U-Maの音楽館

WATERMAN


WATERMAN(ウォーターマン) アメリカ→フランス

 ニューヨークで保険外交員をしていたL.E.ウォーターマンは、ある大口契約を取り交わす席で、万全を期して新品のペンを用意しましたが、あろう事かそのペンからインクが漏れ、重要な契約書を汚してしまいます。大急ぎで新しい契約書を持って来た時には既に、ライバル会社との契約が結ばれた後でした。この苦い経験から彼は、インク漏れの起こらない画期的なペンの開発に着手。ついに毛細管現象を用いたペン芯を開発しました。1883年のことで、これが現在の万年筆のルーツです。アメリカで万年筆メーカーとしてスタートし、筆記具界に革命を起こしたウォーターマンですが、アメリカの本体は1950年代に倒産してしまい、フランスの拠点が全てを引き継いで、L.E.ウォーターマンのスピリッツを現代に伝えています(現在はフランスのブランドということで、”ワテルマン”とフランス語読みする方もいます)。フランスらしい洗練された軸デザインが魅力で、もちろん品質もしっかりしています。パーカーと同じく、ニューウェル・ラバーメイドの傘下企業です。なのでパーカー同様、ウォーターマンも価格設定は高めになってきており、少々残念です。ただ、デザイン的には相変わらず魅力的だと思います。デザインの特徴として天冠部分が斜めにカットされていたり、クリップにスリット状の穴が開けられている点が挙げられます。

 ウォーターマンの万年筆はニブが全体に硬めで軸は重めです。筆圧が高く、ペンを立てて書く人にも向きますから、初心者でも割と使いやすい物が多いです。硬めのニブを好む人にはお勧めですが、柔らかなニブを好む人からは酷評される事もあり、評価が分かれます。


CHARLESTON(チャールストン) 生産終了品 お勧め品
18Kニブ、ネジ式キャップ、両用式

 ウォーターマンの金ペンといえば、先ず名前が挙がるのがカレンで、その上にはエレガンス、エクセプションなどの高級品がありますが、カレンの下で、金ペンのベーシックモデルであるチャールストンは何か忘れられたような存在。また、ウォーターマンではオンブル・エ・ルミエールなど、複数のシリーズにまたがって同じ色使いの製品を出したりするのですが、対象はカレン、パースペクティブ、エキスパート、メトロポリタンの4シリーズで、チャールストンだけは取り残されています(もちろんこれらの内チャールストンだけが樹脂軸だということもあるのでしょうが)。チャールストンも以前は色々なカラーがあったようなのですが、今ではエボニーブラックのGTとCT(装飾部品が金色か銀色かの違い)のみを細々と販売し続けている状況です。もしかしたらウォーターマンとしては廃番にしたいけど、カレンが個性的すぎるので、オーソドックスな金ペンであるチャールストンを止めるに止められないのかも。そして、2019年にエキスパートから金ニブが発売されいよいよ・・と思っておりましたが、案の定2020年のカタログからは外れてしまいました。

 このチャールストンを中古で購入する際、たまたまカレンの細字もあったので、18Kニブの2本を書き比べてみましたが、チャールストンの方が私好みでした。ウォーターマンらしくニブのしなりはほとんど無いのですが、かといってガチガチに硬い書き味でもなく、インクがするすると出てくるせいか、やや軟らかいタッチも感じられます。一方カレンは、チャールストン以上にインクの出が良く、書き味は非常に滑らかなのに、タッチはガチガチ。ニブがかなり分厚く、首軸にがっちりと固定されているため、柔らかさを微塵も感じず、これ本当に18Kなの?って感じでした。シェーファーのインレイドニブとはだいぶ違い(シェーファーは上反り形状なので、ふわっとした感触がある)、インレイドニブ大好きな私ですら、カレンは好みに合わなかったですね(相当好みの分かれる万年筆だと思います)。上級品のエレガンス、エクセプションは使ったことがないのですが、少なくともカレン以下のシリーズ(カレン、チャールストン、パースペクティブ、エキスパート、メトロポリタン)では一番書き味が良いのがチャールストンだと思います。インクは迷いましたが、パイロットの色彩雫「深海」を入れてみました。思った通りフローが渋いとされるウォーターマンの万年筆にもピッタリ合いました。


        ウォーターマン チャールストン エボニーブラックCT 万年筆 細字

 チャールストンはアールデコ調のふくよかな軸で、名前はアールデコが流行った頃、アメリカで流行したチャールストンダンスに由来するそうです。古き良き時代の面影と現代的な要素の融合がテーマで、ウォーターマンの中では割とオーソドックスな形状ですが、それでも天冠からクリップにかけての形状にはウォーターマンらしさが出ていますし、軟らかな丸みを帯びた、スタイルの良い万年筆です。そして、キャップリングが細くあまり目立たず、代わりに胴軸の1/3くらいの位置にリング状の装飾があり、WATERMAN FRANCEの刻印があるという、個性的な処理が施されています。全体としてはオーソドックススタイルの中にも個性を演出した感じで、高級感はありますが派手さはなく、どんなシーンにも無難に合うでしょう。軸はウォーターマンとしては珍しく樹脂製ですが、ジョイント部分が金属でできているため、コンバーターにインクを充填した状態で約26gと、適度な重量感があります。書き味的にはウォーターマンの中でも一番のお勧めなのですが、ウォーターマンの万年筆がずらっと並んでいる中にあっては、あまり目立たない存在ですね。単体で見れば割と洒落たデザインなのですが、ウォーターマンの中では地味な感じもします。


PERSPECTIVE(パースペクティブ) 生産終了品
ステンレスニブ、嵌合式キャップ、両用式

 ウォーターマンのエキスパートに興味があった頃、たまたま店頭にエキスパートがインクを入れた状態で自由に試し書きできるものが置いてあったので試してみたら、書き味も割と私好み。普通ならそこでこれ下さいってなるのですが、その時は様子見。で、他の店を回ったら、そこには実に私好みのエレガントな万年筆が。それがこのパースペクティブです。特にこのデコレーション ブルーCTには一目惚れしてしまいました。でもそこでは見るだけで我慢して試し書きもせず、後日値引き販売している店に行き、試し書きをして購入しました。


        ウォーターマン パースペクティブ デコレーションブルーCT 万年筆 細字

 ちなみに2019年版のカタログに載っているパースペクティブは、上の写真とはクリップの形状が異なります(天冠部もマイナーチェンジしているようです)。ニブはエキスパートと似ていますが、パースペクティブの方が巻きが緩く、やや幅広に見え、ペン芯も異なります。書き比べると若干書き味が違い、パースペクティブの方がわずかながら柔らかく感じます。ただし、円筒形のパースペクティブよりも、中央部が膨らんだエキスパートの方が一般的には持ちやすいと思いますし、エキスパートの方が軽くてバランスも良いので、お勧めするならエキスパートです。エキスパートはやや丸みを帯びたふくよかな軸で、ブラックCTなどはクールで格好良く、高級感もたっぷりですから、ビジネスマンにぴったりだと思います(ボールペンも含めて)。一方パースペクティブはより上級品のエレガンスに似た雰囲気があり、どちらかと言えば女性好みのデザインのような気がしますが、重量が40g近くある点がちょっとネックになりますね。ということで、価格帯が似たような物(パースペクティブの方が若干高め)でもパースペクティブとエキスパートは性質が違いますので、両方手に持ってみて比較するのがよいかと思います。私にとってはどちらも違和感がなかったため、書き味の柔らかさとデザインでこちらを選びました。私のようなエレガントな(注:エレファントの間違いでは?)人間には、このようなエレガントなペンがよく似合います・・って自分で言うな!ですよね。はい、エレガントとはかけ離れた人間ですが、万年筆はこのようなエレガントなデザインがとても好きなのです。オーソドックスなブラックCTでも良かったのですが、鉄骨やガラスをモチーフにした幾何学模様が入っているデコレーションタイプをチョイスしてしまいました。

 国産品ならば金ペンエントリーモデルのワンランク上が買える価格。それでいてステンレスニブなのですから、あまりお勧めはしません。でもこの造形美にはどうにも惹かれてしまうのです。円筒形の軸に藤色に近いブルーの塗装、塗装部分とメッキ部分の絶妙な配置、そして幾何学模様。実に私好み。ステンレスのニブですから硬い感触ですが、自社インクを使用する限りはインクフローは非常に良く、滑らかな書き味です。ウォーターマンの万年筆は基本的に渋めと言われていますから、サラサラのウォーターマンか、他メーカーならばパイロットのインクを使用することをお勧めします。

 ウォーターマンの万年筆は金ニブでもかなり硬いですから、ニブの材質にはあまりこだわらず、造形でこれを選ぶというのもありでしょう。細字ですが国産の中細くらいでしょうか。私にはこれくらいが限界の太さというところです。とにかくこの万年筆は、見ているだけでもうっとりします(私は)。これ一本でウォーターマンを語れるはずはないのですが、ウォーターマンの造形美は十分に堪能できる一本でしょう。フランスの万年筆は、このように造形的な美しさを感じます。なお、現行品はクリップの形状が変わっています。私は従来の形の方が好きですが・・。

 そしてパースペクティブは、2021年版のカタログから抜け落ちました。カレンもだいぶ縮小したようで、これからはさらに、エキスパートが中心的な役割になっていくのか?


EXPERT ESSENTIAL(エキスパート エッセンシャル) お勧め品
ステンレスニブ or 18Kニブ、嵌合式キャップ、両用式

 エキスパートには胴軸とキャップを同色に塗装したエッセンシャルと、胴軸は塗装、キャップはメッキ仕様(柄入り)のデラックスがあり、デラックスの方が高級感がありますが、機能的な違いはありません。価格的にはデラックスの方が高くなります。長らくステンレスニブのみでしたが、2019年9月、エッセンシャルに待望の18Kニブが追加されました。新色のプルシアンブルーGTとアイボリーホワイトGTが18K、ブラックGTとブラックCTはステンレスと18Kがあり、他はステンレスニブという構成になっています。

 エキスパートは万年筆としては標準的なサイズですが、金属製であるため、重量は30gほどあります。丸みのある軸は握りやすく、バランスも良く、長時間使用にも対応した造りになっています。それぞれの世界で活躍する「エキスパート」にふさわしく、プライベートはもちろん、ビジネスからフォーマルまで、時と場所を選ばず使えるセンスの良いアイテムで、そこが人気の秘訣となっているのでしょう。


        ウォーターマン エキスパート エッセンシャル プルシアンブルーGT 万年筆 細字

 これがそのフォルムです。いかがでしょうか? 私はとても洗練されたデザインだと思います。

 ステンレスニブはガチガチですが、インクの出はスムースで、滑らかさは上々。18Kニブは少ししなやかさがあり、書き味はより上質で、個人的には18K推しです。ただ、硬いステンレスニブを好む人も多いでしょうから、もしエキスパートの購入を検討するのであれば、18Kタイプとステンレスタイプの両方を書き比べてみてはいかがでしょうか。あるいは価格面でステンレスニブの一択というのもありでしょう。いずれにしても、ビジネスシーンに相応しい万年筆としては一番の推しですね。もちろんボールペンもなかなか格好いいですよ。


METROPOLITAN(メトロポリタン) 生産終了品(現行品はメトロポリタン エッセンシャルなど)
現行品はビジネスにお勧め

ステンレスニブ、嵌合式キャップ、両用式 ボールペンはツイスト式

 「世界中のどこの都市にも似合い、時空を超えて愛される」をコンセプトとしたシリーズで、シンプルな中にもモダンな要素をふんだんに盛り込み、細身で洗練された、まさに都会的なデザインが特徴。中でもキャップの天冠部分が斜めにカットされている点が、なかなか洒落ています。写真に写っているのは”メトロポリタン”で、現行品の”メトロポリタン エッセンシャル”よりも、首軸と胴軸の間のリングが細いです。ただ、ニブは同じですし、外観も細かな違いはあっても大きく変わるところはありません。

 ステンレスのニブはウォーターマンらしくガチガチです。パースペクティブとエキスパートはニブがよく似ていますが、メトロポリタンはこれらよりも小さくてエラの張った形状で、さらに硬い感じがします。硬いだけに手帳に速記したりしてもびくともせず、ハードに使い倒せる万年筆です。価格帯は国産の金ペンエントリーモデルと同じランクなので、これよりも国産の金ペンをお勧めしますが、デザインでこれを選ぶというのはありでしょう。知的な印象があり、なおかつ高級感はあってもべらぼうに高い物には見えないので、ビジネスシーンで幅広く使える万年筆だと思います。スーツのペン差しからこれをさっと取り出して書くと、格好いい・・かもしれません。書き味自体はエキスパートやパースペクティブの方が上だと思いますが、メトロポリタンもガチガチに硬い以外には特に不満のないものです。家で使うなら国産の金ペンの方がお勧めですが、仕事で使うならスマートでよいと思います。

 こちらも自社インクではフロー良好ですが、他社のインクを入れるとフローが渋くなり、インク切れを起こすこともあるようです。最初はペリカンのブルーブラックを入れたのですが、あまりにインク切れするので、ウォーターマンのミステリアスブルーに入れ替えたら、それ以降はスムーズにインクを供給しています。


        ウォーターマン メトロポリタン(旧タイプ) 上:メタリックブルーCT 万年筆 細字 下:ブラックCT ボールペン

 ボールペンも先代モデルのブラックCT。現行モデルと見比べてすぐに分かるのが軸中央部のリングの太さで、先代モデルはだいぶ細いです。その他、クリップの形が若干違うなど、細かな違いはありますが、大まかな形状はほぼ同じ。割と細身で適度な重量感があり、万年筆同様高級感がありながらスマートで嫌味無く、ビジネスシーンにもよく似合います。ウォーターマンのボールペンは替え芯が独自規格で、互換性のある他メーカー品があるかもしれませんが、ほぼウォーターマンの替え芯を使うことになるでしょう。でもウォーターマンの替え芯は割と滑らかで、掠れもあまりなく使い勝手の良い物なので、普通に受け入れられる物だと思います。高級ボールペンの中では比較的手頃な値段ですし、フレッシュマンにも似合うアイテムですから、入社の際に購入したり、あるいは就職祝に贈るのも良いでしょう。私は基本的に筆記具を贈るのはあまりお勧めしていないのですが(贈るのであれば本人に試し書きをしてもらうのが理想)、メトロポリタンのボールペンは割と多くの人に、無難に受け入れられると思います。替え芯も高級筆記具を置いているお店であれば入手できるでしょうし、今ではネットでも注文できますからそんなに困ることはないと思います。

 ちなみにこの個体は、リサイクルショップで1,480円(税抜き)で購入した物。中古とは言っても未使用品(新同品)で、ほぼ無傷ですから掘り出し物でした。


 なお、チャールストンも、パースペクティブもメトロポリタンも、ニブにはハート穴が開いていません。実はウォーターマン製品のほとんどはハート穴が開いていないのです。ハート穴はインクと空気を交換するために必要とする記述も見られます(確かに空気穴を兼ねた万年筆も多い)が、ペン芯のどこかに空気穴を確保しておけば、必ずしも必要ないのです。ハート穴の役割はニブのしなりを調整することで、その大きさや形がニブのしなりに大きく影響するのです。ハート穴の無い万年筆はしなりが少なくハードな感触になりやすいです。