさは定評のあるところです。細字なのでどうしてもカリカリした印象は出てきますが、インクフローは潤沢で、速筆しても線が切れることは全くありません。パイロットの万年筆全般に言えることですが、インクフローは良く、ペンポイントを細く研ぎ澄ますことで字幅を細くしているようです。そのためいつでも気持ちよく書けるのですが、国産ライバル2社に比べ、筆記線のシャープさでは一歩譲ります。

 もう一本は特殊ニブのミュージックです。天才作曲家の・・いや、底辺の方で一応作曲らしきことをしている私にとって、ミュージックは一本持っていたいペン種なのです。ある店にカスタム74、セーラー万年筆のプロフィットスタンダード、プラチナ萬年筆の#3776センチュリーの試し書き用が全て揃っていて、そこでミュージックのみを比較。残念ながらプロフィットスタンダードはあまりピンと来なくて早々と脱落。後の二つの比較は迷いました。書きやすさで#3776センチュリーに傾きかけましたが、書いた字や音符を良く比較したら、カスタム74の方が味がある。慣れればこっちの方が良いかなと思ってカスタム74を選びました。それと、#3776センチュリーのミュージックは、より文字を書きやすいように調整された感じだったので、本来の音符用にも使うのであれば、カスタム74の方が向いているような気がしたというのもあります。このデザインは嫌いと書きましたが、ここは機能優先でした。まあ、ミュージックに関してはカスタム74の方が安いので、結果的には正解かもしれません。

 ミュージックは切り割りが2本あり、特大のペンポイントが付いています。縦線が超極太、横線は中細とか中字程度で、カリグラフィーペンに似ていますが、カリグラフィーペンにはペンポイントが無く、普通のニブの先端をすぱっと切り落とした形。線がよりシャープに出ますが、ミュージックやスタブの方が味のある字になります。ちょっと待って。ミュージックって音符用。ならば縦が細くて横が太い方がよいのでは?という疑問はごもっともですね。ミュージックを本来の音符用に使うには、ペンをほぼ真横に向けて使うのです。こうすれば縦が細く横が太くなりますが、慣れないうちは難しいですね。

 というわけで、ミュージックは本来の音符用としてよりも、味のある文字を書く用途に意外と売れているようです。そこの店員さんの話によると、味のある字で手紙を書きたいと言って、初めての万年筆でミュージックを買っていく客もいたとか。なるほど、人それぞれですね。まあ、面白い万年筆であることは確かですが、インクはドバドバ出ますから、インクの減りが異様に早いことと、紙質を選ぶ(質の悪い紙では滲んだり裏抜けしたりする)のは覚悟しておいて下さい。私はカリグラフィー的な使い方のみでなく、本来の音符用としても使用しているのでインクは黒を入れていますが、カリグラフィー的な使い方のみであれば、カラフルなインクを使っても良いでしょうね。

 カスタム74もカスタム ヘリテイジ91も、CON-70が使える仕様ですが、別売となっています。せっかくですからCON-70を使用するのがよいですし、特に透明軸は中が見えるので、CON-70が入っていると中に何かギミックが仕込まれた感が出て良いかなと思います。


エラボー(ELABO
14Kニブ、ネジ式キャップ、両用式

 パイロットのウェブサイトによると、初代エラボーは1978年、全国万年筆専門店会と共同で開発されたようで、現在のエラボーも基本設計は受け継いでいます。エラボーのペン種は極細字軟(SEF)、細字軟(SF)、中字軟(SM)、太字軟(BF)の4種で、全てが軟調ニブ。特にSEFとSBは、エラボーだけにあるペン種です。エラボーの基本理念は「軽いタッチで字幅の強弱といった微妙なニュアンスを表現する」、「日本の文字の特徴であるとめ、はね、はらいを美しく書くことができる」であり、全品軟調ニブなのは、これらを実現するために不可欠な仕様だったのでしょう。

 しかし筆記具の主流が徐々にボールペンに移行し、筆圧の高い人が増えてくると、全品軟調ニブのエラボーは徐々にその存在意義を失い、やがて廃番となり、海外向けにNamiki Falconとして輸出するのみとなってしまっていたようです。ですが、書類や日記をワープロソフトで書くことが当たり前となった昨今、手書きの良さが見直されつつあり、実用的なボールペンよりも、面倒くさいけど表現力豊かな万年筆を好む方々が増えてきており、一度廃番となったエラボーが、2009年に復活を遂げます。新たに登場したエラボーは堂々とした金属軸の万年筆に変貌を遂げていましたが、後にかつてのエラボーを踏襲した樹脂軸も追加されました。

 軟調ニブはカスタム74などにもありますが、エラボーの軟調ニブはこれらとは異質。カスタム ヘリテイジ912の細字軟と、エラボー樹脂軸の細字軟を比べると、全然書き味が違います。カスタム ヘリテイジ912の細字軟は、細字と同じ(オーソドックスな)形状の14K10号ニブですが、エラボーの細字軟はニブの中央部から先端にかけてぼこっと膨らみ、先端がややお辞儀をした、他に類を見ない形状。この独特な形状がエラボーの書き味を生み出しているのでしょう。書いているとこの膨らんだ部分が筆圧に反応して動く感覚があります。意図的に力を入れてしならせてみると、どちらも同じくらいにしなりますが、カスタム ヘリテイジ912の細字軟の方が、抵抗感が少ない感じ。しかし、書いてみるとむしろ、エラボーの細字軟の方が、筆圧の変化により敏感に反応するように思います。カスタム ヘリテイジ912の細字軟は腰のない柔らかさ、エラボーの細字軟は腰のある柔らかさと言うべきでしょうか。ペンを寝かせて筆圧を掛けずにサラサラと、思いついたことを書くのであればカスタムシリーズの軟調ニブの方が向いていると思います。エラボーの軟調ニブは、ゆったりと、そして筆圧を微妙に変化させて、文字に表情を付けるというのが本来の使い方なのでしょう。それ故かしこまって手紙などを丁寧に書くのに向きますし、その表現力は行書などの縦書きにより向いているでしょう。エラボーはペンを立て気味で書いてもちゃんと書けるのですが、表情豊かな字を書くためにはペンを寝かせて書くべきで、ペンを立て気味に書く人にはあまり向かない気がします。エラボーのニブは金の品位、メーカー名、字幅の刻印はありますが、装飾的な刻印はなく、高級品としては至ってシンプルです。これはニブのしなりの邪魔になる刻印は極力入れないということだそうです。性能を重視した造りということですね。


        パイロット エラボー 樹脂軸 ブラック 万年筆 細字軟

ニブはこのように、中央より先が出っ張った特殊な形


 金属軸と樹脂軸では当然金属軸の方が重いのですが、その他にも微妙な違いがあり、使えるコンバーターの種類も違います。金属軸は大容量のCON-70が付属しており、他のコンバーターも全部使えますが、樹脂軸はCON-50(現在新たに製造されている物はCON-40)が付属しており、CON-70は入りません。金属軸は新たに設計する際にCON-70が入る仕様にしたようですが、樹脂軸は昔のエラボーを踏襲しているため、CON-70は入らない仕様になっているようです。CON-70が使えないのは残念ですが、重量は金属軸の33gに対し、樹脂軸は18gと約半分しかありません。価格も樹脂軸の方が7,000円安いです。重さを利用して書ける金属軸がお勧めなのでしょうが、私はこのペンに関しては重さを持てあまし気味だったので樹脂軸にしました。エラボーを買い求めるのであれば、金属軸と樹脂軸を書き比べる方がよいでしょうね。

 ところでこのエラボー、2012年頃に、全色全ペン種のメーカー在庫がゼロという、異常事態になったことがあるようです。Namiki Falconでカリグラフィーをする動画がネット上で話題となり、指名買いする客が押し寄せた結果そんな状態になったようですが、あの動画と同じことをしてはいけません。一発で壊れてしまいます。動画で使っていたファルコンはニブをフレックス加工してあるようで、ノーマルのエラボーはあんな風に切り割りが開きませんし、仮に常時あそこまで切り割りを開いて書いていたら、そのうち元に戻らなくなるでしょう。

 一度あるお店で、丁度来店していた外国人の女性にフレックスペンで書かせてもらったことがあります。その女性は「ワラマン」と言っていたので、「ウォーターマン」の古いペンでしょうね。フレックス=柔らかいという印象を持っていましたが、押しつけて書けば切り割りが開くというだけで、柔らかいというよりもむしろ反発力が強い印象でした。エラボーとは感触が似ていなくもないですが、切り割りの開き方は明らかに異質です。フレックスペンは面白かったです。力の加え方によって自由に線の太さが変えられるので、カリグラフィーペンやスタブニブよりも表現力が高いですね。でも今では珍しく、多くは普通のペンをフレックス加工して使用しているようです。ノーマルのペンで真似をしないように。


グランセ,グランセNC(GRANCE,GRANCE NC) お勧め品 
グランセNCはスターリングシルバーを除き生産終了

14Kニブ(グランセNC スターリングシルバーのみ18K)、嵌合式キャップ、両用式
2018年にステンレスニブのグランセも発売

 カスタムシリーズはパイロットの主力商品ですが、グランセはやや別路線で、昔ながらの細身・小型ニブの万年筆に、モダンのエッセンスを加えたようなシリーズです。シンプルながらもなかなかスタイリッシュで、カスタム74よりもこちらの方がデザインは好きですね。グランセはパイロット伝統の(?)玉クリップですが、グランセNC(ニュークリップ)は、クリップの形状がより現代風に変更され、さらにニブがロジウムメッキ処理されています。ただ、基本的には中身に大きな違いはありません。グランセシリーズの胴軸とキャップは真鍮製。グランセはベースモデル4色と、胴軸がストレートラインのロジウムメッキ、キャップがマーブル塗装の物(ロジウムコンビタイプ、全4色)があり、グランセNCには単色塗装タイプ4色とスターリングシルバー(模様は2パターン)がありますから、軸色はけっこう豊富です。なお、スターリングシルバーとは92.5%以上の銀合金で、装飾品分野ではこれを純銀と称します(99.9%以上の銀では軟らかすぎるため)。お店によってはまだグランセ スターリングシルバー(生産終了品)が残っているかもしれません。現行品のグランセNCスターリングシルバーはクリップが銀色ですが、グランセ スターリングシルバーはクリップが金色なのですぐに分かります。実はグランセNCスターリングシルバーより5,000円安いのでお得です。


        パイロット グランセNC 2016年限定カラー ドルフィンストーン 万年筆 細字

 軸やキャップは真鍮製ですから、細身でも意外と重量感があります。ニブはカスタム74よりも小さい3号ニブで、材質は14Kですが、スターリングシルバーのみ18Kの3号ニブです。私のはグランセNCの2016年限定カラー、ドルフィンストーンの細字。格式張った場では使いづらいですが、普段使いなら面白い色です。

 細字での比較ですが、3号ニブは5号ニブよりも筆記線がややシャープで細い気がします。カリカリ感も強いですが、パイロットらしく引っかかるところは何もありません。ニブも小さいので、初心者にも違和感なく使えそうですし、何より細身で手軽で書きやすい万年筆です。初心者にお勧めなのは5号ニブのカスタム74ですが、細軸が好きな方や、すっきりしたデザインが好きな方には、グランセシリーズもおすすめです。なお、スターリングシルバーは同じ3号ニブでも18Kなので、書き味が少し違います。

 細身でも長さはカスタム ヘリテイジ92とほぼ同じで、キャップをペン尻に挿さなくても十分に書けます。キャップが重い分、キャップを挿すとややテールヘビーになるため、キャップを挿すか挿さないかは好み次第ですね。細身でスタイリッシュですから、スーツのペン差しからさっと取り出して書いたりするのにも便利だと思います。柄も豊富なので、細身の万年筆が好みの方にはお勧めできる万年筆です。

 なお、グランセNCは、スターリングシルバーを除き2018年に終了しましたが、後継品としてグランセから、NCと同じ形状のクリップで新色が出ています。要するにグランセとグランセNCを再統合したということなのでしょう。どさくさに紛れて(?)二千円ほど値上げしてますが。あと、ステンレスニブのグランセも発売されています。


レガンス89s(LEGANCE 89s) 生産終了品
レグノ89s(LEGNO 89s) 生産終了品
ステラ90s(STELLA 90s) 生産終了品
14Kニブ、嵌合式キャップ、両用式

 3つまとめての紹介ですが、この3つはご覧のように全くの同型で、軸の材質のみが違います。


        上:パイロット ステラ90s ナイトブルーマイカ 万年筆 細字
        中:パイロット レガンス89s レッド 万年筆 細字
        下:パイロット レグノ89s ディープレッド 万年筆 細字

 レガンス89sは、マーブル模様のセルロースプロピオネート樹脂、レグノ89sはコムプライト(積層強化木:国産樺材を薄くスライスし、樹脂を含浸させて重ね合わせ、熱と圧力をかけて接着した物)、ステラ90sは真鍮にパーリーラッカー塗装です。89sや90sの数字はパイロット創業から何周年目に発売したかを表し、後ろに付いているsは、ショートサイズの万年筆である事を表します。そして、レガンス89sとレグノ89sは、カートリッジ込みで18gほどですが、ステラ90sは金属軸であるため、26gと他の2つよりも重いです。個人的には手帳などを手に持って書く際には軽いレガンスやレグノが使いやすいと思いますが、デスクで使う場合は重くて安定感のあるステラが好きです。レグノは軸が少々滑りやすいですが、この手の小さな万年筆はそもそも首軸を持って書くのが基本ですから、あまり問題はないでしょう。樹脂加工してある事で割れにも水にも強くなっています。

 ニブはグランセと同じ14K3号という小型ニブですが、これがなかなかの実力派。滑らかで腰のある感触、そしてこの小さなニブは、細罫の手帳に小さな字を書くのにも向いています。ショートサイズですからポケットへの収まりも良く、機動力は抜群。軸の好みと重さの比較でどれを選ぶかというところです。あと、財布との相談も。価格は

レガンス>レグノ>ステラ


となっています。

 残念ながら3種類とも生産終了。いずれも店頭にまだ残っているお店もありますが、パイロット社からの出荷は終了しているようです。パイロットのショートサイズは他にエリート95sがありますが、個人的には独特な形状のエリートよりも、カスタムヘリテイジをまんま小さくしたようなレガンス、レグノ、ステラの方が好きです。人気があるのはエリートですけどね。ちなみにエリート95sは首軸とキャップが長くて胴軸は極端に短く、長いキャップを短い胴軸に挿す事で、筆記時には通常の万年筆と遜色ないサイズになります。


キャップレス デシモ(CAPLESS DECIMO) お勧め品
18Kニブ(内部ユニット式)、キャップ無し(ノック式)、両用式

 世界的にも珍しいキャップの無い万年筆です。他にはラミー ダイアログ3などがありますが、キャップレスは何と、初代が発売されたのが1963年。私が生まれる前からこんな斬新な物を造っていたというのですから驚きです。


        パイロット キャップレス デシモ ライトブルー 万年筆 極細字

 普通の万年筆は、首軸にニブが取り付けられていますが、キャップレスの場合は完全に別で、軸の内部にボールペンの替え芯のようなユニットが入っています。これをボールペンのようにノックや回転で繰り出して使うように造られていますが、ボールペンと決定的に違うのは、ユニットを収納した際に先端部のシャッターが閉まること。これによりインクの蒸発を抑えています。少々頼りなさそうに見えますが、1ヶ月も放置すればともかく、週に一度でも書いていれば、乾くことはありません。これも50年以上にわたって改良を重ねてきた結果でしょうね。


             キャップレス デシモの軸を外し、ユニットを取り出したところ

 キャップレスシリーズにはキャップレス、キャップレス デシモ、キャップレス フェルモ、キャップレス 木軸、キャップレス 螺鈿などがあり、フェルモは初代と同じ回転繰り出し式ですが、他はノック式です。比較的重めの万年筆で、キャップレスとフェルモ、螺鈿は真鍮軸で約31g、木軸でも約26gありますが、デシモはアルミニウム軸で他よりも細く、重量は約21gと軽めになっています。私は重めの万年筆を好むのですが、キャップレスには機動力を求めたので、店頭で持ち比べ、軽いデシモを選択しました。また、極細字があるのがキャップレス マットブラック、木軸とこのデシモ。手帳など細い罫のノートに小さな字を書くという事も頻繁にあるので、極細字のあるデシモは有り難い仕様でした。

 キャップレスシリーズの特徴として、クリップがペン先側に付いていることが挙げられます。ボールペンならノックボタン側に付いているのですが、万年筆はペン先を上に向けて持ち歩く必要があるため、必然的にクリップがペン先側に来るわけです。これが嫌という意見も多いですし、私自身もこれが気になって躊躇していたわけですが、いざ手に取ってみたらあまり気になりませんでした。むしろクリップを避けて持つことで正しい持ち方ができますし、クリップが真上になるように持つとニブも真上を向きますから、変に捻って書く癖のある人には良いのかもしれません。

 デシモというのは10番目という意味ですが、何をもって10番目としたかはよく分からず、パイロット社内でも異論があったとか・・。キャップレスの最も安価なモデルは特殊合金(ステンレス系)ニブですが、他は18Kニブで、ペン先を繰り出すと、非常に細いニブの先端部分が顔を出します。ペン先を繰り出した状態の形状は、フーデッドニブの万年筆という感じですね。この18Kニブは、意外としなります。書き味が柔らかいという感じではなく、硬めの感触ですが、想像していたほどは硬くなかったですね。私のは極細なので、カリカリした書き味ですが、パイロットらしく嫌な引っかかりは皆無です。私はカリカリしたのも嫌いではないですし(元々細字好きですから)、5mm罫のノートでも余裕で漢字が書けるのですから文句はありません。常に机上で使うのも決して悪くはないと思いますが、書き味ならこれよりも良いのはいくらでもありますから、私はキャップレスは持ち運び用と割り切って使っています。常に机の上に置いて使うのであれば、カスタム74とかの方が良いと思います。

 キャップレス最大の難点は、インクの残量が確認しづらいこと。ペン先を収納した状態で、軸を外してユニットを取り出し、ユニットの尻の部分にある中パイプを外さないと、インクの残量が分からないのです。頻繁にこの操作をするのも気が引けますので、カートリッジを使用し、常に予備を持ち歩くのがよいでしょう。あるいはコンバーターを装着して定期的に(インクがまだ残っていても)インクを吸入するかのどちらかですね。ちなみに吸入する際も、内部のユニットを取り出し、中パイプを外して吸入するという儀式が必要ですから、他よりも面倒です。まあ、さすがにカートリッジやコンバーターを直接押して繰り出すのは問題があり、金属のカバーを付けることで強度を確保しているのでしょうね。もう一つ、難点とは言えない程度のことですが、構造上どうしてもニブがごくわずかにがたつきます。一般的なボールペンに比べれば無いに等しい程度のものですが、首軸にがっちり固定されたシェーファーのインレイドニブを使い慣れた私にとっては、最初若干の違和感がありました(今ではもう気になりません)。全体的には機動力が高く、一本持っていれば何かと便利な万年筆だと思います。


セレモ(CELEMO) 生産終了品
14Kニブ、嵌合式キャップ、両用式

 カスタム74の項で金ペンエントリーモデルと書きましたが、最安値なのはこちら。希望価格5,000円で、小さいながらも14Kのニブが装着されています。


        パイロット セレモ レッド 万年筆 細字

 30年以上も前からある万年筆のようで、昭和の香り漂うレトロな細軸の万年筆ですが、胴軸の長さはそれなりにあり、キャップを挿さなくても書けそうです。ただ、この万年筆はとにかく軽い。キャップ無しの状態ではカートリッジインク込みでも10gを切ってしまいますから、キャップをペン尻に挿して重量を足した方が書きやすいと思います。

 金ペン最安値とあれば、書き味も大したことがない・・ということはありません。硬くてコリっとした感触ですが、ペンポイントは良く研ぎ澄まされていて、滑らかです。それ以上のことはないですが、書き味が悪いということはありません。インクフローは良く、筆圧も全く不要で、この価格帯なら最高クラスの書き味かもしれません。世界一の研ぎと言われるパイロットの名に恥じない製品です。

 字幅は細字と中字のみで、選択肢は多くありませんが、細字か中字でよいのであれば、これを選択するのもありだと思います。何しろ細くて軽いですから機動力は抜群で、持ち歩き用にこれを使うというのもありですし、手の小さな女性にも合うかもしれません。安いながらも意外と良いというのが素直な感想です。


カヴァリエ(CAVALIER お勧め品
ステンレスニブ、嵌合式キャップ、両用式


 カヴァリエは2018年にリニューアルされ、軸の塗装などが刷新されましたが、大筋では従来品を踏襲した造りです。ただ、クリップの形状が変わり、すっきりした形になっています。また、従来品はキャップサイド部分にクリップが取り付けられていたため、ポケットなどに刺しても上部が1cmちょっと顔を出すような仕様でしたが、新しいクリップは天冠部に取り付けられており、ポケットの深さが足りていればすっぽりと収まる仕様になっています。軸色も従来品よりすっきりした感じがします。


        パイロット カヴァリエ パールホワイト 万年筆 細字

 金属軸にパールラッカー塗装のタイプと、マーブルラッカー塗装の物があり、マーブルの方が価格が高くなりますが、パールラッカー塗装も質感は良く、色も綺麗で、私はこちらの方が好きです。構造的な違いはないので、書き味は変わりませんから、ここはリーズナブルな方を選んでも良さそうです。キャップに品名と社名が印刷されているのですが、これらがリング部分に型押しされていればより高級に見えるのですが、そこら辺は仕方ないかな。キャップを外すと小さなニブが出てきて、これもあまり高級感はありません。でもその実力は・・。

 ニブは上のセレモに似た形状で、昔ながらのスタイルですが、こちらは特殊合金(ステンレス系)ニブです。軸は細身ですが、金属製なので、それなりの重さはあり、軽すぎる感のあるセレモよりもむしろこちらの方が、しっくりと手になじむと思います。書き味はパイロットらしく硬いですが、インクフロー良く、研ぎもきっちりしているため、滑らかな書き味で、価格以上に良くできた万年筆だと思います。初めての万年筆としてお勧めですし、使い慣れた方でも普段使いで使い倒す用にしても良いでしょう。で、もう少し太めの軸が良いなら下のコクーンあたりを選ぶと良いかと思います。


プレラ、プレラ 色彩逢い、コクーン、カクノ(PRERA、PRERA IROAI、COCOON、kakuno) 
お勧め品

ステンレスニブ、嵌合式キャップ、両用式

 一緒くたにまとめましたが、これらは全部、ペン先ユニットは共通です(ニブ表面の刻印などに差はありますが)。プレラは短軸の万年筆、プレラ 色彩逢いはその透明軸版、コクーンは金属軸のすっきりしたデザイン。カクノは国産初の子供用万年筆で、六角形のプラ軸です。カクノのニブには顔型のマークが入っており、顔を上に向けて持つというように説明されていることからも、子供用であることが伺えます。この中で持っているのはプレラ 色彩逢いとカクノですが、プレラはプレラ 色彩逢いと構造は同じ、コクーンも試し書き用は店頭で何度か書いていますので、一応書いておきます。


        上:パイロット プレラ 色彩逢い 透明ライトグリーン 万年筆 細字  コンバーターは付属品
        下:パイロット カクノ オレンジ 万年筆 細字

 いずれも特殊合金(ステンレス系)ニブですが、パイロットらしく良く研がれており、引っかかり感は皆無です。ただ、硬くてカリカリしている(特に細字は)という点は否めないですね。安い割には良くできていますし、カクノは1,000円ですが、手抜き感もありません。将来パイロットの上級品を買ってもらいたいわけですから、万年筆ってこんな物?といったイメージを持たれたら困るわけで、低額品のカクノでもちゃんとした物を提供しているのでしょうね。

 基本的には細字と中字のラインナップですが、プレラ 色彩逢いのみにカリグラフィーM(CM)というニブが用意されています。これはニブの先端部分を切り落とした特殊な物で、縦線は太く、横線は細く出ますので、飾り文字を書くのに向いているニブです。ミュージックやスタブと似た性質ですが、それらよりも描線がシャープですし、安くて気軽に使えるので、カリグラフィーに興味のある人は、こういう物から始めると良いでしょうか。カリグラフィーはカラフルなインクを使うことも多いので、インクの色も楽しめるスケルトンタイプのプレラ 色彩逢いのみにこの設定があるのでしょうね。そして最近になって、カクノに極細字と透明軸が追加されました。胴軸が白いタイプと透明軸に、極細字があるようです。

 プレラは短軸の万年筆ですから、筆記する際にはキャップをペン尻に挿すのが基本です。その機動力を生かした持ち運び用として使うと便利でしょう。プレラ 色彩逢いは透明軸で、最初からコンバーターが入っています(他は別売)。プレラ 色彩逢いには、パイロットの人気シリーズである色彩雫というインクと併せて使用するというコンセプトがあり、カラフルなインクを吸入して使うのに向きます。コクーンはすっきりした金属軸でやや重め。それなりに見栄えも良いですし、書きやすい万年筆ですから、仕事で使うのならこれが良さそうです。カクノはコンセプト通り、子供に最初の万年筆として与える物なのですが、2013年10月の発売以来、最初の1年で50万本を超える大ヒットとなった背景には、大人が初めての万年筆として購入したり、フォーマルでは使えないカラフルなインクを楽しむために購入していくというのが、実際には多いようです。若い女性には「かわいい」と映るらしく、結構人気です。子供用でもコンバーターが使えますから、インクとの組み合わせは自由に選べます。なお、カクノには胴軸が2種類あるようで(外観では分からない)、物によってはCON-70も装着できます(我が家にある胴軸がグレーのカクノ3本の内、2本はCON-70が入りました)。ただ、ペン芯がCON-70対応の仕様ではないため、カスタム74のような正規対応品に比べ、少々吸いづらいです。普通に使うならば正式な適合品であるCON-40、CON-20、CON-50を使うべきでしょうね。

 それと、カクノにはキャップに3つ、胴軸に2つの穴が開いています。子供用ということで、万が一誤飲した際の気道確保が目的ですが、キャップの穴はインクの乾きの原因となりますし、胴軸の穴も、万が一インクが漏れた場合にそこから垂れてきますから、私は木工用ボンドで塞いでしまいました。これによりインクの乾きはだいぶ改善されていますが、子供のいる家庭とか、子供に使わせているのならば塞ぐべきではないでしょう。