U-Maの音楽館

万年筆の選び方


 万年筆に精通している方はこんな記事を読まなくてもご自分の好みは分かっているでしょうから、ここでは初心者の方に私なりのヒント・・という程度に思って下さい。先ず申し上げたいことは、万年筆は高いから良いという物でもないですし、安いから良くないという物でもありません。高くて粗悪な品はさすがに無いとは思いますが、高くて高品質な万年筆であっても、使用者の手に合わなければ大して良い物とは感じないですし、安くても品質のしっかりした万年筆で使用者の手に合えば満足度は非常に高い物となります。

 万年筆にあまり馴染みのない方が万年筆を選ぶならば、品揃えが良く、知識の豊富な店員さんのいるお店で用途や自分の好みや予算を伝え、いくつか選んでもらってそれらをじっくり書き比べる。これが一番だと思います。でも、私は多摩地区に住んでいますから新宿でも銀座でも、好きな時に行けますし、往復千円以内で行くことができます。また、そこまで行かなくても地元にそれなりの品揃えの店はあります。でも、私の田舎ではそういうわけにはいきません。万年筆を売っているお店はあっても、品揃えは・・という感じです。逆に言えば今でもあそこに住んでいたら、こんなに万年筆に嵌らずに済んでいるかもしれません。まあ、そういう所なので、店頭で色々並んでいるのを見て買うなら静岡か横浜まで行くことになりそうですが、スタンダードな金ペンが一本買えてしまうくらいの料金が掛かってしまいます。かといって地元の店に取り寄せを依頼するにしても、どんなものかも分からないものを取り寄せてもらうのも気が引けます。同じように実物を見たり触ったりせずに通販で購入するというのも、特に最初の万年筆を購入するにあたってはあまりお勧めできません。インターネットで検索するととても評判の良い万年筆があったりするのですが、それをネット通販で購入して使ってみたら自分の好みでなかったなんてことは当然のように起こりえますから。なので、都市部に行く機会のあまりない方は、とりあえず近くの店を見てみましょうか。気に入る物があるかもしれません。今ひとつぴんと来なければ、地方でも意外な場所に意外なほど品揃えの良い店があったりしますので、周辺にそういうお店があるか検索してみる、あるいは仕事などで都市部に行く機会があれば、大きな店を見てくるなどするのが良いかと思います。でもその万年筆という物は、実に色々な方式がありますので、予備知識としてそれぞれの特徴を書いてみたいと思います。


キャップの方式

 万年筆にはキャップの無い特殊な物もありますが、ほとんどの万年筆はキャップ式です。キャップは大きく分けると嵌合式(パチンと嵌めるタイプ)とネジ式があります。嵌合式はワンタッチでキャップを抜くことができ、機動性に優れ、さらにネジ山が無いためどこを持っても違和感はありません。一方で長く使っていると嵌合が緩くなる、ネジ式に比べインクの水分が蒸発しやすいという欠点もあります。ネジ式は気密性に優れる上、通常の使用状況であれば、嵌合式のように緩くなることはありません。その一方、いちいち回して外すのが少々面倒で、ネジ山の部分を持つと違和感があるという欠点もあり、さらに締めすぎると開けにくくなったり、樹脂製の物は割れたりしやすくなります。

 嵌合式とネジ式、それぞれ一長一短という感じで、私はどちらも使いますが、持ち歩いて使う物は嵌合式を好みます。家や会社のデスクで使う物はどちらでも・・という感じですね。ネジ式は面倒といっても、この儀式を楽しむ人もいます。ということで、長短をご理解の上、好みの物を選んで下さればよろしいかと思います。なお、キャップの無い万年筆として、パイロットのキャップレスシリーズがありますが、これは機動性が良く使いやすいので、持ち歩くことが多いなら選択肢に入れて良いと思います。

 ここでついでに書いておきますが、嵌合式の万年筆は、片手でキャップを、もう片手で胴軸を持って勢い良く引き抜いてはいけません。キャップ内部の圧力が急に下がってインクが飛び出しますし、キャップの内面にニブ(ペン先)が当たり、ニブを損傷することがあります。嵌合式のキャップは利き腕の中指、薬指、小指の三本で胴軸をしっかりと握り、親指でクリップをゆっくり押し上げるようにして嵌合を外し、その後丁寧にキャップを引き抜きます。クリップの形状や固定状況から親指で押し上げることが難しい(クリップが短かったり先端が尖っていたり固定が甘くぐらつくなど)場合は、親指と人差し指でキャップを挟んだ状態で、キャップを摘み上げるようにして嵌合を外します。もう片方の手はキャップに軽く添えておく程度でよく、あくまでも片手で開けるのが基本です。キャップをする時はキャップをゆっくりと入れ、胴軸を握って天冠部分を親指でカチッと音がするまで押し込みます。ネジ式の場合は利き腕でない方の手でキャップをしっかり持ち(その際、クリップに指が当たらないようにします。クリップに横から力が加わると曲がったり固定が緩くなったりすることがあります)、利き手で胴軸を左に回すと外れます。キャップをする時は右に回し、何かに当たった感触があれば、そこからほんの少しだけ右に回します(あまり強く締めすぎないように)。ただし、プラチナ萬年筆の#3776センチュリーやセーラー万年筆のプロムナードは、何かに当たった感触があってから1/4から半回転くらい回すとインナーキャップのバネがしっかりと利いてインクが乾きにくくなる構造ですので、止まるところまで回して下さい。


ニブの材質・サイズ・表面処理

 ニブというのはペン先の金属部品のことで、大別すると金合金製とステンレス製があります。結論から言いますと、長く使うつもりで購入するのであれば、金のニブが良いでしょう。総じて言えば、金のニブを装着した万年筆の方が、タッチが柔らかく、書き心地が良いですし、長持ちするからです。金のニブは軟らかくて筆圧が高い人には不安・・と思われるかもしれませんが、最近の物は金であっても硬めに造られているものが多く、ボールペンをゴリゴリ押しつけて書くなど相当筆圧の高い方でない限り、そんなに気にすることもないと思います。逆に言えば硬い物が多くなり、昔からの愛好家には物足りないでしょうね。

 金のニブと言ってもその材質は大きく分けて14Kと18K。そして日本のセーラー万年筆だけが21Kのニブを生産しています。14Kは金の含有率がおよそ58.5%、18Kは75.0%、21Kは87.5%です。しかし、金の含有率は前記の通りですが、それ以外の部分はメーカーによって違います。割金は銀、銅、パラジウムなどが使われるようですが、それらをどう配合するかによって、同じ14Kでもずいぶんと性質が変わります。金を使う本来の目的である耐食性については14Kで十分なのですが、14Kよりも18Kの方が高級・・というイメージもあり、高級品には18Kを用いることも多いです。だからといって14Kよりも18Kが軟らかいというわけでもありません。21Kは軟らかすぎてニブの材質としては不向きとされてきましたが、セーラー万年筆は合金の調合と焼き入れ技術により、21Kを可能にしたようです。

 一方ステンレスは、金に比べたらずっと硬い材質です。でもニブの硬い・軟らかいは材質のみで決まるわけではなく、板金の厚さ、ニブの大きさ、ニブの湾曲、切り割りの長さ、ハート穴の形状と大きさなど、様々な要素が関与しますし、タッチの柔らかさには、インクフローの良さも関係しますから、ステンレスニブの万年筆でも柔らかなタッチのものはあります。なので、全体的に見れば金の方が軟らかいと言うだけで、ステンレスペンでも感触が柔らかめの物はあります。

 金ニブの書き味の柔らかさは材質の柔らかさだけではないようで、ニブの形状やペン芯が全く同じ物で、ニブのしなり具合がほぼ同じであっても、ステンレスニブよりも金ニブの方が柔らかく感じることが多いようです。例えばシェーファーのプレリュードSC(14Kニブ)はガチガチに硬いニブですが、形状がよく似ているプレリュード(ステンレスニブ)に比べてはるかにタッチが柔らかく感じます。どうもステンレスよりも金合金の方が濡れ性が良く、インクフローが良くなることで潤滑性が増し、タッチが柔らかく感じるようなのです。イタリア・デルタ社のフュージョン82は、ステンレスニブの上に金のプレートを貼った独特の物で、何か意味があるのかなと思っていましたが、どうやら金のプレートを貼ることでインクフローを良くし、金を節約しつつも金の書き味に近い物を創ったみたいですね。

 さて、話を戻しましょうか。そもそも予算が10,000円以下であれば、ほぼステンレスペンしかありません。1万円+αなら国産金ペンのエントリーモデルが手に入りますが、外国産ではステンレスペンばかり。2,3万円の予算なら国産のワンランク上の金ペン、外国製ならば金ペンもありますが、この価格でもステンレスペンがかなりあります。1万〜3万くらいの予算は、機能優先で国産品を選ぶか、デザイン優先で外国産を選ぶか、悩ましいところですが、お勧めするのは国産品ですね。これ以上の予算を組めるなら、国産でも外国産でも好きな物を自由に選んで下さいという感じです。

 金ニブとステンレスニブの大きな違いは耐久性です。瞬間的な強い力を加えた場合は柔らかい金合金の方が曲がりやすいのですが、通常の使い方をし続けた場合、粘り腰のある金合金の方が変形しにくいですし、仮に変形したとしても、金合金の方が元に戻しやすいのです。それはステンレスにはない金の大きな特徴です。耐食性に関しては通常の染料インクを使用する限りステンレスニブでも十分ですが、それ以外の部分で耐久性に差が出てしまうのです。金ニブが現在でも使い続けられているのは、書き味や高級感も確かにあるのですが、総合的な耐久性の高さというのも大きな理由なのです。

 総括すれば、1万円ちょっと出せるなら国産の金ペンエントリーモデル、2〜3万出せるなら国産金ペンの上位クラス。これがまずはお勧めです。でもこれはあくまでも一般論で、デザインの良さを求めて外国製のステンレスペンを選択するのもありだと思います。ただ、やはり初めての万年筆で不安がある、最初は安い物で慣らしたいというのであれば、安くて実用的なステンレスペンから入るのがよいでしょうね。


様々なニブ



    万年筆のニブ。左から
    ウォーターマン パースペクティブ(ステンレス)、
    シェーファー アジオ(ステンレスに22K金メッキ)、
    セーラー万年筆 プロムナード(14K無垢)、
    パイロット カスタム ヘリテイジ912(14Kにロジウムメッキ)、
    セーラー万年筆 プロフェッショナルギア(21Kに24K金メッキとロジウムメッキのバイカラー)、
    ヴィスコンティ オペラ エレメンツ 後期型(珍しい23Kパラジウムニブに金メッキ)

 上は実物の写真です。並べて撮っていますので、ニブの大きさの違いがお分かりでしょう。ニブサイズは万年筆によって様々です。ニブが大きい方が豪華に見えますが、小さい方が持ち位置とペンの先端が近くなり、初心者には扱いやすいようです。また、パースペクティブには切り割りの根本にハート穴と呼ばれる穴が開いておらず、オペラ エレメンツのニブは、ハート穴が三日月型になっています。ハート穴はニブのしなりに影響を与え、ハート穴がないニブは堅めの感触になります。プロムナードとカスタム ヘリテイジ912のニブには14K 585、プロフェッショナルギアのニブには21K 875、オペラ エレメンツのニブには23K Pd 950の刻印が見えますが、K(C、ctなどと表す場合もある)はカラットという単位で、貴金属の品位を24分率で表します。14Kをよく14金と呼びますが、Kは金の略ではありません。主たる貴金属が重量比で24分の14入っているということで、Kの後に何も付けなければ金が主で、金以外の場合は元素記号を刻印します。併記してある585等の数字は、パーミル(‰:千分率)で表した数字です。23K Pd 950は、24分の23(正確には950‰)がパラジウムでできているという意味になります。パースペクティブはステンレスですからこの手の刻印はありませんし、してはいけないことになっています。アジオも同様で、ステンレスニブですからこの手の刻印はありません。なお、金色のニブで23KGPなどと刻印されている物があるかもしれませんが、GPはgold plated、つまり金メッキを意味します。その場合、地金の部分は恐らくステンレスですね。


 さて、金ニブには14K・18K金無垢のニブ、ロジウムメッキのニブ、パラジウムメッキのニブなどがありますが、ロジウムをメッキすると若干硬くなると言う方もいます。確かにロジウムは金に比べてかなり硬い金属ですが、わずか2〜3μmのメッキでそんなに硬くなる物かな?と思います。むしろロジウムは金よりも濡れ性が良い金属ですから、インクフローがより良くなり、感触がより滑らかになったり柔らかく感じる可能性もあると思います。まあ、結局は大して変わらないというところでしょうか。なお、パラジウムメッキについてはパラジウム自体そんなに硬くはないですし、インクフローが良くなるということもなさそうで、こちらはほぼ変わらないと思っています。私の経験ではブラックIP仕上げのニブは、インクフローが格段に良くなると感じております。ブラックIP仕上げの場合、表面が金属ではなく炭化チタンというセラミックですから、水への濡れ性が向上すると考えられます。ゴールドIP仕上げ(表面は窒化チタン)も同様かもしれません(こちらは試したことがないので推測ですが)。



ニブの形状

 ニブには大きく分けて、オープンニブ、フーデッドニブ、インレイドニブがあり、その他、爪ニブ(爪のような形をしているため)と呼ばれる物や、首軸と一体成形の物があります。オープンニブはごく普通の万年筆、フーデッドニブは、ニブの大部分が首軸の中に隠れているタイプ、インレイドニブは首軸にニブを嵌め込んだタイプで、フーデッドニブとインレイドニブは、ペン芯の大部分が首軸の中に隠れているため、インクの乾きが抑制されます(だからと言ってキャップを外しっぱなしにするのは御法度)。また、インレイドニブや一体成形のニブは非常に安定感があります。どれが良いかは好み次第という感じですが、最初はオープンニブが無難だと思います。インレイドニブの安定感は捨てがたいのですが。


万年筆のニブ。左からプラチナ萬年筆 美巧18Kタイプ(オープンニブだが、細くエラの張っていない昔ながらのスタイル)、パイロット カスタム74  MSニブ(オープンタイプの特殊ニブで、ペンの先端が太いのが分かる。切り割りは2本)、パーカー50;ファルコン(珍しい首軸と一体になったニブ)、シェーファー タラニス(フーデッドニブ)、シェーファー レガシー ヘリテージ(インレイドニブ)


ペン種について

 ボールペンに0.5mm、0.7mm、1.0mmなどとボール径の違う(つまり字の太さが違う)いくつかの種類があるように、万年筆にも様々な字幅(ペン種)があります。しかも、モデルによっては10種類以上のラインナップしている万年筆もあります。はたしてどれを選べばよいのか。

 字幅だけが違う物でもざっと以下の種類があります。

  UEF (Ultra Extra Fine:超極細字)
  EF or XF (Extra Fine:極細字)
  F (Fine:細字)
  MF or FM (Medium Fine or Fine Medium:中細字)
  M (Medium:中字)
  B (Broad:太字)
  BB (Broad Broad:極太字)

 もちろんどの万年筆もこれだけ揃っているわけではなく、FとMとか、Fのみという万年筆もあります。中でもUEFは日本のプラチナ万年筆など、限られたメーカーしか造っていませんし、MF(FM)も、パイロットとセーラー万年筆以外ではほとんど見られません。

 そしてこれらの他、さらに

  SF,SFM,SM (Soft 〜:細軟字、中細軟字、中軟字など)、軟調ニブ。通常よりも柔らかく造られている。
  OM,OB (Oblique 〜:オブリーク中字、オブリーク太字など)、斜めにペンを構える人向き。
  KF,KM (Kugel 〜:クーゲル細字、クーゲル中字など)、ペンポイントが球状で縦横が同じ太さ。
  MS (Music:ミュージック)、音符用。横線が細めで縦線は超極太。
  S or SU (Stub:スタブ)、横線に比べ縦線が太い。
  NMF,NM,NB (Naginata 〜:長刀研ぎ中細字、長刀研ぎ中字、長刀研ぎ太字など)、セーラー独特のペン先。

 などといった特殊なニブがラインナップされていたりしますので、どれを選んだらよいか迷うところです。パイロットの定番であるカスタム74には11種類、上位版のカスタム742には15種類ものペン種が揃っているので、もう何が何だか分からなくなりますね。

 でも、これらは用途によって分かれています。手帳などの細い罫の紙に小さな字を書く場合は極細字か細字が使いやすいでしょう。7mm罫のノートに書くなら細字〜中字くらいが良いと思います。宛名書きや書類にサインをするなら、中字〜極太字が見栄え良く書けます。筆圧の弱い方は最初から軟調ニブでも良いでしょうが、筆圧が高めの方は軟調ニブは避けた方が良いと思います。特に最初の一本としては、普段使用するノートの罫や使い道に合わせ、極細字〜中字くらいの物を求めるのが良いと思います。太字以上の物で紙の上を滑らすように書くのは万年筆の醍醐味とも言えますが、太字だと用途がかなり限定されてしまいます。それと、字幅の太い万年筆は、書き味は良いのですが、ペンの捻りに対してはシビアになります。万年筆はペンポイントにも切り割りが入っており、この隙間を伝わってインクが出てくるため、切り割り部分が紙に接触していないと上手くインクが出てくれません。細字なら多少捻って書いても問題なくインクが出ますが(ニブが明らかに斜め上を向くほど捻っても書けたりする)、字幅が太くなればなるほど、ニブをしっかり上に向けて書かないと、切り割り部分が紙に当たらなくなるのです。

 細字や極細字は基本的にカリカリした感触が強くなります。そこで、パイロットやセーラー万年筆の製品で、中細字がラインナップされているなら、最初に中細字を試し書きしてみると良いでしょう。カスタム74の細字と中細字では、中細字の方がカリカリ感が無く、より滑らかです。それでも少し太いなら、細字、極細字と細くしていき、もっと太めでも良いなら中字、太字と上げていけばよいと思います。

 ノートに書く場合は下の紙によって衝撃がかなり吸収されますが、固い机の上に紙を1枚置いて書くような場合は、紙に触る度にカツカツと当たる感触が出てきます。そういう使い方を頻繁にする方で、なおかつ筆圧が強くなければ、軟調ニブを試してみる価値はあります。軟調ニブはカツカツと当たる感触が少なく書きやすいです。

 なお、これらは国産品での話。外国製は同じ字幅表記でも、国産に比べ1〜2段階太いと思っていて下さい。外国産でもアウロラ、シェーファー、ウォーターマンあたりは比較的細めですが、パーカーやペリカンは、極細字でも国産の中細字くらいはあります。ちなみに私が所有する万年筆は、中字が5本、パイロットのミュージックが1本、セーラー万年筆の長刀研ぎが1本あるだけで、あとは国産の中細字以下か、外国産の細字以下ばかり。元々字が小さく、7mm罫のノートを愛用し、漢字を書くのですから、細めの物を好むのです。なお、外国製とは言っても、台湾製は同じ漢字文化圏なので、字幅は国産品とそれほど大きくは変わりません。


スタブ、ミュージック、カリグラフィーの違いは

 最近は飾り文字が秘かに人気で、スタブやミュージックといった特殊ニブや、万年筆型のカリグラフィー
ペンがそれなりに売れているようです。これらはいずれも縦線が太く横線が細いという共通の性質を持っ
ていますが、どこが違うのでしょうか。


 まず、スタブとミュージックは、他のペン種と同様、先端にはイリジウムなどでできたペンポイントが溶接
されており、ペンポイントは横幅の広い独特の形状をしています。ペンポイントがあるためニブ本体は、金
合金などの柔らかい素材も使われます(もちろんステンレスのニブもあります)。実はこの2つ、本質的に
は大きな違いはありません。パイロットやプラチナ万年筆のミュージックは切り割りが2本となっています
が、これがミュージックの条件というわけではなく、極太のペンポイントにインクを十分供給するためにこう
なっているだけで、セーラー万年筆のミュージックは切り割り1本です。スタブとミュージックを両方出してい
るメーカーではミュージックの方が縦線を太く設定しているようですが、どこまでがスタブでどこからがミュ
ージックという規定はありません。メーカーがスタブだと言えばスタブだし、ミュージックだと言えばミュージ
ックということなのでしょう。ミュージックはもちろん、本来は音符を書くための物なのですが、ミュージック
であってもメーカーはカリグラフィー的に使うことを多分に意識しているようで、インクフローも良くしてありま
すが、本来の用途で使うとなると、裏抜けしやすく、少々厄介です。本当に楽譜を書く人たちは、インクフロ
ーを絞るよう調整したり、わざとフローの渋いインクを使うみたいです。スタブは国内でもパイロットが販売
していますが、多くは海外メーカーの物で、Stub1.1やStub1.5など、複数のニブを用意している物もありま
す(数字は縦線の太さ(mm))。


 一方カリグラフィーペンは、ステンレス(希にチタン)製のニブの先端を横にすぱっと切り落とした形状の
ニブで、ペンポイントは付いていません。そこがスタブやミュージックと大きく違う点です。この違いによると
思われますが、スタブやミュージックはサラッと書けるのに対し、カリグラフィーは紙の上を擦っていく感覚
が強く、線の輪郭はよりシャープに出るという印象です。つまり、サラサラと、何の意識もせず普通に書い
て、文字に独特の表情が出るのがスタブやミュージックで、カリグラフィーに使うことはできますが、カリグ
ラフィーペンほどダイナミックな変化は付けづらいです。一方カリグラフィーペンは、意図的にペンを捻った
り左右に少し回転させたりして自由自在に線の太さを調整しながら書くのに向いています。カリグラフィー
ペンもパイロットのプレラ色彩逢いなどにありますが、やはり海外の物が多く、1.1mm、1.5mm、1.9mmの3
本がセットになったものも販売されています。1.9mmやそれ以上の太さの物は、横幅一杯にインクを供給さ
せるのが少々難しく書くのにはこつが必要で、最初は1.5mmから慣らしていくと良いでしょう。


 なお、カリグラフィー用のペンは何も万年筆型に限ったことではありません。三菱鉛筆はボールの受け部
分に柔らかい素材を使い、押しつけて書くと線が太くなるボールペンを開発していますし、パイロットのパラ
レルペンは、ペン先がもはや万年筆ではなく長方形の鉄板みたいな形状です。パラレルペンには6mm幅
の物があり、これはなかなか面白そうです。


インクの充填方式について

 万年筆のインク充填方式は大きく分けると

 ・吸入式
 ・カートリッジ/コンバーター両用式
 ・カートリッジ専用

という3つのタイプに分かれます。

 吸入式は専らボトルインクを吸入して使用するタイプで、ピストンフィラー(ピストン吸入式)、プランジャー吸入式(ヴィスコンティのパワーフィラーも同様のタイプ)、レバーフィラー(サイドレバー式)等があります。



        ピストン吸入式万年筆(上)と、胴軸を外したカートリッジ/コンバーター両用式万年筆(下)

          ピストン吸入式は、尻の部分を回して内部のピストンを上下させ、インクを吸入する。
          下の万年筆はコンバーターを装着しており、白い部分を回してピストンを上下させ、インクを吸入する。
          コンバーターは容易に外すことができ、代わりにカートリッジインクを挿すこともできる。


 ピストン吸入式は胴軸にピストン機構が内蔵されており、尻軸を左に回すとピストンが下がり、右に回すとピストンが上がるようになっています。ピストンを下げ、ペン先を首軸の先端部分までボトルインクに漬けます。そしてペン先をインクに漬けた状態でピストンを上げると、インクを吸い上げていきます。吸入式としては最も一般的な方式で、比較的リーズナブルな製品からかなりの高級品まで、幅広く採用されています。吸入量はメーカーによって、また、軸の大きさによってまちまちですが、基本的にはカートリッジインクよりも多くのインクが入ります。

 プランジャー吸入式は、尻軸を完全に緩めてから尻軸部分をゆっくりと引っ張ると、レバーが出てきます。その状態でペン先を首軸の先端部分までボトルインクに漬け、レバーを勢いよく押し込みます。レバーをゆっくりと引く際には空気が逃げていきますが、勢いよく押し込むと胴軸内の空気がインクボトルに押し出され、胴軸内が陰圧になります。最後まで押し込むと陰圧が解放され、その際にインクを吸入してくるのです。この方式は本家のパイロットでもカスタム823のみ、他ではヴィスコンティの高級品にパワーフィラー式が採用されているなどしていますが、マイナーな方式です。でも近年は、台湾のツイスビーがこの方式で安価なVACを発売しています。プランジャー吸入式は大量のインクを吸入できるのが特徴で、カスタム823は公称1.5mlですが、やり方によっては2ml以上吸入できるようです。

 サイドレバー式は胴軸にゴム製のインクタンクが内蔵されており、胴軸のレバーを立てると内部のインクタンクが潰れます。そしてペン先を首軸の先端部分までボトルインクに漬け、レバーを元に戻すとインクタンクが元に戻り、インクを吸入します。この方式はデルタが限定品などに採用していますが、やはりメジャーな方式ではありません。なお、一度使用した物を長期保管する場合は、インクを洗浄した後、水を吸入して保管した方が良いみたいです。ゴムが完全に乾くと劣化が早くなるということらしいです。

 吸入式はインクの容量が多い上、吸入動作自体にペン先の洗浄効果があるため、メンテナンス上も有利です。また、透明軸タイプ(デモンストレータータイプ)は、軸がインク色に染まるので、カラフルなインクを入れると楽しいです。しかも万年筆と同じメーカーのインクのみならず、自己責任となりますが他メーカーのインクを吸入して使用することもできます。しかしインクが入ったまま長い間放置するとインクが完全に詰まってしまい、そうなると対処が難しくなりますから、あまり使わない(だろう)という方には不向きです。あまり使わないならインク容量が多いのもメリットにならないですし。

 カートリッジ式は首軸から胴軸を外し、あらかじめインクが密封されたカートリッジインクを首軸に刺して使用するタイプです。首軸に刺す際にカートリッジに穴が開き、インクが供給されます(最初にカートリッジを刺す時は、インクがペン先まで供給されるのに少々時間が掛かります)。カートリッジインクの利点は何と言っても機動性の良さでしょう。外出先でインクが切れても、スペアのカートリッジインクを持ち歩いていれば簡単に補充できますし、そもそも補充自体も簡単です。一方ではメーカーごとにカートリッジの形状が違うため、基本的には万年筆と同じメーカーのインクに限定され、なおかつボトルインクよりも色数が少なかったりしますので、使えるインクはかなり限定されてしまいます(ヨーロッパタイプという共通規格のカートリッジを採用しているメーカーの物は、ある程度融通が利きます)。また、カートリッジインクの場合はペン先の洗浄効果が期待できないので、より頻繁にメンテナンスすることを推奨します。なお、完全なカートリッジ式はそれほど多くなく、多くはカートリッジ/コンバーター両用式です。

 カートリッジ/コンバーター両用式は、カートリッジインクを使うこともでき、カートリッジインクの代わりにコンバーター(インク吸入器)を装着してインクを吸入することもできるというタイプで、多くの万年筆はこの形式です。機動性重視でカートリッジインクを使用しても良いですし、インクのバリエーションやメンテナンス性を重視してコンバーターを使用するのも良いでしょう。コンバーターの多くはピストン式ですが、中には板バネ式(板バネ部分を押して内部のゴムサックを潰し、戻す際に吸入する)、プッシュ式(プッシュボタンを押すと内部の空気を吐き出し、ボタンが戻る際にインクを吸入する)などがあります。ただ、コンバーターも基本的にはメーカーを合わせる必要があるため、例えばパイロットのプッシュ式コンバーターを、他メーカーの万年筆で使うことはできません。コンバーターの容量はカートリッジと同程度か、メーカーによってはカートリッジよりも少ないのですが、好きなインクを吸ったりできますし、吸入式同様にペン先の洗浄効果もありますから、常に出先で使うような用途でなければ、コンバーターを使用することをお勧めしています。

 カートリッジ式や両用式でインクを完全に詰まらせてしまった場合は、首軸からカートリッジやコンバーターを抜き(インクがこびりついて抜けない場合は無理に抜かず、そのまま水に一晩漬けておくと抜けやすくなります)、首軸ごと水かぬるま湯にどっぷりと漬けます。するとインクが溶け出してきますので、何度か水を交換して根気よく続けると、そのうちインクの通り道ができます。そうしたらコンバーターを取り付けて(無ければスポイトなどでも可)水を吸ったり出したりすれば、インクのほとんどは溶け出していきます。

 ただし、顔料インクは一度固化してしまうと溶け出しませんから、顔料インクを入れた万年筆は、特にメンテナンスをしっかりしましょう。没食子インクも、詰まったら落とすことが困難になりますから同様です。まあ、どんなインクを使おうと、詰まらせないよう毎日のように使ってあげるのが一番の対処法です。

 少々長くなりましたが、結論として、最初の一本としてお勧めなのは、オーソドックスなカートリッジ・コンバーター両用式の万年筆です。カートリッジを使っても良いですが、コンバーターを使ってインクを吸入して使う方がよりお勧め。なお、コンバーターが付属している物と別売の物がありますので、その点は店頭(または通販サイト)でご確認下さい。


軸について

 万年筆は軸やキャップの材質も様々。合成樹脂製か金属製が多いのですが、中にはセルロイドを使って美しい柄を出した物や、木軸の物、豪華に蒔絵や彫金が施された物など、美しい物があります。特に気をつけたいのはセルロイドやプロピオネイトなどの樹脂で、美しいのは良いのですが、経時的に変色・変形しやすいという特性があるため、注意が必要です。また、ゴムなどに接触すると変質・変色することもあるようなので、取り扱いにはご注意ください。ペンケースによってはゴムでペンを一本一本固定する物がありますが、特殊な樹脂でできた製品は挿さない方がよいでしょう。スターリングシルバーの軸は酸素には非常に強いのですが、硫黄化合物と反応し、徐々に変色します。硫黄を含む物は身の回りに意外と多く、ゴムは硫黄を添加して作られますし、化粧品なども硫黄分を含む物がありますから、ゴムに接触させたりクリームを塗った手で触ると変色することもあります。石炭ストーブも要注意ですね。あと、銀は塩素にも弱いので、塩素系漂白剤なども要注意。銀の変色はこれが味だという人も多いですし、スターリングシルバーの場合多少のくすみは査定に影響しませんが、私は銀の白っぽい輝きが好きで、黄ばむのはまだしも黒ずんでしまうのは嫌ですから、使うたびにメガネ拭き用の布で軽く拭いたりしています。

 まあ、こういう特殊な物は趣味の世界なので、とりあえず置いといて、樹脂軸が良いか金属軸が良いかですが、私は重いのが好きなので金属軸を好みます。逆に軽いのが好みであれば樹脂軸が良いでしょうか。それと、全体の重量と共に、バランスも重要なチェック項目です。重い金属製の万年筆であっても、バランスが絶妙だとそんなに重くは感じないですし、やや重めで荷重がやや前寄りだと、全く筆圧いらずで、長時間の筆記でも疲れにくいのです。軽い樹脂製でもキャップをペン尻に挿した際に後ろに荷重がかかるようだと、少々書きづらくなります。試し書きの際には店員さんがキャップをペン尻に挿した状態で渡してくれる場合もありますが、その状態でバランスが今ひとつなら、キャップを抜いて書いてみると良いかもしれません。ただ、逆にキャップ無しで渡された場合、キャップをペン尻に挿す時は一言声を掛けて下さい。中にはキャップをペン尻に装着できない構造の物があり、無理に装着すると軸を傷つける場合があります。

 ステンレス無垢、クロムメッキ、ロジウムメッキなどは、その部分を持つと少々滑る感じがあります。金属軸でもラッカー塗装や漆塗りの物は手に吸い付くような感触があって持ちやすいです。胴軸やキャップは金属でも、首軸は樹脂でできている物も多く、首軸を持って書くのであれば胴軸の仕上げはあまり気にしなくてもよさそうです。要するにどの辺りを持って書くかと、持つ部分がどんな材質でどんな仕上げになっているかは、実際に手にして感触を掴むと良いでしょう。自分が持つ部分が滑りやすくなっていると書きにくいので、重量感やバランスと共にその辺もチェックして下さい。

 軸が豪華な物は私も好きですが、最初の一本は実用的な物をお勧めします。ただ、限定品に一目惚れしましたって時はどうしましょうかね。買って後悔するかもしれないですし、買わずに後悔するかもしれないですから、そのご判断は財布の中身と相談して下しましょうか。


バランス型とベスト型

 万年筆の軸には様々な形状がありますが、代表的な2つの形がバランス型とベスト型。どちらも断面が丸形の軸で、バランス型はキャップの頭と胴軸の尻が共に丸い形状の物、ベスト型は共に平らな物を指します。


     上:バランス型;セーラー万年筆 プロフィット21  下:ベスト型;セーラー万年筆 プロフェッショナルギア

 有名なところではモンブラン マイスターシュテュック149やマイスターシュテュック ル・グランはバランス型、パーカー デュオフォールドやペリカン スーベレーンシリーズなどはベスト型です。写真のプロフィット21とプロフェッショナルギアは、ニブの装飾と軸のみが違います。軸の違いによってバランス感は若干違うのですが、デザイン的な好みで選んでも良さそうです。印象としてはバランス型は女性的、ベスト型は男性的ですが、軸色によっても印象は変わってきそうですね。パイロットのカスタム74とカスタムヘリテイジ91、カスタム742とカスタムヘリテイジ912もバランス型とベスト型の違いですが、こちらは両端部分以外も若干形状が異なり(クリップの形状など)ます。

 何故そう呼ばれるのかというと、バランス型はルーツがはっきりしていて、1920年代にシェーファーが発売した「バランス」というモデルがこのような形だったので、そう呼ばれています(実際のシェーファー バランスは両端がやや尖った感じですが)。一方ベスト型の語源ははっきりしておらず、紳士がベストのポケットに挿すのに適したデザインだとか、色々説があるようで、「ベスト」という名のこのような形をした万年筆が存在したというわけではないようです。

 ただ、この二つは代表的な型というだけで、万年筆の軸には様々な形状があります。


      左からシェーファー レガシーヘリテージ、アウロラ イプシロンラッカー、ウォーターマン パースペクティブ、

      S.T.デュポン リベルテ


 シェーファー レガシーヘリテージはシガーシェイプ(葉巻型)、アウロラ イプシロンラッカーはキャップがバランス型で胴軸はベスト型、ウォーターマン パースペクティブはほぼ円筒形、S.T.デュポン リベルテは円錐形に近い形です。また、軸の断面が円形ではなく、四角形や十八角形など、様々な物も存在します。さて、貴方はどんな形が好みでしょうか?

スターリングシルバーを磨く方法


 嶋田が一番好きな金属は銀。何と言っても銀の色が好きなのです。ちょいと待て、銀の色なんてアルミ
ニウムとかクロムだって銀色だろう・・と言われそうですが違います。銀と他の金属の色を比べてみて下さ
い。最も白っぽく輝くのが銀なのです。アルミニウムやロジウムは割と白っぽいですが、それでも銀にはか
ないません。その理由は銀の表面における可視光反射率が98%と極めて高いからです。アルミニウム
は90%程度、ロジウムは80%程度ですから、銀に比べたら黒っぽく見えます。ちなみに金や銅は赤色の
反射率は銀と同程度に高いのですが、紫色の反射率が極端に低くなるので色が付いて見えます。


 心が薄汚れた嶋田は、銀の持つ汚れなき清楚な輝きに心惹かれるのですが、ご存じの通り銀は変色し
やすい金属です。酸素には非常に強いのですが硫黄と塩素に弱いため、黄ばんだり黒くなったりするの
です。これを銀のエイジングと呼びます。これが味だという人も多いですが私は綺麗なままの方が好き。と
いうことで、時々その輝きを再生します。


 スターリングシルバーだけでできた装飾品(ネックレスなど)は、鍋に水と塩とアルミ箔を入れてぐつぐつ
と煮込み、火を止めてからその中に放り込むと、一瞬にしてきれいになりますが、さすがに万年筆やボー
ルペン、メカニカルペンシルではその方法が使えません。スターリングシルバーとは言っても内部は樹脂
だったりしますし、インナーキャップやボールペン芯の繰り出し機能などが入っていますから、熱湯に放り
込むなんてことはできません。宝飾店などで販売している銀の洗浄液なども、ちょっと使いづらい面があり
ます。ということで磨くという手段をとります。


 銀を磨くのには銀磨き用のクロスが一般的ですが、他にはヤマハのシルバーポリッシュ(液体)を柔ら
かい布に付けて磨くというやり方もあります。これは銀の楽器を磨くためのもので、楽器屋さんで売ってい
ます。そして意外と良いのがプラスチック消しゴム。トンボmonoの消しゴムで擦ると、嘘のようにぴかぴか
になります。ただ、これらはいずれも表面を削っているので、やり過ぎはダメです。


 なお、パーカー ソネットプレシャス スターリングシルバーなどは、スターリングシルバーの表面に透明な
樹脂がコーティングしてあるようで、変色は起こりません。こういう物は拭く必要はないですし、頻繁に拭い
たりするとむしろ樹脂がへたってしまいますので、クリップなどに付いた指紋を拭く程度でよいでしょう。

キャップをペン尻に挿す、挿さない

 国産の万年筆であれば、キャップをペン尻に差して書くようバランスが取られています(一部例外はあります)が、海外の物はそもそもキャップが挿せない構造の物もあります。挿せないならどうあってもキャップを抜いた状態で書くことになるのですが、挿せる構造の物は、どちらで書くかは好み次第です。ただ、軸の短い物は、キャップを挿して書くべきでしょう。パイロットのショートサイズとか、ペリカンのスーベレーンM300などは挿さないと短すぎます。また、セーラー万年筆の商品は、通常サイズでも胴軸が短めで、首軸を持って書いたとしても長さが足りないと感じますから、DAKSハウスチェッククロスレザーなどの例外を除いては挿して書くべきでしょう。

 基本的には首軸を持って書く場合は挿さない方がバランスが良かったりします。ただ、キャップを挿す効用は長さを足したりバランスを変えることだけでなく、ペンを転がらなくするという効果もあるのです。軸が丸い物はノートの上に置くと転がってしまい、最悪の場合は机から落ちることにもなりますが、キャップを挿すとクリップが邪魔をして転がらなくなります。特にキャップを挿さずに書く人は、ペンが転がらないよう、置く時には注意が必要です。「軸について」でも書きましたが、試し書きの際は、キャップを挿した時と挿さない時のバランス、持ちやすさなどもチェックしてみて下さい。


万年筆の用途

 次には万年筆を何に使うかです。家で日記や手紙を書く、事務仕事で使う、商談で使う、書類にサインする用途に使うなど。あるいは手帳と共に持ち歩いて使うといった用途もありますね。万年筆は用途によって、選ぶべき物が変わったりするのです。

 家でゆったりと使うのであれば、それこそ気に入った物であれば何でも構わないと思います。書き味重視、書きやすさ重視、見た目重視など、個人の好みで構いません(それだけに選択肢が多すぎて迷うところですが)。ただ、見た目はすごく好みだけど使ってみたら書きにくい、と感じた物はやめておきましょう。私はヴィスコンティのオペラ エレメンツなどは、家で美しい軸を堪能しながら使ってます。もちろん書き味にも十分満足しており、書き味が気に入らなかったらいくら美しくても買ってはいないでしょう。

 家ではどんなに華美で豪華な万年筆、あるいは奇抜なデザインの万年筆やキャラクター物であっても、それを使って優雅な一時を過ごせるのであればそれでよいのですが、仕事で使う場合にはTPOも考慮しなければいけないと思います。極端な例ですが、万年筆の中には金や純銀の軸にびっしりと彫刻を施した物や、宝石をちりばめた物もありますが、そのような物を仕事で使うのは好ましくない(そもそもこういう物は使わずにコレクションにする場合も多い)ですし、決して高価ではなくても、華美なデザインの万年筆は仕事場にはそぐわないと思います。キャラクター物もそうですね。

 事務仕事なら書きやすさ優先でしょう。やや硬めのニブで、字幅は細字以下が良いと思います。中字以上の方が書き味は良いですが、ノートや書類にびしっと字を書くのには細字の方が断然使い勝手が良いと思います。大量に筆記する場合は、軟らかいニブよりもやや硬いニブの方が書きやすいでしょう。パイロットのポスティングニブ(カスタム742,743,カスタム ヘリテイジ912にポスティングがあります)は、こういう用途を意識して作られているようですので、それを選ぶのも良いでしょう。細字でインクフローが渋い物は、速記すると字が掠れたりしがち。インクフローが良くなおかつ細いというのがベストだと思います。また、重量やバランスが自分の手に合っているかも重要なポイントですね。自分に合った万年筆ですと、長時間書いても疲れないのです。好き嫌いがはっきり分かれる万年筆ですが、もし私が仕事で毎日のように大量筆記するなら、自分が持っている物の中ではプラチナ萬年筆 プレジデントの細字を使いますね。18Kニブながらかなり硬質ですが、インクフローは割と良く紙当たりはそんなに硬くない。そのくせシャープな細字ですし、重量もバランスも良く、少々手荒に扱っても壊れなさそうという安心感もあります。

 商談なら書きやすさはもちろんのこと、ちょっと洒落た感じの万年筆などはいかがでしょうか。色は黒に銀色のオーソドックスな物が一番でしょうが、黒・銀の取り合わせでも、デザイン的に野暮ったい物もあれば、格好良く見える物もあり様々で、なるべく「できる奴」とか「洒落てるな」という印象のデザインを選びましょうか。個人的には黒・金もありだと思いますし、女性なら白・金とか赤・金もありかな。

 相応の地位にある方が(書類等に)サインする用途なら、重厚感があり決して派手ではないデザインの物がお勧めです。ただ、女性であれば少々華やかなデザインであっても良いと思います。

 (仕事に限らず)手帳と共に持ち歩いて使う場合、小さめのサイズでニブは硬めの物が良いでしょう。立ったまま、あるいは(列車などで)移動中に手帳に書くようなことが多いならばなおさらです。

 基本的に7mm罫のノートに日本語を書く用途であれば、お勧めは国産品の細字〜中字です。国産品は字幅が細めで、初めから日本語を書くために設計・調整されているので、概ね外国産よりも使いやすいのです。太字以上がお勧めなのはサイン用と、浮かんできたアイデアを文字や図形にして無地の紙に書くような場合です。サインは太い字の方が見栄えが良くなりますし、アイデアをひねり出す場合は、太字以上の滑らかな書き味の物を使うと、アイデアも滑らかに出てくる・・とも言われます。確かに紙の上で引っかかったりインクが切れたりすると、そちらの方に気が行ってしまうでしょうね。

 ただ、私もそう思いますし、多くの店員さんもそう仰るのですが、国産品はデザインが今ひとつ。商談用とかサイン用は見せる物(装飾品)でもあるので、外国製のデザインの良い物も選択肢に入ると思います。

 万年筆は同じメーカー、同じモデルの同じペン種だったとしても、個体によって微妙に差があります。メーカーとしてはパイロット、パーカー、アウロラあたりは個体差が少ないとされ、一方で人気のペリカンは結構個体差があると聞いております。試し書きをするのはその個体がどういう個体であるかを確かめる意味もあるのです。

 飾り文字を書いたり手紙などを味のある字体で書きたい場合はカリグラフィーペンやスタブ、ミュージックなどがあります。これらは最初の一本としてはお勧めしませんが、万年筆で遊びたいという方は、書いてみると良いかと思います。

 万年筆は用途によって様々ですので、用途に合わせて何本か揃えるのもありです。気に入った物を色違いで揃えて、それぞれの軸色に合わせたインクを入れて使うというのも良いでしょう。ただ、くれぐれも嵌りすぎないように(お前が言うなと突っ込まれそう)。私は仕事用に、何本か会社に置いています。商談で使うウォーターマン メトロポリタン、会議のメモ取りなどに使うシェーファー インテンシティ、顔料インクを3色(赤、青、黒)使うための安い万年筆が3本、あとはマーカーやメモ取りの際に重要ポイントを色違いで書くためのプレピーが6本。これだけ使っていますが、会社に提出する書類については油性ボールペンを使います。部署内で保管する書類も、よほど細かい字を書かなければいけない時は黒い顔料インクの万年筆を使いますが(ほぼ垂直に立てて書くと極細になるため)、それ以外はやはり油性のボールペンで書きます。自分用のメモは何で書いても構いませんが、提出する物については油性ボールペンが無難だと思っております。

 万年筆を一本だけ購入し、様々な用途に使うのであれば、国産なら字幅は細字〜中字、外国産なら細字〜極細字で、インクは黒かブルーブラック系が良いでしょう。黒や暗い青系のインクは、サインや手紙など、オールマイティに使えます。欧米では青を普通に使いますが、日本では青インクで手紙を書くのは失礼という地域もあるようです。字幅の太い万年筆は書き味が滑らかになりますが、罫の狭いノートに書くのには不向きです。


万年筆をどこで買うか

 万年筆は実際に手にとってみて、その質感や重量、バランスなどを確かめ、これはと思うものには実際にインクを付け、試し書きして購入することがベストですから、私としては通販での購入はお勧めしていません。できれば万年筆専門店か、万年筆を多く扱っている文具店(関東地区なら伊東屋、丸善など)のなるべく大きな店舗がベストだと思います。万年筆専門店は、小さな店であっても店員さんの知識は豊富で、万年筆に対する思いも伝わってきたりします。ただ、店によってはその店のお勧め品を強く勧めてくる場合もあるようですので、しっかりと意思表示することは大事です。品揃えなら大型店でしょうね。伊東屋なら銀座のG-Itoya(以前はK-Itoyaで扱っていたが移動した)、丸善なら丸の内本店か日本橋店。横浜高島屋の伊東屋も品揃えは良いです。そういうお店には、万年筆のことをよく分かった店員さんがいるので、予算や好み、どういう使い方をするか、何を書くかを伝えて選んでもらう。そして実際に何本か試してみて、自分に合った一本を選ぶというのが良いと思います。百貨店は店員さんの知識量がまちまちな感じがします(良い店員さんに当たれば色々と話が聞けますが)。もちろん周りに万年筆に詳しい人がいれば、アドバイスを受けるのも良いかもしれませんが、自分の好みのメーカーばかりを強く推す人もいますので、その場合は一応頭の隅に置いておく程度でよいでしょう。

 安く手に入れるならば、東京の上野と御徒町の間に連なるアメ横の万年筆屋は安い(物によっては4割くらい値引き)ですし、意外な掘り出し物が置いてあったりもします(私も1976年から1988年に生産されたシェーファー タルガ1001xg前期型の未使用品を、2016年にアメ横で購入しました)。試し書きもちゃんとできます。御徒町駅北口を出て春日通りを渡ってすぐのところ(ガード下)に1店、その店からガード下を上野方面に歩いて行くと、もう1店、さらに行くと、御徒町と上野の中間辺りにライターと筆記具のお店があります。ただ、ショーケースが狭い通路に面していて人通りも多いのでじっくりと選ぶ雰囲気ではないですが・・。初めての万年筆を買い求めるのにはあまりお勧めしませんが、ビンテージ物が無造作に陳列されていることもあるので、ディープな雰囲気を味わいたいのであればどうぞ。

 通販もかなり値引きされていますが、初心者の方にはお勧めしません。普段使っている物の色違いが欲しいとか、字幅違いの物が欲しいとか、あるいは軸の形状は違うけどペン先は同じ物とか、どんな物かが大体分かっているなら通販でも良いですが、全く知らない物を通販で購入するのはリスクが伴います。評判が良いからといって通販で購入したら、自分には合わなかったなんてことはいくらでもあります。なので最初は特に、ちゃんと試し書きできるお店で購入すべきだと思いますね。私はヨドバシカメラ(概ね2割引)もよく利用しましたが、最近はインクを付けての試し書きは受け付けない方針に変わってきていて、濡れると色が変わる特殊な紙を使って、ペン先に水を付けて試す方式です。何もしないよりはましですが、このやり方では本当の書き味は分からないです。


お勧めの万年筆は?

 お勧めの万年筆・・と一口に言っても、誰に勧めるかによって変わってきます。なのでこういう人にはこれ・・という感じで、嶋田の独断で選んでみました。

たった一本だけお勧めするとしたら
 お勧めの万年筆はたくさんあるのですが、初心者にも万年筆の良さが伝わり、なおかつ万年筆を使い慣れた人にも満足して頂ける物といったら、ずばり、セーラー万年筆のプロフィット21ですね。軸の形状とニブのメッキ処理が異なるプロフェッショナルギア(プロギア)も候補です。決して安くない物ですが、一生付き合えるだけの品質、書き味の良さと書きやすさを備えていますし、海外品に比べお得感もあります。私はプロギアの細字を愛用していますが、細字なのにカリカリした感触もあまりなく、さらりと書け、筆記線もシャープ。国産品ですから日本語の書きやすさも折り紙付きです。筆圧が非常に強い人以外にはお勧めですね。ただし、これは私個人の感想ですから、必ず試し書きをし、納得した上でご購入下さい。プロフィット21とプロフェッショナルギアは、少し上のコラム「バランス型とベスト型」の項に写真を上げていますので、軸の形状など参考にして下さい。なお、この記事を書いた当時よりもだいぶ高くなってしまい、そうなるとパイロットのカスタム743あたりが対抗馬として浮上してきました。

万年筆の持ち方からマスターしたい
 全くの初心者で、なおかつペンの持ち方が変だと自覚している方は、まず正しい持ち方を身につけることが大事。ボールペンならどんな書き方でも壊れない・・、いや、あまりにも持ち方が変で、その上力を入れて握るため、樹脂製の軸を何本も折っている子が身近に一人いましたが、基本的にはよほど筆圧が高くない限り、ペン先を潰すことはありません。ですが万年筆は変な持ち方で筆圧を掛けて書くと、ニブが潰れたり変形したりして、使い物にならなくなってしまいます。なのでまずは持ち方から覚えることが肝心。首軸の形状に合わせて持つことで、自然に正しい持ち方になるよう設計された万年筆が良いでしょう。そういう万年筆の多くは児童用で、パイロット カクノ、ペリカン ペリカーノジュニア、ラミー abc、ラミー サファリなどがあります。ボールペンを何本も折った子にペリカーノジュニアをあげたら、最近では割と持ち方が普通っぽく変わってきています。私はこの中ではカクノの中字が使いやすいと思います。サファリはインクフローが渋く、ある程度筆圧を掛けないとインクの供給がスムーズではないので(特に極細や細字は)、私はあまりお勧めしていません(変な癖が付く可能性があるため)。ペリカーノジュニアはインクフローも良く書きやすいのですが、字幅がA(中字相当)とL(左利き用)しかなく、かなり太いので、細かな字を書くのには向かないです。その点カクノはインクフローが良く、中字でも7mm罫のノートに普通に書けます。

 実は持ち方からマスターしたいのであれば、一番お勧めしたいのはシェーファー プレリュードの中字です。首軸は持ちやすく、インクはスムーズに出て筆圧無しでも書けますし、ニブ自体は強度があるので筆圧が高くてもOK。国産の中字よりやや太めで7mm罫だとギリギリですが、細字よりもさらりとして書きやすいです。さらにこの万年筆は金属製で適度な重量感があるため、胴軸を持ってペンを寝かせ、ペン自体の重さを利用してさらりと書くこともマスターできる。なかなか良くできたスチールペンなのですが、国産の金ペンが買えてしまう価格なので、微妙です。これがもう少し安ければ、自信を持ってお勧めするのですが・・。

 持ち方は悪くないけどペン先を捻って(ペン先が真上を向かず、どちらかに傾く)書く癖がある人にはキャップレスが良いかもしれません。キャップレスシリーズはペン先側にクリップが付いているという独特の形状で、このクリップが邪魔にならないように持つと、必然的にニブが正しく上を向くようになっています。

とにかく筆圧が強い
 とりあえずラミー サファリあたりから始めてみましょうか。あれは何をやっても壊れなさそうですし、あれを壊してしまうようであれば、万年筆には向かないと思って下さい。

安くて使いやすい万年筆が欲しい
 シェーファー100は上位のプレリュードと同じニブを使っていながら価格は半分以下の5,000円でお得感があり、書き味も上々です(カラーバリエーションが少ないのは不満ですが)。パイロット カクノ・プレラ・コクーン(軸は違いますがニブは同じです)はもっと安くて品質も良いです。パイロット カヴァリエは、細軸が好きな方にはお勧め。中細字のみですがセーラー万年筆 プロフィットジュニアも良いですし、激安のプラチナ萬年筆 プレピーも侮れませんが、いかにもという外観です。プラチナ万年筆のプロシオンは、私は使っていないですが、店頭で試した感想としては割と書きやすいです。

初めての金ペン
 やはり国産のエントリーモデルがお勧めですね。パイロットならカスタム74、カスタム ヘリテイジ91、グランセ、プラチナ萬年筆なら#3776センチュリー。セーラー万年筆ならプロフィットスタンダードとかプロフィットライト・・なのでしょうが、私のお勧めはあえて1ランク上のプロフィット21、プロフェッショナルギアです。プロフィットスタンダードの14K中型ニブはかなり硬い感触なので、だいぶ高くなりますが21Kニブのプロフィット21の方が断然書き味が良く、気に入ってもらえると思います。これは是非店頭で書き比べてみて下さい。ちなみにプロフィットスタンダード21というのもありますが、プロフィットスタンダードと比べて劇的に感触が違うというわけではないです。

万年筆は使いたいが頻度は低い・・かも
 そういう方は、割り切ってプラチナ萬年筆のプレピーというのはどうでしょう。たった300円(極細のみ400円)という低価格品ながら、ちゃんとした万年筆です。アルミ軸で少し高級感のあるプレジールもあります(ペン先ユニットは同じ物です)。もっとちゃんとしたのが良いならプラチナ萬年筆の#3776センチュリーなどがおすすめ。これらはインナーキャップがバネで押さえられる構造なので、インクが乾きにくいという特徴があるのです。その他の物ならば、ネジ式キャップの物が良いと思います。一般に嵌合式キャップよりもネジ式キャップの方が気密性が良く、インクは乾きにくいです。特にセーラー万年筆のネジ式キャップは秀逸で、インクは乾きにくいです。使用頻度が低いと予測されるならパーカーの万年筆はやめておきましょうか。パーカーの万年筆はキャップに穴が開いているのが多いので、少々インクが乾きやすいのが難点です。パイロットのカクノもキャップに穴が開いており、インクは若干乾きやすいです。インナーキャップが入っているから問題ないという意見もありますが、私の実感としてはやはり、穴あきのキャップはそうでない物よりも若干乾きやすいと感じております。

持ち歩いて使いたい(機動性の良いもの)
 パイロットのキャップレス、キャップレス デシモでしょうね。ノック式の万年筆で、さっと取り出してさっと書けます。ノック音が気になるならキャップレス フェルモ(回転繰り出し式)という手もありますが、ノック式は片手でペン先を繰り出せるというのが大きな魅力です。また、デシモはキャップレスシリーズの中でも軸がやや細く、アルミニウム製で軽く造られているのもポイントです。もちろん各メーカーから出ている短軸の万年筆も、選択肢に入ってくるでしょう。短軸の万年筆としてはパイロットのエリート95sの名が挙げられ、コンパクトで持ち歩きに便利でありながら、キャップをペン尻に挿すと通常サイズとほぼ変わらないという考えられた設計です。ただし、手帳を手に持って筆記するような時には同じパイロットのステラ90s・レグノ89s・レガンス89s(同型で材質のみ異なり、金属製のステラは他よりも重い)の方が使いやすい気もします(ただし、いずれも販売を終了しており、そのうち店頭から姿を消す運命です)。復活したセーラー万年筆のプロフェッショナルギアスリムミニは、小さくて良いのですが、ネジ式のキャップを外し、それをペン尻にネジ式で固定して使うという儀式が少々面倒です。海外の物ならペリカンのスーベレーンM400やクラシックM200(サイズは同じでM400は金ニブ、M200はスチールニブ)は、微妙で絶妙な小ささで、デスク用としても使いやすい上に、ポケットへの収まりも良く、そこら辺も人気の秘密なのでしょうね。

ビジネスに使用したい
 手頃なところではパイロットのカスタム ヘリテイジ91 ブラックなどは使いやすさはもちろんのこと、割とデザインも良いですし、落ち着いた黒・銀で嫌味もないと思います。ウォーターマンのメトロポリタンやエキスパートも”できるビジネスマン”的なイメージがあります。パーカー ソネットなども見栄えよく使いやすいですし、気合いを入れてモンブランとかもありでしょうね。基本的にはご自分の好みで構わないですが、派手なデザインの物、豪華すぎる物はやめた方がよいでしょう。さりげなく格好いいデザインの物が良いと思います。うちにも金ピカ万年筆はありますが、商談では絶対に使いません。黒・銀はクールな印象ですが、黒・金も私は好きですね。濃いブルーと銀もなかなか良い組み合わせだと思います。女性ならパールホワイトと金とか、赤・金なんかも華やかで良さそうですね。あくまでも機能性で選んだ上で、好みの色を選ぶと良いでしょう。

サイン用として
 サイン用に万年筆を使用するとなれば、地位に見合った重厚感のある物が良いでしょうね。モンブラン マイスターシュテュック149かル・グラン、ペリカン スーベレーンM1000かM800、パーカー デュオフォールドあたりでしょうか。個性を主張したいならシェーファー レガシーも良いですし、S.T.デュポンのラインDも魅力的です。字幅は中字以上のある程度字幅の太い物。大きな字でサインを書く場合は、ある程度字幅が太い方が、見栄えが良くなります。女性であれば、重厚感のある物よりエレガントなデザインの物の方が素敵だと思います(例を挙げればパーカー ソネット プレミアム パールPGT、ペリカン スーベレーンM400ホワイトトータスS.T.デュポン リベルテなど)。

店頭で試し書きして購入するのが難しい
 嶋田は試し書きをして購入することをお勧めしていますが、諸般の事情によりそれが難しいならば、品質が安定しており外れの少ないメーカーがお勧めです。具体的に言うとパイロットパーカーあたりですね。書き味や軸の太さ、重さが合うかどうかは実際手にしてみないと分からないのですが、少なくとも満足に筆記できないような不具合のある物に当たってしまう確率は低いでしょう。

左利きの人
 自分が右利きなのでこれは難しいですね。そもそも文字は右手で書くことを前提にできていますので、左利きの人は様々な書き方で対応していますが、押し書き(ペンを前方向に進めて書く)する人が多いように感じます。これは万年筆にとってあまり想定していない動きなので、苦手とする部分です(右利きの人なら滑らかな書き味の万年筆でも、左利きの人が使うと押し書きした際に引っかかる感触が出たりします)。一応セーラー万年筆にはプロフィットレフティという左利き用にペンポイントを研いだ万年筆がありますし、ペリカーノジュニアにもL(左利き用)ニブがありますが、専用の物となるとかなり選択肢が狭まってしまいます。なので店頭で色々試してみて選んで下さいとしか言いようがありません。ただ、ヒントとしてはニブが上に反った万年筆、例えばパイロットのウェーバリーニブシェーファーのインレイドニブなどは、ペンポイントの腹の部分を使って書く感じになるので、引っかかり感は少ないかもしれません。あとは割り切ってパーカー5thですかね(万年筆ではないですが)。見た目は万年筆っぽい演出をしたような代物ですが、方向性は無いため、左利きだろうと右利きだろうと、どんな角度で書こうとちゃんと書けますし、左利きにありがちなインクの滲み(書いた文字の上に手を置くので水性インクでは文字が滲みやすい)も、水性ながら速乾性の5thなら問題なく、そこも売りにしているくらいです。ランニングコストが高いのと、今ではインクの色が黒と青しかない(発売当時はバーガンディとかグリーン系などがあったのですが)のは難点ですが、筆圧をあまり掛ける必要もないので、万年筆とは違いますが、それなりに近い感覚で書けるのではないでしょうか。5thはまだまだメジャーではなく、取り扱っているお店の多くは試し書き用を用意しているので、左利きの人で万年筆に満足できない方は手に取ってみると良いかもしれません。


いよいよ試し書き

 店頭で試し書きをする場合、あらかじめインクを充填してある試し書き用はともかくとして、多くの場合はガラスケースから商品を出し、インクをペン先に付けて試し書きします。その場合、インクを充填して使うよりもインクが良く出て、字幅はやや太めになり、書き味は滑らかになりますから、本当の書き味は一枚割り引いて考えた方が良いでしょう。また、売り場にある試し書き用の紙はかなり質の良い紙ですから、書き味も良く感じがち。なので自分が普段使っている手帳やノートに書いてみるというのも良いでしょう(ただし再生紙などによくある繊維が出やすい紙は使わないこと。切り割りに繊維が挟まったりして万年筆には不向きです)。実際問題として初めての万年筆でいきなり自分に一番合った物を手に入れるというのは、かなり難しいと思いますね。なお、低額の万年筆であれば、文具店で普通に陳列されて自由に手に取れる場合も多いです。近くに試し書き用が置いてあったりするので、それを使ってみて、気に入ったら商品を手にとって、直接レジに持っていく・・という感じになります。

 ボールペンの試し書きではよくクルクルと円を描いて書きますが、あれはインクがちゃんと出るかどうか試す程度で、万年筆の書き味や書きやすさをそれだけで判断することはできません。ちゃんと字を書きましょう。そして、試し書きをする場合は普段よりも大きな字を書きがちです。書き味が気に入って購入し、いざ家で使ってみたら、字幅が太すぎて字が潰れてしまったなんてことにならないよう、なるべく普段書くような大きさで、アルファベット、仮名、漢字などを交えて書くようにしましょう。日本語は横書き・縦書きの両方を試しましょう。漢字は「永」を書く人は多いですね。永字八法といって、日本語の筆記要素を全て含んだ字ということで、これを書くのは良いのですが、私はもっと字画の多い文字を書くことをお勧めします。ちなみに私、嶋田友馬の本当の苗字は「齋藤」なので、いつもこれを書きます。17画と18画の込み入った字なので、線が重ならないか(字幅が太すぎないか)をチェックできますし、何しろ頻繁に書くので、これが書きやすいかどうかは重要なポイントなのです。それだけでなく、思いついた字をなるべく多く書いてみましょう。

 そして試し書きの際に、持ちやすさ、バランスの善し悪し、書きやすさ、書き味の良さなどをチェックしていきます。それを掴むのはちょっと書いたくらいでは無理。とにかく書きましょう。インクが無くなったらもう一度付けてもらって書きましょう。候補となる複数のペンを並べて、書き比べましょう。ちゃんとしたお店なら、嫌な顔一つ無く対応してもらえるはずです。