U-Maの音楽館

SHEAFFER


SHEAFFER(シェーファー) アメリカ→インド

 1907年、アイオワ州フォートマディソンで宝石商を営んでいたW.A.シェーファーは、レバー機構を活用したペン充填器を発明。自らの貯蓄を全て投入し、1913年に設立したのがW.A.シェーファーカンパニーです。最初は宝石店の奥にある小さな部屋で始めたようですが、画期的な商品を次々と開発し、不動の地位を確立。レバー式以外にもスノーケル、タッチダウンなどの吸入方式を開発、シェーファーの顔となるインレイドニブの採用など、独創的なアイデアにあふれた商品展開を繰り広げます。ニクソン元大統領、レーガン元大統領がシェーファーを愛用していたのは有名ですし、吉田茂元首相が条約の調印に使用するなど、その製品は高く評価され、日本でもかつては三大輸入筆記具メーカー(パーカー、モンブラン、シェーファー)の一角でした。しかし、1997年にBICの傘下になり(それまでにも何度か転売されたようですが)、そのあたりから商品政策などに迷走が目立つようになり、ブランド力も徐々に低下。2008年にはフォートマディソン工場を閉鎖し、生産拠点は中国に移り、2014年にはBICから同業者であるA.T.クロスに売却されました。日本での売り上げも低迷しており、今では販売店からそっぽを向かれている状態です。

 「何故今更万年筆か」のページで触れた、シェーファーを沢山集めた理由ですが、一つは以前からシェーファーが好きなこと。全体的に重めで私好みな上、デザインも好きですし、外国産の万年筆の中では筆記線が細めで漢字を書くのにも向いているので、私にとっては魅力的なのです。でも、ここまで集めたのは2014年9月にシェーファーがクロスに売却されたこと知ったのがきっかけです。それ以前からシェーファーはプロモーションがブレまくったりしていたようですが、親会社のBICは低価格のボールペンやライター、安全カミソリなどを大量生産して販売しているメーカーですから、シェーファーはその高級筆記具部門として一応の居場所がありましたが、クロスは同じアメリカの高級筆記具メーカー。この傘下になってしまうと、商品がもろに被ってしまうため、シェーファーの商品はだいぶ削られてしまうのではないかという予測の元、とにかく手に入る万年筆の現行品は、各シリーズ集めていったのです。

 その予測は恐らく当たり。シェーファーから登場する新製品は安い物ばかりとなり、既存品のカラーバリエーションも大幅に削られて、そして代表モデルのレガシーもカタログから消えた。レガシーはシェーファーの顔です。これが無くなるということは、1959年発売のPen For Men(PFM)から続く、独特のインレイドニブが消えてしまうことになり、そうなるとシェーファーはもはやシェーファーでなくなってしまいます。後継品が出るような雰囲気でもなく、もしかしたらシェーファーはクロスに完全に吸収され、インクやコンバーター、ボールペン替え芯などの消耗品を細々と続けるだけ・・なんて事になっちゃう可能性も・・・。先行きは暗いです。いや、もう終わったかな?・・・と思っていたら2022年8月、インドで高級筆記具を販売するウイリアム・ペンに売却されました。クロスの傘下ブランドですっかり影が薄くなっていたシェーファーにとってはむしろ良いのかもしれません。クロスオブジャパンはシェーファーの扱いを中止しましたが、2023年にダイヤモンド株式会社が代理店に名乗りを上げたようで、レフィル類の心配はなくなったと思います。

 私は中国製のシェーファーも何本も持っています。時々付属のコンバーターに不良がありますが(試し書きしたものを洗浄する際に何度か外しているのが原因か? つなぎ目が心許ないので着脱を繰り返すとあまり良くない)、本体自体の品質は悪くないですし、個体差も割と少ない印象です。ただ、昔からのファンにとっては、今のシェーファーは満足できないというのも分かりますね。シェーファーの斜陽はいつ始まったかは定かではないですが、1970年代に安いカジュアルペンであるノンナンセンスがバカ売れしたため、シェーファー=安物メーカーというイメージが付いてしまったのも一因と考えられます。ですがやはり、文字を書くという行為が縮小されていく中、実用性以上の何か(デザイン性、ステータス性など)がプラスされなければ、先行きは厳しい。基本的に武骨なシェーファーは、そのプラスアルファを十分に演出できなかったことが凋落の決定的な理由だった気がします。VLRなどはなかなか魅力的ですが、2006年になってこれを発売してもね。

 外国産としては価格も手ごろですし、もっとお勧めしたいのですが、販売店からそっぽを向かれている状態ではとても勧められません。お勧めなのは中古のタルガと安い商品・・くらいかなぁ。本当は自分が一番好きなレガシーもお勧めしたいですし、プレリュードは万年筆らしいデザインで初心者にも使いやすいのですが、これらも今ではカタログから消えています。結局商品が扱われなくなったのは商品に魅力がないからでしょうね。最初から安くて良い物をというコンセプトなら良いのでしょうが、過去の栄光があるだけに昔からのファンは今の商品には見向きもしないし、若い世代を獲得するだけのものも無いということでしょう。

 話は全く変わりますが、シェーファーの万年筆は、カートリッジインクの装着法が他社とは違います。他社製品では首軸を持ち、カートリッジインクを首軸に差し込んでから胴軸を閉めますが、シェーファーの万年筆は、インクと同じ色の樹脂が嵌めてある方を下にして胴軸内にカートリッジインクを入れ、そのまま胴軸を閉めるだけでカートリッジインクが装着できます。これはシェーファーの万年筆のカートリッジやコンバーターが細いパイプのみで接合されていてちょっとした衝撃で抜けてしまうので、脱落防止のため胴軸内部に段差を設け、カートリッジインクがそれ以上奥に入らない構造になっているのを利用しているのです。元々は接合部の欠点をカバーするための構造なのですが、それをカートリッジの簡単装着に応用したアイデアですね。コンバーターも同じ形式なので、長く使っているとこの接合が緩くなり、コンバーター部分を持ってインクを吸入すると、首軸から下が脱落することがありますので、コンバーターを使う場合は首軸部分もしっかり支えてあげた方がよいでしょう。私はそもそもシェーファーのインクはあまりお勧めしていません。で、ふと試してみたところ、自己責任になりますが、ヨーロッパタイプのカートリッジの内、世界標準規格のカートリッジが問題なく使えることを発見しました。


        シェーファーの万年筆に世界標準タイプのカートリッジを挿した状態。
        上がインテンシティにエルバンのエクラドゥサフィール、下がアジオにファーバーカステルのコバルトブルー。

シェーファーの純正インクよりも差し込み口が小さく、若干入れづらいですが、その代わりカートリッジが抜け落ちる心配はありません。エルバン、ペリカン(ショート)、ファーバーカステル、カランダッシュ、モンテグラッパ、モンテベルデのカートリッジなら使えるはずです。ただ、残念ながらスリムタルガの場合は、ヨーロッパタイプのカートリッジですら太すぎて入らないという情報があります。

 シェーファーのボールペンは独自規格で(パーカータイプのタラニスとサガリスを除く)、初期の替え芯は黒の細字が入っている物が多いですが、断然中字の方がお勧めです(中字の方が滑らかで書き始めの掠れも少ない)。細字は書き始めが頻繁に掠れる個体が少なからず存在します。互換性のある替え芯はセーラー万年筆の18-0300と18-0500だけですが、実はノック式のセンチネルとVFMにはカランダッシュの替え芯・GOLIATHが入ります。長さはほぼ同じでもGOLIATHの方が太いため、ツイスト式のボールペンには入らないのですが、軸内部の空間に余裕があるノック式のボールペンには入るのです。センチネルやVFMをお使いで、書き味がイマイチ気に入らないという方は、GOLIATHを入れると書き味がとても滑らかになります。なお、セーラー万年筆の18-0300は2018年6月にリニューアルされ、18-0500が現行品です(内部構造が変わり、インクの量が多くなったらしい)。シェーファーよりもわずかに細く、芯ががたついたりしますが、インクの出はずっとスムースです。細字で使用したいのであれば、セーラーの方がずっと良いですね。タラニスとサガリスは、豊富にあるパーカー互換の替え芯から好きなのを選べばよいと思います。18-0300、18-0500が適合するボールペンはレガシー、タルガ、インテンシティ(何故かレッドストライプには入らなかった)、アジオ、VFM、センチネルで、VLR、プレリュードミニには適合しません。シェーファーのレフィルは尻の部分が少し細くなっていますがセーラーのは尻の部分まで同じ太さになっており、この違いにより適合する物としない物があるようです。また、T-タイプを使用するタラニスとサガリスにも適合しません。これら以外については試しておりません。


VALOR(VLR) 生産終了品
14Kインレイドニブ、ネジ式キャップ、両用式

 海外ではVALOR(バロール;勇敢な)という商品名ですが、日本ではVLRと呼ばれています。型番がVLR935x(xは0〜6)なので、型番のアルファベットをそのまま商品名として使ったという感じですね。2006年に生産開始されたシリーズで、シェーファー製品でありながら、ドイツで設計されイタリアで委託生産された特別品。シェーファーのフォートマディソン工場は2006年で閉鎖する予定だったので(実際閉鎖されたのは2008年)、最初から海外で委託生産されたのでしょうね。

 VLRの胴軸とキャップはよく磨かれたアクリル樹脂製。金属軸が多いシェーファーでは少々異質と言えるでしょうか。首軸は割と細く、胴軸も中庸といった感じで、キャップが太い。キャップを閉めた状態では少々頭でっかちなスタイルで、V字をイメージしたクリップが主張しています。また、外観上一目でシェーファーであることを表すホワイトドットも、他のシリーズより大きくなっています。軸色は黒/金、黒/銀、ブラウン/金、ディープブルー/銀、バーガンディ/銀(銀はいずれもパラジウムメッキの色)の5色で、黒以外の色はパール顔料入り。私はパラディウムトリムバーガンディに一目惚れしました。さすがにシェーファー最高級品だっただけに、箱は木箱です。


         シェーファー VLR パラディウムトリムバーガンディ 万年筆 細字

 大きなキャップを外すとこのように、独特な形をした14Kニブが顔を出します。これがシェーファー伝統のインレイドニブです。


         シェーファー独特のインレイドニブ          クリップはV字をイメージ 天冠に大きなホワイトドット

普通の万年筆はイカの頭のような形をしたニブを、首軸に挿し込んであるのですが、インレイドニブは首軸に嵌め込まれています。インレイドニブにも色々な形状があるのですが、シェーファーのは実に魅力的なデザイン。特にくさび形に型抜きして首軸に嵌め込んである部分のデザインが秀逸だと思います。インレイドニブの特徴として、ニブががっちりと固定されているため、安定感は抜群です。しかし反面、感触が硬くなり、これも14Kにしてはかなり硬く、しなりはあまりありません。が、シェーファーはある工夫をしております。それはニブを若干ですが、上に向かって反らせていること。ペンを立て気味にして書くと硬めの書き味なのですが、ペンを寝かせて書くと、若干ながらふわっとした柔らかさを感じます。これが上反り形状がもたらす効果で、最初からしなりを与えることで、独特の書き味を演出しています。


        シェーファー VLRのニブ(左)とパイロット カスタム ヘリテイジ912のニブ(右)。VLRは上に反っているのが分かる。

 キャップを外した状態ではあまりパッとしないかもしれませんが、この万年筆はキャップをペン尻に挿すと、ペン先側が細く、後ろに向かって太くなっていくという堂々とした形状で、頭でっかちなキャップは、これを見越した上で設計されているのでしょう。会社のお偉いさんがサインを書く時に使うと格好いいですね。

 シェーファーは海外品としては字幅が細めなのですが、VLRの細字は国産の細字よりもわずかに太い程度で、細字好きの私には非常に嬉しい仕様です。日本語を書くのにも割と向いていて、書きやすい万年筆です。一転して中字はインクドバドバ系で、国産の太字に近く、細字と中字の差が大きいという印象です。書き味は硬めで、筆圧にも強く、ハードに使ってもびくともしませんが、先述したように、紙当たりはやや柔らかくも感じます。ただ、次項のレガシー ヘリテージほどはふわふわしておらず、こちらの方が万人受けする感じです。

 VLRにはボールペンもありますが、高価な上に中身のレフィルは変わりませんから購入する勇気は無いですね。

 VLRは残念ながら、2013年に生産を終了しました。もう店頭で見ることはほとんどありませんが、中古市場にはそこそこ出てきます。この万年筆は結構マニアの間でも人気なのにね。シェーファーは何故売れなくなっちゃったのか。


LEGACY(レガシー) 生産終了品?
18Kインレイドニブ、嵌合式キャップ、両用式 ボールペンはツイスト式

 1959年に登場したPen For Men(PFM)のスピリッツを受け継ぐ正統派。レガシー、レガシー2に続く3代目レガシーがこのレガシー ヘリテージ。独自の吸入方式をやめて(レガシー2の項参照)、今風にカートリッジとピストン式コンバーターの両用式となっています・・だったのですが、2019年のカタログではヘリテージが取れて、レガシーという品名に戻ってしまいました。両用式は変わっていないので、初代とシステムが違うのに同じ名前・・。何でヘリテージを取ってしまったのか・・。そして、2019年7月に確認したところ、価格が大幅に改訂され、何と、30,000円から55,000円になっているようです。もっとも、レガシー2は確か55,000円で売られていて、タッチダウン吸入器を止めたにしても、ヘリテージになった時にかなり値下がりしていたので、元に戻したと言うべきなのでしょうか。私としても海外の万年筆で、この仕様で、30,000円はむしろ安いと感じていましたが、後述のようにこの万年筆は一度壊してしまっているので、価格改定前に予備を購入しておいて良かったです。

 胴軸とキャップは真鍮製で、見ての通りのシガーシェイプ(葉巻型)。太軸で40gほどある重いモデルですが、バランス良く設計されています。軸色は限定品を除いて20種あまりが造られたようですが、現在残っているのは下の写真のブラックラッカーパラディウム(Black Laque/Palladium Plate Cap GT)と、キャップまで黒いラッカーで塗られ、装飾が銀色のブラックラッカーパラディウムトリム(Black Laque PT)の2種類です。無難な色の2つが残ったという感じですね。


         シェーファー レガシー ヘリテージ ブラックラッカーパラディウム 上:ボールペン、下:万年筆 細字

 キャップを外すとPFMから脈々と続く、インレイドニブが顔を出します。VLRは14Kですが、レガシーシリーズは18K。とは言ってもガチガチのニブには変わりないのですが、材質の差なのかわずかな形状の差なのか、VLRよりもさらにふわふわ感が強く、より独特の感触になります。ペンを立て気味にして書いても、やや柔らかく感じ、寝かせるとさらに柔らかさを感じます。ただ、VLRと違い、レガシーはペン芯が出っ張っており、あまり寝かせすぎるとペン芯が紙を擦ってしまい、紙に余計なインクが付いてしまう事があるので、寝かせすぎると書きづらいです。45°くらいが限界かな。私はこれが一番好きなのですが、好き嫌いがはっきりした万年筆だと思われます。細字はVLRよりもやや太く、国産の中細くらい、中字はVLR同様インクドバドバ系で、国産の太字くらいはあります。

 見た感じは高級品としての最低限のことはしていますが、派手さは無く質実剛健。硬派な男のペンという感じです。VLRは格好いいですし、あれはあれで好きなのですが、レガシーは堅実、実直なイメージで、これはこれで素晴らしい。太くて重い万年筆ですが、バランスは良くてそんなに重くは感じません。ただ、どうしても武骨な男のペンという印象なので、これよりも細くて軽い、女性向けのデザインがあっても良い気がします。

 そして、実はこの万年筆、万年筆のトラブルの項で書いた、ニブを曲げてしまった個体です。でも、今でも現役バリバリで、一番手にする機会が多い万年筆です。よく自分で直せたなぁ。

 フォートマディソン工場閉鎖後は、ニブはドイツのボック社に委託生産し、全体はチェコで生産されたようです。この個体もUSAの刻印がありませんからチェコ製だと思います。フォートマディソン工場は2006年に閉鎖予定だったのですが、2008年に延びたのはインレイドニブを委託生産するのに手こずったからだとか。シェーファー独特の物なので、何となく分かるような気がします。

 ボールペンも太軸でかなり重いものです。これもなかなか高価なので、貰い物でなければ持っていなかったでしょうね。万年筆は高価な物が良いとは一概に言えないまでも、やはり安い物と高い物ではだいぶ違います。ですがボールペンは同じメーカーなら中に入っている替え芯が同じ場合が多いため、軸の形状や重量により書き味が変わることはあっても、本質的なところは変わりません。なので、あまり高い物には手を出せないのです。

 初期の替え芯は細字が入っていましたが、基本的には会社でサイン用とかに使っているため、中字に入れ替えました。そうしたら感触がより滑らかになり、書き心地は良いです。シェーファーの替え芯は書き出しが掠れることが多い(特に細字)のが難点ですが、感触的には一番好きです。ただ、私には軸がやや太すぎで、長く書いていると疲れますね。せっかくの貰い物なのでペンケースに入れて、書類にサインを書いたり宛名書きしたりする際に取り出して使っていますが、あまり使用頻度は高くありません。ここぞという時に使うペンです。太軸で重いのが好きな方には良いと思います。

 これも2016年の大幅商品整理に引っかかり、ボールペンは廃止。万年筆だけ細々と続けていましたがそれも終了。シェーファーの顔と言えるインレイドニブがついに消えてしまったか。

 私ならむしろ、オープンニブを全廃し、インレイドニブのみの商品構成にして再生を図るかな。普及価格帯は昔あったステンレスのインレイドニブを復活させて上級モデルに繋げる。でも、シェーファーのインレイドニブはどこでも生産できるわけではないようで、結局フォートマディソン工場の閉鎖がとどめだったのかな。


LEGACY 2(レガシー2) 絶版品
18Kインレイドニブ、嵌合式キャップ、タッチダウン吸入式(カートリッジと旧式コンバーターも使用可)

 レガシーの後継モデルで、レガシー ヘリテージの前の世代になります。外観上、レガシーとは首軸のリングが1本か2本かという違いがあるのですが、レガシー ヘリテージとはほとんど変わりません。でもよく見ると、胴軸の後ろ側(尻軸と呼ばれる部分)が違います。レガシー ヘリテージは胴軸が完全に一体成形ですが、レガシー2は尻軸部分が別パーツとなっており、ここを左に回してロックを解除し、引っ張ると、このように金属の棒状の物が出てきます。


         シェーファー レガシー2 エンペラーズシルバーPT 万年筆 中字  タッチダウンレバーを引き出した状態

 これはタッチダウン式吸入器のレバーです。胴軸内部に金属のカバーが付いたゴムのインクタンクがあり、このレバーをゆっくりと引いて伸ばし、ペン先をボトルインクに漬けてレバーを勢いよく戻すと、胴軸内部が加圧されゴムが潰れます。しかし、最後まで押し込まれると空気が抜けるように設計されているため、潰れたゴムが元に戻り、インクを吸入するシステムです。ただ、レガシー2はこのインクタンクを簡単に取り外すことができ、カートリッジインクや板バネ式のコンバーターを挿すことも可能です(現行のピストン式コンバーターは入りません)。つまりはカートリッジ/コンバーター/タッチダウン共用式とでも言いましょうか。シェーファー独自の吸入方式を楽しむこともできますし、手軽なカートリッジを使うこともできますが、残念ながら板バネ式のコンバーターは現在入手困難ですし、タッチダウン用のインクタンクはほぼ入手不可能です。ちなみにこの個体に付いていたタッチダウン用のインクタンクは、水を吸入してみたらちゃんと機能していました。シェーファー独特のタッチダウン吸入式最後のモデルですので、今となってはなかなか貴重かもしれません。もっとも高く売れるわけではないですが。


        胴軸を外した内部  首軸に付いているのがタッチダウン用のインクタンク(金属製カバーの内部はゴムサック)
                     このゴムサックは簡単に外すことができ、板バネ式コンバーターやカートリッジを装着できる

 さすがにこのモデルはもう、百貨店や有名文具店で見かけることはありませんし、行きつけの中古屋さんにもほぼ出てきません。レガシー2自体が1999年から2003年という短い期間に生産された物で、特にこの軸デザインは2002年だけ生産されたものだそうです。これをどうやって入手したかというと、アメ横で万年筆屋さんを巡り、物色している内に見つけ、未使用品として購入したのです。タッチダウン式吸入器を使えるということ以外は、レガシー ヘリテージとほぼ同じですから、レガシー ヘリテージをお持ちなら、購入してもあまり意味はないかもしれませんが、面白いギミックを内蔵している点で、話のネタくらいにはなりますかね。

 これはエンペラーズシルバーPT(日本では単にシルバーと呼んでいたらしい)という色名で、アワーグラスパターン(砂時計模様)が刻まれた軸にサテンクロムメッキ仕上げ。面白い軸なのですが、実はこのメッキ部分が結構滑ります。なので首軸を持って書くのが正解かと思いますが、キャップをペン尻に挿した状態で首軸を持つとややテールヘビーになってしまいますので、キャップは外して書いた方が良いと思います。もちろんこれはこのデザインの特性で、ラッカー塗装の物などは、胴軸を持って書いても何の問題もありません。

 ニブはレガシー ヘリテージと同じ物なので、書き味は変わらないのですが、この個体は中字なので、インクが気持ち良いくらいドバドバ出て、書き味は滑らかそのものです。7mm罫のノートに漢字を書くのは辛いですが、無地のノートに思いついたことを書いたり、宛名書きしたりするのにはすごく良いです。


TARGA CLASSIC(タルガ・クラシックタイプ) 絶版品 お勧め品(中古で)
14Kインレイドニブ(一部18Kニブ,ステンレスニブもあり)、嵌合式キャップ、両用式 ボールペンはツイスト式

 タルガは1976年から1999年(1998年?)にかけて生産された人気モデル。「タルガの終売と共にシェーファーは終わった」と評する人もいらっしゃいます。確かにこれは全盛期に誕生し、斜陽時代を何とか支えてきたモデルなのではないでしょうか。独特のインレイドニブを引き継いだ細身の万年筆で、その軸色は何と100種類を超えると言います。今でも中古市場に良く出てきますが、1001xgブラッシュトステンレスGPトリムゴールドニブ、1005フルートラインゴールドプレート、1007ジオメトリックゴールドプレート、1004スターリングシルバーストレートライン、1024フルートラインスターリングシルバーあたりが良く出てくるようです。ラッカー塗装の物も出てきますが、色はまちまちですね。そして、今でも未使用品が出てくることもあります。ニブは基本的に14Kですが、ステンレス製や18Kもあったようです。

 細身ですが重量感はあり、カートリッジインク込みで25〜30gくらいあります(軸の加工により重量が異なる)。割と持ちやすく、細軸が嫌いでなければなかなか良くできた万年筆で、インレイドニブ独特の書き味もあり、あれだけのヒットになったのでしょう。今使ってみても非常に良い万年筆ですし、シェーファーらしさも出せています。

 タルガのニブはVLRに似ており(と言うよりVLRのニブがタルガに似ている)、コリコリの感触ですが、寝かせて書くとやはり若干柔らかな感触が現れます。安定感があり、インクフローも良く書きやすい万年筆です。ただ、今のシェーファーよりもニブのばらつきが大きいかもしれません。まあ、アメリカブランドのおおらかな造りだと思って頂ければよいでしょう。シェーファーのインレイドニブファンにとってはたまらない魅力がありますし、細身でスタイリッシュな軸も人気。中古屋さんで見かけたりしたら、手に取ってみるのも良いかなと思います。

 シェーファーのインレイドニブは独特の外観と感触が魅力なのですが、レガシー ヘリテージはごつくて太くて重く、初心者がいきなり買っても使いこなせなさそう。VLRは結構扱いやすい万年筆ですが、価格が・・。タルガは海外の金ペンとしては手頃ですし、とても扱いやすいので、今でもこれが続いていたら、ブランドとしての人気もここまで落ちていなかったような気がします。

 なお、クラシックタルガには現行のカートリッジやコンバーターが問題なく使えますので、手軽にカートリッジを使っても良いですし、コンバーターに好きなインクを吸入して楽しむこともできます。ところがタルガにはスリムタルガという、より細身の万年筆が存在し、こちらには現行のカートリッジもコンバーターも使用できず、スリムタルガ用のカートリッジ、コンバーターはすでに終売しておりますので、インターネットオークションなどで購入する際にはクラシックかスリムかを確認する必要があります。スリムタルガは専用コンバーター付属か、専用コンバーターのデッドストックを探すなどしなければほぼ使用不能です。セーラー万年筆のカートリッジを加工して(インクの入っていないスカート部分を切り落として)挿すと使えるとか、モンテベルデのミニコンバーターが合うという情報もあるにはありますが、すでに所有している物を何とか使うというならばともかく、コンバーターが付属していないスリムタルガを購入するのはやめておいた方がよいでしょう。コレクションにするならば別ですが。


        シェーファー タルガ
           上:No.1005 フルートライン23ctゴールドプレート ボールペン
           下:No.1001xg ブラッシュトステンレスGPクリップゴールドニブクラシック 万年筆 前期型 細字
           共にデッドストック品で、1005はタルガの定番デザイン、1001xgは前期型で、1988年まで生産された物
           (後期型はブラッシュトクロームでやや青っぽく、天冠も金メッキ)

 タルガのボールペンは、存在は知っていましたが中古屋で出ても、そんなに食指は動きませんでした。でも、とある文具店の閉店セールに行ってみたら、何と訳あり品の中にタルガ1005のデッドストック品があるのを発見し、衝動買いしてしまいました。未使用品ですし、中古の美品でもこれよりも高い値で売っているのですから、つい飛びついちゃいましたね。縦にラインが刻まれているため、金属軸ですが滑りにくくなっています。

 細身の軸ですが、それなりに重量感があり、バランスも良く書きやすいです。中に入っている替え芯は、タルガですから1999(1998?)年までにアメリカで生産された物でしょうね。現行品よりもインクの色が薄いですが、私がかつてその書き味に感動したシェーファーのボールペンそのもの。これは掘り出し物でした。ちなみにこのタルガ1005 フルートライン23ctゴールドプレートは、タルガの定番中の定番で、1976年から1999(1998の誤植かも)年、つまりタルガを生産していた期間全体にわたり、一度もモデルチェンジすることなく作り続けられた、恐らく唯一のタイプです。


IMPERIAL , TRIUMPH(インペリアル,トライアンフ) 絶版品 お勧め品(中古で)
14Kインレイドニブ、嵌合式キャップ、両用式またはタッチダウン吸入式

 インペリアルはタッチダウン吸入式のインペリアルT、U、V、W、Y、[などのモデルがあり、W以降がレガシーやVLRと似た形状のインレイドニブです。また、カートリッジ・コンバーター両用式のペンもあり、こちらはレガシーやVLRと同様な菱形のインレイドニブと、少し形状が違うインレイドニブ(これがトライアンフ)があり、かなり幅広いラインナップになっています。'70年代から'80年代に生産された物です。インペリアルは後のレガシーシリーズへと繋がる高級品で、その廉価版がトライアンフという構成だったと思います。売れていたので数はかなり出てきますが、シェーファー全盛期の面影を垣間見ることのできる万年筆ですね。

 これはインペリアル777 12金張りです。キャップの中程までしかない短いクリップがお茶目です。金張りとは、金を薄く延ばした物を圧着したもので、かつ金の重量がその構造物全体の5%以上の物を指すようです。メッキよりも金の層が厚くなりますが、残念ながらかなり使い古された個体で、中古で購入した際には全体的に傷だらけでキャップの嵌合もユルユルでした。でもインナーキャップがしっかりと機能しているようで、嵌合は緩くてもインクが速攻で乾くようなことはありません。ペンポイントはやや摩耗しておりますが、実用的には問題なく、何しろ外観が著しく悪かったので、非常に安く買ってきました。


         シェーファー インペリアル No.777 12金張り 万年筆 極細字

 この個体はXF、つまり極細字なのですが、これは超掘り出し物かもしれません。つけペン状態で試し書きした時から細いとは思っていたのですが、持ち帰ってシェーファー ブルーブラックを入れたら筆記線がむちゃくちゃ細い。細字に定評があるプラチナ萬年筆の極細よりも細いくらいです。ただ、自社のインクなのにフローが渋かったため(元々シェーファーのブルーブラックはフローが渋め)、即洗ってシェーファー ジェットブラックに変更。同じメーカーなのにジェットブラックはフロー潤沢なので、フローの問題は解消しました。筆記線はわずかに太くなりましたが、それでもプラチナ萬年筆の極細と遜色ありません。また、シェーファー ジェットブラックの欠点である乾きにくさも、これだけ字幅が細ければ、あまり気にならなくなります。とにかく、外国製の万年筆でこれだけ細いのは見たことがないです。元々こんなに細い仕様なのか、個体差なのか、それとも前のユーザーが調整して細くしたかは分かりません。さすがにこれだけ細いとカリカリした書き味ですが、非常に書きやすく、実用的な万年筆です。

 外側は金張りですが、中は樹脂製で、比較的軽めです。軸はタルガよりも太いのに、むしろこちらの方が軽い。外観的にはレガシーとやや似た感じはありますが、レガシーに比べたらはるかに軽いので、重いのが苦手な方には合うでしょう。インペリアルも、タルガと並んで中古市場には良く出てくる万年筆です。それだけ昔は売れてたんですね、シェーファーって。中古市場に良く出てくるスターリングシルバー軸の物はさすがに1万円を超えますし、タッチダウン式は2万円くらいしますが、それ以外はよほど程度の良い物でなければ1万円未満で販売されています。数が多いだけに、価格も手ごろなところで収まっています。古き良き時代のシェーファーを手ごろな価格で味わいたいのであれば、タルガとインペリアルはお勧めです。


CONNAISSEUR(コノソアール) 絶版品
18Kニブ(但しLEVENGER仕様は14K)、ネジ式キャップ、両用式(コンバーターは旧式のみ使用可)

 コノソアールは、18Kオープンタイプのニブを装着したシリーズで、1986年〜1996年に生産されたもの。シェーファーの金ペンはタルガやインペリアルのようなインレイドニブが有名ですから、オープンタイプは何か新鮮なイメージがあります(実はそれなりに出してはいたのですが)。樹脂軸で、クリップはティアドロップ型、シェーファーの証であるホワイトドットはクリップではなくキャップ本体に付いています。タルガやインペリアルに比べて何とも普通っぽいというか特徴があまりないというか、シェーファーの中でも地味な存在ではありますが、当時の高級ラインであったため、実際に見てみるとそれなりの存在感があり、軸サイズもパーカー デュオフォールドのインターナショナルに近いです。ただし、ニブサイズが小さめで(それでもプレリュードSCと比べれば大きいですが)、デザイン的には大きめの軸とバランスが取れていない気もしますし、軸サイズはともかくデザイン的にはそんなに高級には見えないという・・。安い万年筆・ノンナンセンスと似たような外観だったこともあり、何でこんなデザインにしたのか謎です。


          シェーファー コノソアール 810 ブラック 前期型 万年筆 細字

 私のはコノソアール 810 ブラックで、1986年〜1988年の間生産された前期型。後期型は二本あるキャップリングの内、クリップに近い方ににSheafferの刻印が入り、もう一本は面取りされています(一方クリップの刻印は無くなります)。また、このすぐ後により上級のグランドコノソアール(ニューコノソアール)が発売されたようで、そちらはラッカー塗装、ゴールドプレート、スターリングシルバーなどの軸で、ニブは18Kのバイカラー仕上げとなります。コノソアールはずっと欲しかったのですがFニブで十分使えそうな物は出そうでなかなか出てこなかったため、根気よく待ちました。もちろん中古品で、胴軸やキャップに細かい傷が無数に付いていたり、ペンポイントが若干摩耗したりしていますが、金メッキの状態は割と良く、かなり初期の物と思われる個体ですから、掘り出し物かもしれません。ただ、わずかながらも高級に見えるのは後期型の方ですね。

 18Kニブですが、シェーファーらしく硬めです。しかし、最近の金ペン・プレリュードSCに比べれば柔らかい感じもしますし、書き味も滑らかです。かなり上質な物であることは間違いなく、さすがはまだ売れていた頃のシェーファーを代表するモデルですね。字幅Fですが、国産の細字と中細字の中間くらい。海外品としては細い方です。コノソアールはインレイドニブのタルガやインペリアルほどは中古市場に出てきませんが、今はまだプレミアムが付くような物でもないので、割と手ごろな価格で出てきたりもします。コレクターにとってはノスタルジアやバランスの復刻品、あるいはタッチダウン式やスノーケルなどが魅力的かもしれませんが、実用品として手に入れるのであれば、コノソアールは良い選択だと思います。難点を挙げれば、タルガや両用式のインペリアルと異なり、コノソアールには現行のコンバーターが入らず、使用可能な板バネ式コンバーターはとうの昔に廃番。コンバーター付きの個体でなければカートリッジ使用に限定されるところでしょうか。

 コノソアールは基本的に18Kニブですが、生産終了後にLEVENGER(アメリカの文具店)限定で販売されたモデルは14Kニブ(しかも14K585ではなく14K580という謎の物体)で、日本にもそこそこ入ってきていたようです。


PRELUDE SC(プレリュードSC) 生産終了品
14Kニブ、嵌合式キャップ、両用式

 SCはSignature Collection。2013年に登場したニューモデルで、プレリュードの上位品という位置づけです。外観はそれほど変わりませんが、キャップリングがやや太く、天冠部分の装飾が半透明パール状の樹脂から、シェーファーのロゴマークがデザインされた金属部品に変更されています。2008年にフォートマディソン工場が閉鎖されているため、最初から中国で生産された物です。申し訳ないですが中国製というと粗悪品というイメージがつきまとうのですが、日本の電機メーカーが中国で生産した商品は山のようにあり(うちの冷蔵庫もそうですが)、特に問題があるとは思いません。中国メーカーの物はちょっと・・とは思いますが、しっかりとした管理体制の元、中国で生産された物は、品質も割としっかりしていると思います。


        上:シェーファー プレリュードSC パラディウムGT 万年筆 細字
        下:シェーファー プレリュード ブラックラッカーパラディウムNT 万年筆 中字

 外観上はプレリュードとあまり変わらないと書きましたが、キャップを外してみるとだいぶ変わります。ニブのサイズと形状はほとんど同じですが、材質はステンレスから14Kへと変わっています。ほとんどしなりのないガチガチのニブですが、インクフローが良いためか、紙当たりはかなり柔らかい印象です。プレリュードは硬い感触が伝わってきますので、この差は大きいです。国産なら12,000円で金ペンが手に入りますが、これは希望価格2万円。それでも外国製の金ペンとしては最安値クラスでした。国産品は樹脂製の軽い物が多い中、プレリュードSCは金属製で重め。重いのが好きな私にはこのペンが非常に合っています。重くてもバランスは良くて非常に書きやすく、硬くて筆圧もしっかり受け止めるくせに、当たりは柔らかいという独特のタッチがクセになります。


        プレリュードSC(上)とプレリュード(下)
          プレリュードSCの首軸は円形だが、プレリュードは指を当てる部分が少し窪み、滑り止めがある。
          プレリュードSCは14Kニブで首軸に口金あり、プレリュードはステンレスニブ
          天冠は金メッキのシェーファーロゴと白い半透明の樹脂という違いで、個人的には樹脂の方が好き

 軸色はラッカー塗装の黒、赤、青と、パラジウムプレート(銀色)の4色。装飾部品はいずれも金メッキです。私は好みでパラディウムGTを選択しましたが、胴軸を持って書く方は、滑りにくいラッカー塗装の方が良いと思います。

 ところがこの商品、以前からシェーファーの英語サイトには載っておらず、日本版の2016-2017のカタログからも抜け落ち、2016年春、取り扱い終了リストに載ってしまいました。こんなに早くなくなるのは勿体ないと思うのですが、まあ、売れなかったのでしょうね。馴染みの店の店長に見せた時も「これ、シェーファーの正規品ですか?」という反応でした。外観上は定番品のプレリュードと似て非なる物ですから仕方ないですね。某万年筆愛好家が集まる場でも偽シェーファー???と話題になったこともあったとか。販売されていた期間が短かったですし、一度も入荷したことのないお店も多いのではないかと思います。でももちろん偽シェーファーではありません、正規品です。東アジア限定だったという説もありますが、ちゃんと正規のルートで輸入されていた物です。


PRELUDE(プレリュード) 生産終了品?
ステンレスニブ、嵌合式キャップ、両用式

 写真は前項参照。シェーファーの定番モデルで、オーソドックスな軸に、硬いステンレスのニブが装着されています。首軸には2カ所の窪みがあり、ここを持つことで正しい持ち方になるという設計で、初心者にも使いやすい設計ですし、ニブはかなりの筆圧にも耐えるため、筆圧の高い方にも問題なく使えます。インクフローも良好で書き味は滑らか。重量は32gほどあり、重すぎると感じる方もいるでしょうが、自重を利用し、力を抜いて書くことを覚えるのにも向いています。硬い書き味ですが滑らかではあり、私は初めて使う万年筆として最適だと思っています(カクノは軽すぎる感がありますし、サファリはフローが渋すぎて筆圧を掛けないとインクが出にくかったりするので)。外観は普通の万年筆で、無難すぎて大きな特徴も無く、天冠の白いパール状樹脂がオシャレなくらいで、印象としてはとても地味ですが、気軽に使え、ビジネスでもプライベートでもOK。実はすごく優秀な品だと思っているのですが、積極的にお勧めしないのは価格。国産の金ペンエントリーモデルと同価格帯で、ステンレスニブですから、強調しづらいのです。それと、およそ半額のシェーファー100が同じニブを装着しており、持ちやすい形状という点ではプレリュードなのですが、シェーファー100の価格は魅力で、そちらを勧めたくなるのです。

 軸色はだいぶ絞られてしまいましたが、全体では大幅に品数が減らされた2016年に、プレリュードは新色を出すなど、このシリーズに力を入れている感じはします。私のはブラックラッカーパラディウムNTというすでに廃番となっているカラー。黒と銀色の渋い色使いです。字幅は中字ですので、国産の中字と太字の中間くらい。ちなみに細字は国産の細字と同程度かわずかに太い程度で、外国産としてはかなり細い方です。


TARANIS(タラニス) 生産終了品
ステンレスフーデッドニブ、嵌合式キャップ、両用式

 2013年発売のモデルで、ケルト神話の雷神の名を持つユニークなモデル。これも中国製です。キャップをした状態では普通っぽいですが、キャップを外すと先ず首軸の金具(SHEAFFERの刻印あり)が目に飛び込んできて、その先端から細く突き出たフーデッドニブ(ニブの大部分が首軸の中に隠れている物)が個性的。軸とキャップもよく見ると、中央部が丸く、先端に向かってシェイプされ、四角くなっていく独特の形状。雷神のイメージかというと?ですが、先鋭的なデザインは好きですね。

 とは言っても書き味が悪ければ何にもなりませんが、これ、意外と書き味が良いのです。ステンレス製の非常に硬質なニブで、恐らくシェーファーのどのシリーズよりも硬いでしょう。しかし、筆記角は幅広く、ほぼ垂直に立てた状態でも問題なく書けますし、寝かせて書けば意外なほど滑らか。なかなか面白い万年筆だと思います。ただ、個体の問題なのか全体的にそうなのか、あるいはパイロットのインクを入れているせいかは分かりませんが、冬になると時々インクのボタ漏れが発生します。薄い金属の胴軸が熱を伝えやすいのでしょうね。症状が起こるのは冬だけです。ペン芯やフィンの構造が見えないので何とも言えませんが、インクを保留しておく能力も他より低いのかもしれません。他のシェーファーにパイロットのインクを入れても問題ないですから。とりあえず冬はインクを抜いて洗浄し、休ませていますが、次にインクを入れる時には純正のブルーブラック・カートリッジを入れてみようか。シェーファーのブルーブラックはフローの渋いインクですし、こういう場合はカートリッジを使った方がボタ漏れしにくかったりもします。この問題さえなければ結構お勧めの万年筆なのですが・・・。


         シェーファー タラニス ダイヤモンドダストブルーCT 万年筆 細字

 これはタラニスの中でも一番格好いい(と思っている)ダイヤモンドダストブルーCT。なかなか良い色だと思います。万年筆はご覧の形状ですが、ボールペンは首軸の金具がより長く、中央付近まで伸びているので、デザイン的にはボールペンの方がインパクトがあるかもしれません。なお、タラニスのボールペンは、T-タイプというパーカー互換の替え芯です。シェーファー互換のボールペン替え芯を出しているのはセーラー万年筆だけですが、パーカー互換タイプは多くのメーカーから発売されているので、書き味が気に入らなくても好きな互換品が使えるというメリットはあります。大柄で重そうな軸ですから、シュミットのイージーフローや、モンテベルデのジェルペンを入れてサラッと書くのが良いかもしれません。

 2016年春に万年筆がカタログから落ち、ボールペンだけのラインナップになっていましたが、2017年版のペンカタログでは、タラニス自体が消え去ってしまいました。面白い商品なのに勿体ないですね。


SHEAFFER 300(シェーファー300) 万年筆は取り扱い終了
ステンレスニブ、嵌合式キャップ、両用式

 はっきり言ってこれは、評価が微妙です。ステンレスのニブはプレリュードと同じで、書き味も滑らか。硬いけど書きやすいという感じなのですが、バランスが非常に悪い。その原因は、キャップがむちゃくちゃ重く、キャップをペン尻に挿すと超テールヘビーな状態になること。アメリカ人がこの万年筆を使う動画をいくつか見ましたが、口を揃えたようにvery heavyと称していました。安い割に大柄で見栄え良く、その点は悪くないのですが、何故にキャップがこんなに重いのか。しかもこれ、キャップがペン尻にカチッと填る構造になっているのに・・です。キャップを挿して書くと、ペン尻を豪快に振り回して書く状態に。アルファベットならそれでも良いのでしょうが、より細かい描線が必要な日本語にはマッチしないと思います。ってことで、他人様にはお勧めしませんし、もし使うならばキャップは外したまま書くのが正解でしょう。ペン先(ニブ+ペン芯)の造りは悪くなく、書き味も悪くないだけに、この特性は勿体ない。そもそも日本ではキャップをペン尻に挿して書くのが普通ですが、外国ではキャップを外したまま書くのが主流だとか。現に外国製の万年筆はキャップをペン尻に挿すとキャップがぐらぐらする物も多いですし、構造的に挿せないものも多くあります。それならそれで良いのですが、シェーファーでもこれだけがキャップがカチッと填る構造になっている点が謎なのです。


          シェーファー300 マーブルレッド 万年筆 細字

 なお、これも万年筆は終売です。グローバルカタログには載っているので生産はしているかもしれないですが、輸入はやめたということでしょうか。まあ、日本人の手に合うとは思えないので、これは仕方ないかな。


INTENSITY(インテンシティ) 生産終了品?
ステンレスニブ、ネジ式キャップ、両用式 ボールペンはツイスト式

 インテンシティは細身でスタイリッシュが売りなのですが、真鍮製の軸はずっしりと重く、万年筆は40g、ボールペンも33gとかなり重い部類になります。持ってみれば分かることですが、軸のデザインは割と良いだけに、この重さが評価を分ける一つの要因となるでしょう。

 インテンシティのニブはステンレスで、シェーファーらしく硬い書き味。プレリュード、サガリスなどと比べると多少カリカリした感触です。ニブにはSHEAFFERのロゴと字幅の刻印しか無く非常にシンプル。装飾を入れても良いんじゃない?って感じですが、そういう仕様です。全体に重いですしキャップも重く、キャップをペン尻に挿すとテールヘビーになりますが、胴軸部分を持って書けば問題はないかなと思います。私にはこういう重い万年筆が合っているようで、この重さを利用して全く力を入れずサラサラと書くことができ、かしこまって書くならばレガシー ヘリテージが一番のお気に入りなのですが、何も気にせずに書きまくるような時にはプレリュードとこのインテンシティが一番使いやすいです。書き味についてはステンレスペンでももっと良いのがありますが、少々手荒に扱うこともあるので、インテンシティ(強さ)を標榜するこの万年筆は使い勝手が抜群です。そのためこれは会社に置きっぱなしで、会議の際のメモ取りに使っています。他人様にはそんなにお勧めではないですが、自分の手に合っていることが如何に重要かを示してくれた万年筆と言えるでしょう。私にとって、使い倒すのには一番向いている万年筆ですね。欲を言えば首軸が滑りにくい素材だったらもっと良いのですが、金属製だからこその重さとバランスになっているので、贅沢は言えないですね。手が汗ばんできたら首軸を拭きながら使ってます。首軸にラインや格子状の彫りがあれば、滑り止めになるので、そういう加工がしてあれば、私的には星5つです。私は今ではパーカー プリミエやS.T.デュポン エリゼなど、大柄で重い万年筆も使いこなしますが、このインテンシティで重くて大きめなのに慣れていたというのが大きいと思います。


        シェーファー インテンシティ スカイブルーストライプ 上:ボールペン 下:万年筆 細字

 ボールペンも細身の割に重いので、好みは分かれるでしょうが、私にとっては使いやすいですね。重さを利用して、手で押さえつける負担を軽くしているという感じです。替え芯の性能(書き出しが掠れやすい)の件があり、これも他人様にはお勧めしませんが、私はこの書き味が好きでよく使っています。

 私のはスカイブルーストライプという、クロムメッキとラッカーのストライプ模様になっているのですが、インテンシティが縮小した際、ストライプタイプは全部廃番になってしまいました。ストライプタイプの方がオシャレで良かったのに。そして今では全て、カタログから消えております。


SAGARIS(サガリス) 生産終了品?
ステンレスニブ、嵌合式キャップ、両用式

 サガリスは両刃の斧を指すようです。小振りな、しかしモダンな感じのある万年筆で、これのどこが両刃斧なの?という印象ですが、GTTタイプ(装飾部品が金色の物)はニブの一部に金メッキの装飾があるバイカラー仕上げで、この金メッキ部分の形が両刃斧のように見えます。CTタイプ(装飾部品がクロムメッキで銀色の物)の方が安くて、しかも中身は変わらず、メッキも強くて良いと思っていたのですが、残念ながらGTTタイプのみが生き残り、CTタイプは生産終了したようです。これも2013年に投入したシリーズで、10種類くらいの軸色があったのですが、何か寂しいですね。と思っていたら、2019年に新色が追加されていて、一応続ける気はあるのでしょうね。もちろんこれも、全部中国製です。


        シェーファー サガリス ブラッシュトクロームCT 万年筆 細字

 細身で小振りながらも、金属軸なのでそれなりに重く、私としては持ち運び用として重宝しています。ニブはサガリス専用の物で、ステンレスの硬いニブですが、シェーファーらしく書き味は滑らか。サガリスの価格帯は国産でもステンレスペンがほとんどですから、見栄えの良さと書き心地で対抗できるかもしれません。バランスも良く、キャップを挿しても挿さなくても好み次第でOK。非常に使い勝手の良い万年筆だと思います。これは私のお勧め品の一つなのですが、残念ながらこれを置いている店はあまり多くありません。頼みの(?)ヨドバシカメラでも、秋葉原と仙台にしかないようです。

 サガリスもボールペンの替え芯がパーカー互換のT-タイプなので、多くのメーカーの互換品が使えます。というか、専門店でもシェーファーのT-タイプを置いていなかったりするので、インクがなくなったら他メーカーの物を入れて下さい・・でいいのかな。


AGIO(アジオ) 生産終了品
ステンレスニブ、嵌合式キャップ、両用式 ボールペンはツイスト式

 AGIOはイタリア語で軽快なという意味。だいぶ前に生産終了しており、百貨店、有名文具店、万年筆専門店では見ないですが、ヨドバシカメラの新宿西口本店、秋葉原、梅田にはかなり揃っているようです。アジオにはアメリカ製とそうでない物(中国製?)が混在していますが、クリップ先端の両サイドにUSAの刻印があるのがアメリカ製です。

 その名の通り、気軽に持ち歩き、さっと取り出してさっと書く。そういった軽快さが売りの万年筆で、円筒形の軸は金属製ですが割と軽めで、バランス良くできています。サガリスよりも軽いので、立ったまま手帳に書くような用途でも使いやすいですね。一方で長文を書くのには不向きとは言わないまでも、もっと良い物はいくらでもあるという感じです。なのでこれは持ち歩き用と割り切って使うのがベストではないかと思います。

 ステンレスのペン先はシェーファーらしく硬い。書き味も後継品と思われるサガリスの方が滑らかで、アジオは多少ざらっとした感じです。そんなに悪い物ではないですが、もう店頭在庫しか残っていない物ですし、置いてある店も少ないので、わざわざ探してまで買って使うほどの物ではないと思います。軸色は私のはブラッシュトゴールドという、金属軸を粗く磨いた上に金メッキを掛けた物ですが、アジオにはパステルカラーの軸もあり、細く軽いこともあって女性にも似合いそうです。今のシェーファーにこのような色使いの万年筆は見当たりませんね。なお、一番欲しかったのは虹色のアジオ プラズマです。


        シェーファー アジオ ブラッシュトゴールド 上:ボールペン(中国製) 下:万年筆 細字(アメリカ製)

 アジオのボールペンはかなり細身なので好みが分かれそうですが、持ち歩いて使うのには便利です。ただこれもシェーファー品。初期装着の細字レフィルは書き出しの掠れという問題はつきまといますね。それを承知の上でないと、シェーファーのボールペンは使えません。デザインが気に入ったならば、中身をシェーファーの中字か、セーラー万年筆の18-0300に替えて使うというのはありですね。このボールペンは青の中字に入れ替えています。

 そして、2019年10月5日、ついに念願のプラズマを入手しました。生産中止品で、今まで一度も見た事もなく、諦めていただけに、大収穫でした。


        シェーファー アジオ プラズマ 万年筆 細字(アメリカ製)

 第2回東京インターナショナルペンショーで、海外から出店していたブースでこれを発見。チタンを陽極酸化して表面に酸化チタンの膜を付けたもので、膜の厚さが一様でないため、様々な干渉色が出ます。ちなみに主に女性が使うメイクアップ化粧品に配合されるパール剤も、マイカ(雲母)の表面に酸化チタンの膜を付けたもので、発色の原理的には同じです。酸化チタンは極めて安定ですし、膜の強度も高いので、意図的に磨いたりして剥がさないかぎり、この状態が続きます。派手な色に思えますが、実際に見ると、イタリアあたりのカラフルな樹脂を使った万年筆に比べたら、ずいぶん落ち着いた色に見えます。

 日本人の大好きな(?)玉虫色の万年筆。機能的にはブラッシュトゴールドと全く変わりませんが、欲しかった物だけに一瞬にして飛びついてしまいました。相手は英語しか話せない、こちらは英語が全くダメ・・ですが、何とかなるものですね。細字が3本、中字が2本ありましたが、細字3本の中から一番色の出方が気に入った奴を選び、試し書きをした上で購入してきました。色の出方はまちまちで、どれが良いか迷うのも、こういう万年筆を選ぶ際の楽しみでもあるわけです。ほとんどビョーキだな。


SHEAFFER 100(シェーファー100) お勧め品
ステンレスニブ、嵌合式キャップ、両用式

 シェーファーの正規輸入している万年筆の中ではPOPに次いで安いですが、安いこれが一番のお勧め・・そこが今のシェーファーを良く表しています。ステンレスニブの万年筆のお勧め品として、ラミーのサファリがよく挙げられますが、私は第一にプラチナ萬年筆のバランスを、第二にこのシェーファー100を挙げています。シェーファー100の良さは、インクフローが良くて書き味が滑らかなこと。ボールペンをゴリゴリと押しつけて書くクセが付いた人にはサファリの一択ですが、そうでなければシェーファー100の方が、筆圧を掛けなくてもサラサラと書けるので、書いていて気持ちいいのです。サファリも中字なら良いのですが、細字や極細字はインクフローがやや渋く、少し筆圧を掛けないと時々線が掠れることがあります。シェーファー100にはそれがないですね。ただ、売れているのは圧倒的にサファリ。サファリは大抵の文具店で扱っており、売り上げも上々。毎年出る限定カラーを集めているファンもいるのに対し、シェーファー100はどこにでもあるわけではなく、あったとしてもガラスケースの中でひっそりと目立たず、買ってくれる人が来るのをじっと堪え忍んで待っています。

 いわゆる万年筆スタイルですが、少しモダンな感じもプラスされています。でもそんなに格好良いわけでもなく、あまり目立たないというのも弱いところかな。持ってみるとバランスは良く、書き味は硬くとも滑らか。ニブは価格が倍のプレリュードやシェーファー300と同じ物で、この価格帯からすれば上々の品なのですが、やはりシェーファーらしく、基本的には武骨です。ぱっと見て良いと思えるような物ではありません。なので私は、ちょっと捻ってフェラーリ100ロッソコルサNTをチョイスしました。フェラーリのエンブレムの分、1,000円高くなりますが、フェラーリレッドを再現した赤いラッカーと、天冠にさりげなく配されたフェラーリのエンブレムがポイントです。サファリの購入を検討している方は、シェーファー100が置いてある店ならば比較検討してみたらよいかと思います。それでもサファリの方が格好いいとか書きやすいとか思ったなら、サファリを購入すればよいのですから。


       フェラーリ100 ロッソコルサNT 万年筆 細字  天冠部分にフェラーリのエンブレムがある

 一時に比べればだいぶ縮小されましたが、今でも生産・販売は続けられている模様。但し、上の写真のタイプはもうありません。


VFM(ヴイ・エフ・エム) お勧め品
ノック式ボールペン

 VFMはVibrant(生き生きと)・Fun(楽しく)・Modern(今を生きる)の略だそうで、カジュアルでもあり、それなりの高級感もあり、様々なシーンで無難に使用できるボールペンです(本国では万年筆も販売していたようですが、日本には正規輸入されていません)。価格も1,500円で、いわゆる高級ボールペンとしてはだいぶリーズナブルです。金属製のマット塗装タイプ。重量は22gと適度で、バランスも良好。持ちやすくてしかも滑りにくい、無難で割と使いやすいボールペンです。最盛期にはもっとカラフルな色も出ていましたし、フェラーリ・オフィシャル・ライセンス・プロダクツの商品も出ていましたが、現行品はスリークシルバー、ラディカルレッド、ネオンブルー、マットブラックの4色が残っているもようです。まあ、無難に使える4色は残っているので、問題はないでしょう。


        シェーファー VFM ネオンブルー ボールペン

 VFMにはシェーファー K-タイプ、黒、中字の替え芯が入っており、これは結構使えます。個人的に書き味は好きですし、細字と違って書き出しの掠れもあまり起こりません。なのでそのまま使ってもあまり不満はありません。ですが細字が好みであれば、シェーファーの細字ではなく、セーラー万年筆の18-0500か、カランダッシュのGOLIATHを入れることをお勧めします(シェーファーの細字はあまり滑らかでなく、掠れやすいので)。あるいはセーラーの太字やGOLIATHの中字(共にボール径は1.0mm)を使うのもありで、特にGOLIATHの中字は非常に滑らかです。もちろんデフォルトのままでも十分にお勧め品なのですが、決定的なのはこのGOLIATHが使えるという点です。外観は平凡なノック式なのですが、仕上げはまあまあ良く、書き味はねっとり系。替え芯をセーラーに変えると普通のボールペン、GOLIATHなら滑らか系。仕事用・プライベート用を問わず、結構使えます。カランダッシュのGOLIATHは評判の良いボールペン替え芯で、正規にこれが採用されているボールペンで一番安いのはカランダッシュ オフィスライン849。VFMとGOLIATHを両方購入しても価格に大差ありません。