U-Maの音楽館

PARKER


PARKER(パーカー) アメリカ→U.K.

 世界で最も愛される筆記具・パーカーは、G.S.パーカーが1888年に筆記具の製造開始以来続く、歴史ある筆記具メーカー。元々はアメリカのメーカーでしたが、1987年に英国資本が入り、拠点を英国に移転。1993年にプロクター&ギャンブルの傘下となり、2000年にはニューウェルブランズの傘下となっております。2009年には英国の生産拠点を閉鎖し、現在では実質的にフランスのメーカーですが、今でも英国メーカーというイメージがありますし、輸入筆記具協会のカタログでもEnglandとなっていますので、一応U.K.と標記しました。恐らくは英国で企画・設計してフランスで生産しているのでしょう。1954年に発売されたジョッターは、優れた性能を持つボールペンとして、現在でも販売が続いているロングセラー品。そのボール加工技術は、NASAが人工衛星の製造にも応用したとされるほど。また、国産ボールペンがまだまだ十分な性能ではなかった頃、パーカーのボールペンは品質の良いボールペンとして、日本でも多くの愛用者を掴んでいました。万年筆の進化にも多大な影響を与え、ほとんどのメーカーが、パーカーの開発した技術を採用しているとされています。品質の高さにも定評があり、パーカー製品は当たり外れが少なく、故障も少ないようです。また、万年筆、ボールペン、ローラーボールの良いところ取りで欠点を解消した次世代の筆記具”5th”を開発するなど、革新的な技術で、より使いやすい筆記具を開発しています。ただ、最近高級化路線を歩んでいるようで、以前に比べて価格もだいぶ高くなっているのが少々残念です。デュオフォールド、プリミエ、ソネット、インジェニュイティ、アーバン、IM、ジョッターと、2016年を中心に、輸入している全てのシリーズがリニューアルされています。パーカーとしてはより魅力的な商品に・・という目論見だったのでしょうが、残念ながら私はどの商品もリニューアル前の方が魅力的だと思いますし、他の方に聞いても大体同じ意見ですね。

 パーカーの万年筆は全般的にインクフローが良く、インクにとろみを付けることによりフローを調整しています。そのためサラサラのインクを入れるとフロー過剰になりやすいので、パーカーの万年筆にはパーカーのインクをお勧めします。パーカーのインクを他メーカーの万年筆に入れた場合は、フローが渋くなり、インク切れを起こす可能性があるのでこれも要注意です。

 また、パーカーの筆記具でキャップ式の物は、大抵はキャップのどこかに通気孔が開いています。ネジ式キャップのデュオフォールドにも、あるいはインクが漏れないはずの5thにも通気孔が開いているため、キャップを抜いた際のインク漏れ防止ではなく、誤飲した際の気道確保が目的と思われます。これが少々厄介で、他メーカーよりもインクが乾きやすい印象です。なのでパーカーの万年筆等は、落書きでも何でも良いので定期的に使ってあげてください。品質良く故障も少ない優秀なメーカーで、これさえなければ誰にでもお勧めできるのですが・・。なお、この穴は購入時に希望すれば、メーカー送りで塞いでくれるらしいです(時間はかかりますが)。

 2021年2月、往年の名品、パーカー51が復刻発売されるようです。パーカーのベストセラーと言えば#51と#75ですが、#75にはソネットという後継品がありますから、こちらの復刻はないでしょうね。


DUOFOLD(デュオフォールド)
18Kニブ、ネジ式キャップ、両用式

 1921年に誕生した、パーカーのフラッグシップモデル。それまでにないほど大型のニブを装着し、耐久性も備えた逸品です。デュオフォールドという名前は、当時の一般的な万年筆の、倍の量のインクを吸入できることが由来だとか(現在ではカートリッジ/コンバーター両用式になっています)。1945年、マッカーサー元帥が太平洋戦争終結文書に署名した万年筆はデュオフォールドでした。それ以外にも様々な調印などで頻繁に登場してきた万年筆です。

 2016年にニューモデルが発売されましたが、私のは先代モデル。ニブと天冠にスペード(エース)の紋様があるのは2005年からで、尻軸の刻印にMade in UK TIとありますので、2005年7〜9月製です。デュオフォールドの場合、クリップの陰に小さな通気孔が開いています。


        パーカー デュオフォールド ブラックGT センテニアル 万年筆 極細字

 デュオフォールドは、モンブランのマイスターシュテュックなどと並び、万年筆の王道とも言えるもの。どちらか一本はずっと欲しかったのですが、高価な物で新品にはなかなか手が出ない。中古でも安く出てくるのはやや程度の落ちる物。しかも私は字幅の細いのが好きなので、どちらも極細しか選択肢がない。そして最近はモンブランというブランド自体に興味を失っているため、デュオフォールドの程度の良い物でXFという条件でじっと待っていたら、ようやく出ました。ブラックGTセンテニアルのXFです。デュオフォールドにはマーブルやチェックの綺麗な柄のやつもあり、そちらを狙ってはいましたが、出てきても多くはF以上。ブラックGTセンテニアルのXFで割と程度の良い物が、思ったよりもずっと安く出てきたのでこれをゲットしました。これはこれで高級感がありますし、黒金の大柄な万年筆は大いに存在感があります。2016年モデルはキャップリングが太く一本、先代は二本リング。個人的には先代の方が好きですし、XFも無くなってしまったので現行の2016年モデルには興味なし。ましてや新たに追加されたデュオフォールド プレステージ(金属軸)はもはやデュオフォールドというイメージではなくなってきており、価格もかなり高い。高級化路線を歩むのは結構ですが、ソネットにしてもデュオフォールドにしても、個人的には先代の方が好きです。

 デュオフォールドにはセンテニアルとインターナショナル(2021年版のカタログからは抜け落ちました)がありますが、これはサイズの違いで、センテニアルの方がより大柄です。ニブは18Kで、先代モデルはルテニウム装飾のバイカラー仕上げです。現行モデルもバイカラーですが、ルテニウムではなくロジウムに変わっているようです。2017年版のカタログでは、デュオフォールドのペンポイントはルテニウム合金製と書かれています。通常はイリジウム合金を使うのですが、ルテニウムもかなり硬い金属ですから遜色はないのかもしれません。まあ結局はどの金属が一番多いかってことでしょうけどね。このニブは大きなサイズですがかなり硬い造りで、あまりしなりません。ペリカンスーベレーンM1000とは全く対照的ですし、むしろソネットの18Kニブの方が柔らかく感じるくらいです。ただ、滑らかさではデュオフォールドの方が上。まあ、書き味までソネットの方が上なら、別にソネットでいいじゃんってなるわけですからね。ソネットも滑らかな方ですが、デュオフォールドはもう異次元。しかも私のはXFなのにこの滑らかさは何なの?って感じです。サインを書くなどの用途に使えば抜群の存在感ですから、本当なら中字以上を選ぶべき万年筆なのでしょうね。私はそんな立場ではないので極細(XF)ですが、まさか極細でこんなに書き味が良いとは、恐れ入りました。キャップは尻軸にあまり深く刺さりません。そのためキャップをペン尻に挿すと、かなり長くなり、テールヘビーになります。首軸を持って書くならば、キャップは挿さない方がよいでしょう。また、キャップを挿さないのならば、個人的にはインターナショナルよりもセンテニアルの方がバランスが良く感じました。キャップを挿した際のバランスは、恐らくモンブラン マイスターシュテュックの方が良いでしょうね。デュオフォールド センテニアル、マイスターシュテュック149、スーベレーンM1000を並べて心ゆくまで比較したいところなのですが、あいにくそんなお金はありませんorz


PREMIER(プリミエ) 生産終了品
18Kニブ、嵌合式キャップ(最終型はネジ式)、両用式

 パーカー#75へのインスパイアから誕生したラグジュアリーモデル。#75の後継モデルとして「プリミア」を投入したのですが、#75を少し高級にした感じなのに価格は上がったようで、評判は芳しくなかったそうです。そこでデザインを一新し、より洗練されたモデルとして誕生したのが「ソネット」。「プリミエ」はというと、#75のイメージは残しつつも、より大柄でラグジュアリー感を出したモデルとして後に追加されたと記憶しています。#75が約20g、ソネット(オリジナル)が約25g、プリミエは約45gですから、かなり太く、そして長くなり、軸もより厚く作られています。その後、2015年前後にパーカーのほぼ全シリーズがモデルチェンジし、その際にプリミエはキャップが嵌合式からネジ式に変更されましたが、残念ながら今では生産を終了しているようです。


        パーカー プリミエ ラックブラックGT 万年筆 極細字

 写真のタイプは最終型の前の物で、2017年、最終型が出てしばらく後、よく行くお店にアウトレット品として入荷したので、半額で購入できました♪ 矢羽クリップの付け根が角張っているのが特徴で、このデザインは結構お気に入りです。最上級品のデュオフォールド センテニアルの方が大きいですが、あちらは30g弱ですから、こちらの方が圧倒的に重い。でもこの万年筆はとても滑らかで、胴軸を持ってペンを寝かせると、さらさらと書くことができ、全然筆圧が要りませんから、筆記がすごく楽です。極細字なのにこの滑らかさは、この個体がすごく出来の良い個体なのかもしれませんけどね。というわけで、パーカーの万年筆で一番気に入っているのはプリミエなのです。

 ただ、立ち位置が微妙だった点は否めません。パーカーの絶対的エースはデュオフォールドで、プリミエは#75を祖先に持つソネットの上位ですから、上の下というよりは中の上ってところ。プリミエ自体は豪華に見える万年筆ですが、ニブの大きなデュオフォールド センテニアルの方がより豪華には見える。近年パーカーもだいぶ商品が整理され、万年筆は細字だけ(デュオフォールドにかろうじて中字がある)という風になっており、プリミエはその波をもろに被ったという感じですかね。良い万年筆なのに勿体ないですが、それも時代の流れかな。かなりの重量級なので万人受けするタイプでもなかったですから。


SONNET ORIGINAL(ソネット オリジナル) 生産終了品(ソネットシリーズ自体は刷新されて継続中)
18Kニブ(ただしマットブラックGT/CT、ステンレススチールGT/CTはステンレスニブ)、嵌合式キャップ、両用式
ボールペンはツイスト式

 ソネットは往年のベストセラー・パーカー75の後継品で、世界一愛される筆記具”パーカー”の中でも中核品という位置づけです。以前のパーカーはパーカー45、パーカー51など、商品名にナンバーを付けていたのですが、創業100周年を迎える頃からナンバリングの商品を廃番とし、一般名詞を付けた商品名に変わっていますが、100周年を期にブランドイメージを一新する狙いがあったのかもしれません。

 ソネットは輸入しているパーカーの金ペンでは一番安価なシリーズで、18Kニブが付きます。ただ、同じソネットでもマットブラック(GT or CT)とステンレススチール(GT or CT)はステンレスニブです。以前は1万円台の金ペンも出していたのですが、金が高騰しているのに加え、パーカーも高級ブランド的にシフトしてきているようで、最近価格が高くなってきているのはちょっと残念。ソネットには高級モデル(ソネット プレシャス、現行ならソネット プレミアム)もありますが、基本モデルもデザイン良く、あまりごてごてした感じもなくて、見た目の印象は、個人的には良いと思います。

 ソネットは2015年10月にニューコレクションが投入され、オリジナルは次第に店頭から消えていきました。この万年筆は完全に消える前に、ヨドバシカメラで購入した物。ニューコレクションはパーカー全体のブランドイメージの統一と、さらにプレミアムなブランドに引き上げるためのコレクションで、確かにより洗練されたフォルムに変わっていますが、好きな色だったレッドGTからXF(極細字)が無くなり、しかも5,000円も高くなるとなれば、まだ市場にあるうちに旧製品を一本手に入れたかったのです。オリジナルのレッドGTはご覧の通りグロスラッカー仕上げ(より古いモデルはワインレッドだったとか)ですが、ニューコレクションのレッドGTは、少しマットな感じになります。パッと見て大きな違いは首軸が黒い樹脂から金属製に変わること。首軸を持つことの多い私は、できれば滑りにくい樹脂の方が好みなのです。首軸が金属製の物は前荷重になって書きやすいという性質は捨てがたいのですが・・。現行ソネットでXFがラインナップされているのはラックブラックGT、ラックブラックCT、プレミアム シルバー&ブラックシズレなど、一部のカラーに限られます。


        パーカー ソネット オリジナル レッドGT  上:ボールペン  下:万年筆 極細字

 ソネットの18Kニブは、かつてはもっと柔らかかったようですが、現行の物はかなり硬めになっています。ボールペンが主流となった今、筆圧が高い人に対応するための変化なのですが、昔からのファンには物足りなく感じるでしょう。ただ、硬いとは言ってもガチガチというわけではなく、ある程度の柔らかさも持ち合わせています。筆記角度も割と融通が利き、ペンを立て気味にして書いても寝かせて書いても、気持ちよく書けます。バランスも良いですし、ソネットはキャップが胴軸に深く挿し込めるのもポイント。キャップを外して書く時とペン尻に挿して書く時とで長さがあまり変わらず、キャップがバランスウエイトとして働く仕様です。外して書いても良いですし、少々軽いと感じるならキャップを挿して書けば、少しバランスが変わって、どちらでも好きな方で書いて下さいという仕様になっている感じです。世界で最も愛されるメーカーの中核品として、多くの人の手に合う仕様となっているのかもしれません。軸は最近の流行からすればやや細め。金属製ですがそれほど重くはありません。

 私としてはお勧め品なのですが、ニューコレクションに代替わりした今、そちらは手にしたことがないので、オリジナルが残っていれば手に取ってみても良いかな・・としか言えませんね。パーカーは字幅が太めで、XFが国産の中細と同等といった感じで、Fはもう中字相当。ニューコレクションでもラックブラックにはXFがあるようですが、私にはXF以外の選択肢は無いです。ただ、全体的に太めではありますが、個体差は少なく、品質は割と一定しているようです。なお、ソネットのステンレスニブは使ったことがないので、ステンレスニブの書き味については不明です。

 ソネット オリジナルの場合は、天冠の金属部品と黒い樹脂部品の間が、空気を通す仕様です。これがかなりの通気性を持っていて、キャップをちゃんと閉めても、1週間使わなかったらインクが乾いてしまうことがあります。それを防ぐためには毎日使うか穴を塞ぐか、いずれかの選択になりますね。これさえなければ初めての万年筆としてもお勧めできる品なのですが・・。ちなみに私は木工用ボンドで塞ぎました。

 ソネットシリーズのボールペンは、パーカー伝統の流れるようなデザインを纏ったやや細めの金属軸。写真に写っているのは先代で、軸径は約10.5mm、現行品も似たような太さです。万年筆は細身からかなり太い物まで愛用している私ですが、ボールペンやメカニカルペンシルは、あまり太い物は好まず、ソネットのサイズ感が一番好きです。そしてソネットには、さらに細いスリムボールペンもラインナップされておりますから、細軸好きの方にはお勧めですね。デザインも好きです。ただし金属製なのでそれなりの重量感はあります。

 最も安いのはステンレススチールCTですが、金属の無垢なのでやや滑り感があります。やはり塗装タイプの方が滑りにくくて使いやすいのではないかと思いますね。

 替え芯はQuinkflowに変わってだいぶ滑らかになりましたが、それでも極端に滑るわけではなく、私にとっては嫌な感じではありません。ただ、時々書き出しだけ掠れることはあります。パーカータイプですから替え芯は他メーカーの好きなのに入れ替えて使うのも良いでしょうね。私はそのまま使っていますが。


PARKER #50 "FALCON"(パーカー50”ファルコン”) 絶版品
ステンレス一体型ニブ、嵌合式キャップ、両用式 ボールペンはキャップスライド式

 パーカー50が正式名ですが、愛称のファルコンで呼ばれることが多いようです。それ以前に父のパーカー61や、母のパイロット製(品名は不明)を借りて使ったことはありましたが、自分専用として初めて手にしたのがパーカー50フライターでした。筆記具頁のトップに書いたように親父からもらった物で、学生時代はこれを多用していました。

 ファルコンは首軸と一体成型のニブが大きな特徴。これはかなり珍しい仕様です。私がシェーファーのインレイドニブを好むのは、最初にこの万年筆を使ったのが影響しているのかもしれません。インレイドニブも嵌め込むことで一体化しているわけですからね。これとよく似た万年筆にパイロットのミュー701というのがあり、ミューの方が発売が早いので、ファルコンはミューの真似・・と思われるかもしれませんが、実は違うようです。パーカーはミューよりも先に、当時非常に高価だったチタンを使ってT-1という挑戦的な(でも短命に終わった)モデルを造りました。ファルコンは自社のT-1を、後に安価なステンレスを使ってアレンジした製品で、ミューを真似したわけではないようです。反対にミューがT-1を真似したかどうかは定かではありません。

 これがそのフォルムです。首軸一体のニブは全体をシャープなイメージにまとめ、流線型の美しい軸とキャップが印象的なデザインです。この精悍なイメージからファルコンの愛称が生まれたようですね。フライターというのは流線型の金属軸が航空機を連想させることから付いたデザイン名で、パーカーが得意とするデザインの一つです。ソネット ステンレススチールGTなども、このフライターの流れを継いでいます。


        パーカー50(ファルコン) フライター 上:ボールペン 下:万年筆 極細字

 ステンレス製の硬いニブで、さらに首軸と一体ですからガチガチに硬いです。でもパーカーらしくインクフローは非常に良いため、軽いタッチですらすらと書くことができます。安い割に書き味は悪くありません。ただ、薄手のステンレス製なので、金属軸にしてはやや軽く、カートリッジインク込みでも17.6gしかありません。貰った当時はこんな物かと思っていましたが、今あらためて持ってみると、金属軸という見た目とは裏腹に、拍子抜けするくらい軽いです。今では割と重めの軸を好む私ですから使用頻度は減っていますが、それでも定期的に使いながらメンテナンスしています。ただ、軸が非常に薄く、熱が伝わりやすいため、冬場はインクがボタ落ちすることも。そのため晩秋にインクを抜いて、翌年春まで休眠するというパターンを繰り返しています。クリップのメッキはだいぶ傷んでおりますし、万年筆は天冠に嵌めてあった丸い金属板が取れてしまっていますが、長く使った証ですね。なお、ファルコンにはキャップの通気孔はありません。

 ボールペンは細身で、よく見ると胴軸が二重になっています。外側がステンレス製で、その内側にクロムメッキの胴軸が入っているというもので、外側のステンレス軸が、ファルコン万年筆のニブを象ったような形状になっているのが特徴です。これも万年筆のフォルムに合わせてこんな形にしているのでしょうね。このボールペンはツイスト式ではなく、キャップスライド式。ノックボタンは無く、胴軸部分を持って天冠部分をノックすると、キャップチューブ全体がスライドして替え芯を出し入れするという方式です。面白い構造なのですが、ツイスト式やノック式に比べ、軸のブレが大きいため、今ではあまり見られません。ボールペンは細めの物が好きなので、以前は会社で使っていましたが、意外なレアものなので、万年筆と共に引き上げてきました。万年筆もボールペンも生産期間の短いモデルで、現在ではなかなか見ないとのことです。


PARKER #61(パーカー61) 絶版品
14Kフーデッドニブ、嵌合式キャップ、初期型はキャピラリー吸入式、後期型は両用式

 父が昔使っていた万年筆。形状のおぼろげな記憶からベストセラーとなったパーカー51だと思っていましたが、何と、不人気で販売期間の短かったパーカー61でした(笑)。1956年に発売された物のようです。その当時で1万円近くしたようなので、結構高級な品だったみたいですが、発掘した時はすでにこんなにボロボロで、ただの古い万年筆という感じです。


      パーカー61 初期型 12金張り/ブラック 万年筆 恐らく極細字 外観全体にくすみ、胴軸にはセロテープで補強した跡が。

 フーデッドニブという点はパーカー51と変わらないのですが、パーカー51よりもややスリムで、むしろ取り回しの良い万年筆だったと思います。でもパーカー61の初期型はインクの吸入方式がすごく変わっていて、キャピラリーフィラーという今では全く見ない、というか、この万年筆以外には採用されていないのでは? という吸入方式の万年筆です。


        パーカー61初期型の胴軸とキャップを外したところ。胴軸内部に怪しげな灰色のインクタンクらしき物が。
        首軸にあるはずのアローマーク(矢形の象嵌)は欠落している。

 キャップと胴軸を外すと、首軸の先端にフーデッドニブがちょっとだけ顔を出し、胴軸内部には上写真のように灰色・樹脂製のインクタンクが内蔵されています。普通はこの部分にボタンやつまみが付いていて、そこを押したり回したりしてインクを吸うのですが、そのような構造は見当たらない。であればこの灰色の部分を押し潰してインクを吸入するということになりますが、これは固くて潰れない。どうやって吸入するのだろうとしばし考えていたら、ふと思い出しました。そういえば、この灰色の部分をインクに漬けていた気がする・・。で、実家から戻ってきてインターネットで確認(注:実家にはパソコンもスマホも無いですし、私自身もスマホは持っていないので)したところ、まさにその通り。この灰色の部分をボトルインクに30秒ほど漬けておくと、毛細管現象で勝手にインクを吸ってくれるのです。このインクタンクはテフロン加工されており、撥水性がありますから、吸入後に拭き取ることも不要。さらにこの方式だとボトルの底から2〜3mmほどインクが入っていれば吸入できます。普通の吸入式万年筆はボトルの半分くらいになると吸いづらくなってしまう場合が多いのですが、これはシェーファーのスノーケルに次いで、少量残ったインクも吸うことができる画期的な方式ではないですか。さすがは常に進化することを求めてきたパーカーの万年筆。でもインクの吸入量はさほど多くないようですし、内部のインクを完全に洗うことが難しいため、一度インクを入れたらずっと同じインクを使うしかない、という仕様が好まれず、結局後期型は一般的なカートリッジ/コンバーター両用式に変わり、いつの間にかラインナップから消えてしまったらしいです。なお、通気孔はクリップの付け根にあるようです。

 実はこれ、2017年の盆休みに帰省した際、テレビ台の所に置いてあり、母に聞くとテレビ台の奥の方から出てきたとのこと。インクが入ったまま20年近く放置されていたことになります。そんな物ですから状態は最悪。インクは間違いなく詰まっているし、胴軸は割れている。使えなくてもしょうがないから、せめて綺麗にして保管するかと思い、持ち帰ったのです。とりあえずキャップと胴軸を外し、本体を水に漬けると出てくる出てくる。すぐに水が青く染まってしまうほど大量のインクが。でも、引き上げるとペン先からぽたぽたと青い水滴が落ちてくる。もしやと思い、インクタンクの尻に水を掛けてみると、またペン先からぽたぽたと水滴が。どうやら完全には詰まっておらず、道は通っていたようで、これは嬉しい誤算。青いのがほとんど出なくなるまで洗浄した後、パーカーのブルーブラックを買ってきて2分ほど漬けておいたら・・・書ける。しかも書き味はなかなかの物。バランスも良いですしなかなか滑らかで心地よい書き味の万年筆です。首軸の中に隠れてしまっているので刻印は見えないのですが、ニブはどうやら14Kらしいです。ちょっと硬めではありますが、書き味は割と好みですね。しかもインクがボタ漏れすることもなく、どうやらニブ、ペン芯、首軸、インクタンクのいずれもちゃんと生きている。と、そこまでは良かったのですが、使っているうちに手が汚れてきて・・。どこかからインクが漏れているということなので原因を調査。首軸もペン先も漏れた形跡はない。キャップに付いたのが胴軸の尻に挿した時に移ったかと思い、キャップ内部を拭いてみたものの、そこも問題ない。ということは・・・胴軸からインクが漏れている。どうやら胴軸内部にインクが溜まり、それが軸の割れから染み出してきているようで、かなり深刻でした。胴軸に直接インクを吸入するタイプならともかく、普通なら胴軸が割れたところでそんなことは起きないのですが、この万年筆はキャピラリーフィラー式。インクタンクに直接インクを吸い上げるので、インクタンク自体に穴が開いており、ある程度インクが垂れるのは仕方のない仕様なのです。胴軸内部にインクタンクを押さえる構造物(多分漏れを止めるための物)があるのですが、それも劣化しているのでしょう。普通の両用式万年筆なら胴軸が割れていてもそれ以上割れないように注意しながら使えばよいのですが、なまじマニアックな吸入方式を採用しているため、胴軸の割れがこんな問題を引き起こすとは・・。対策は二つ。手っ取り早いのは中古のパーカー61を買ってきて胴軸を取り替えること。ですが、こんな珍品滅多に出てこない。ということはもう、修復するしかない。多分接着剤よりも造形補修剤の方が良いのかな? でも使ったことが無いし、どうするか・・と思案し、これ使えないか?と思いついたのがエナメルです。黒いエナメルがあれば良かったのですが、家にあるのはトップコートと薄いピンクのパール入りだけなので、トップコートを試しに割れに塗ってみたら、結構使えそう。とりあえす胴軸に水を入れてしばらく放置しておきましたがどこも濡れていない。でも、一部だけが盛り上がって不格好だったので、全体に塗ってしまいました。外観は黒い樹脂から黒のラッカー塗装っぽく変わってしまいましたが、使えるようにするのが目的なのでこれでいいかって感じです。さすがにピンクのパール入りは無いですね(笑)。


PARKER #75(パーカー75) 絶版品 お勧め品
14Kニブ、嵌合式キャップ、両用式

 パーカーの75周年に発売された名品中の名品で、世界で1,100万本も売れたと聞いております。1990年代には生産を終了し、プリミアやソネットに引き継がれましたが、現在でも根強い人気があり、中古市場でも頻繁に出てきます。中にはパーカー75だけを何本も集めている熱烈なファンもいるとか。数としては1,600万本販売されたパーカー51の方が上ですが、年代の新しいパーカー75の方が、実用的なコンディションの物が多いのでしょうか。

 デザインとしては口金の辺りに昔っぽい印象があるものの、現在のソネットに通じるものがあり、スマートでエレガント。割と細めで軽量に作られています。そしてその仕上げは無地のステンレス無垢の物から上品な模様の入った物まで多種多様。傾向としてはアメリカ向けの実用タイプと、ヨーロッパ向けの装飾タイプという感じなのでしょうか。アメリカ製よりもフランス製の方が装飾的要素が強いと思います。


        パーカー75 プラスヴァンドーム ゴールド グレンドルジュ 万年筆 極細字

 プラスヴァンドームはフランスで生産されたもので、より欧州で好まれるデザインを採用していますが、ニブはアメリカ製です。グレンドルジュ(grain d'Orge)は穀物としての大麦を指し、英語のバーリーコーン(barleycorn)と同じ意味です。昔は長さの単位として使っていたようで、大麦の粒をちりばめたような柄は、欧州ではシェブロンなどと並び、ポピュラーな図柄。割と多くのメーカーがこの柄の筆記具を販売しています。胴軸とキャップは金メッキ仕上げなのですが、メッキ層が20μmと分厚く、よほど手荒な扱いをしない限り、メッキが剥げて母体が露出する事は無さそうです。この個体は中古で購入したやや使い込んだ物で、ニブに赤インクが付着し、取れなくなっていますが、使用上は何の問題も無い。外観が綺麗な割にその分お安くなっていました。また、ビンテージ万年筆ではありますが、現在でも相当量が市場に出てくるため、よほど珍しい仕様の物でない限り、プレミアが付くような物ではありません。割と安く手に入る物もあり、今でも大人気なのには価格的なものも影響しているのでしょう。

 そして実に書きやすい。腰のあるニブは多少の筆圧もしっかり受け止め、滑らかな筆記感が得られます。また、品の良いデザイン、そして比較的小柄で取り回しも良い事から、オンオフを問わずオールマイティに使える逸品です。万年筆ファンなら一本は手にしておきたい物でしょうね。


IM PREMIUM<5th>(アイエム プレミアム<フィフス>) 
嵌合式キャップ

 IMはパーカーならではの美しいフォルムと機能性を備え、なおかつ比較的でリーズナブルなシリーズ。使いやすさ・実用性・知的スタイルにこだわり無用なディティールを削ぎ落としたすっきりしたデザインが特徴です。IMという商品名はI'mからきていると考えられます。IMの読み方も「アイエム」、「アイム」、「イム」など様々で、どれが正しいの?


        パーカー IMプレミアム<5th> ガンメタルチーゼルCT

 <5th>とは、万年筆、ボールペン、ローラーボールの、それぞれの欠点を克服し、長所だけを融合させたような新しい筆記具。ペンシル、万年筆、ボールペン、ローラーボールのいずれでもない第五の筆記具という意味らしいです。

 言ってしまえば非常に良くできた水性サインペンです。万年筆のニブのような形状の金属部品はフォルダで、替え芯をここに挿し込んだ状態で使用します。替え芯の先端には樹脂製のチップが付いており、従来のサインペンはこのチップが使っているうちに裂けたりするのですが、5thのチップは少しずつ摩耗していき、使用者のくせに合わせて摩耗することで、より書きやすく成長するようです(もっともインクが無くなって替え芯を交換すると、最初からやり直しです)。インクは水性ですが乾きは早く、書いて数秒で、擦っても滲まなくなりますので、左利きの人でも使いやすいというのが売りです。そのくせキャップを閉め忘れても一晩くらいなら大丈夫という仕様です。書き味は滑らかで、するすると滑っていく感じ。字幅は細字でも国産万年筆の中字かそれ以上はあり、私としては極細の発売が待たれますが、もしかしたら極細にしてしまうと強度が保てないのかも。万年筆を使ったことのない人たちには使いやすいですし、尻軸の内部にバネが内蔵されていて、筆圧を吸収する構造なので、筆圧の高い人でも使える仕様になっています。ただ、クセが無く、万年筆のクセまでも楽しんでいる人たちにとっては物足りないでしょうね。また、ランニングコストはかなり高くなりそう。替え芯が千円で、なおかつインクタンクはインクが充満しているわけではなく、フェルトみたいな物にインクを吸わせてある仕様。なるほど、これならインク漏れは心配ないですが、インクの容量は少ないと思った方がよいでしょうね。なので私は2本目の替え芯がインク切れになったまま、芯を交換せずにそのまま眠らせています。そのうち誰かにあげるか中古屋に売るかも。そういうことなので私はあまりお勧めしません。特にヘビーライターにとってはたまったもんじゃない。でも時々売り場で5thの説明を受けているお客さんも見かけますし、替え芯を買い求めるお客さんも見ますので、それなりには使われているのでしょうね。

 あるお店のベテラン店員さんに聞いてみたところ、発売当時はその本店において、パーカー全体の売り上げの1/4以上を占めていたとか。今でも文具売り場で筆記具を眺めていると、パーカーからこんなのが出てますよと、紹介されることもあります。取扱店では試し書き用が用意されていることが多いので、興味があるなら一度手に取ってみるとよいでしょう。

 5thは発売当初、インジェニュイティという2万円クラスの品だけで、とても手を出す気にはなれなかったのですが、その後、手頃なIMプレミアムやアーバンプレミアムからも発売されたので、入手する気になったのです。替え芯を使う物でそんなに高価な物は必要ないというのが私の流儀なのです。2016年のリニューアルで、ソネット5th、アーバンプレミアム5th、IMプレミアム5thは全て廃止され、再びインジェニュイティのみのラインナップになったのですが、2018年になってアーバンとIMに新タイプを投入してきたようです。ちなみに5thにもキャップの通気孔があり、クリップの陰に目立たない穴が開いています。